第三話 「説明」
なんとか危機的状況を脱した紅蓮とルージュ
しかし、紅蓮の頭の中は混乱していた。
ここはどこなのか、何故こんなことになってしまったのか。
紅蓮は、ルージュという名の少女に、疑問をぶつける。
『ついにこの時がやってきたのだ!歴史の動く時が!!赤髪の勇者が現れるぞ!!そしてその勇者は赤髪の少女を導くであろう!いずれその2人は、世界を大きく変える役割を担うことになるだろう!』
予言。古来より存在している神秘的現象。
予言者の多くは、神から伝えられた言葉を人々に伝える役割を担っているという。
現代社会において、恐らく予言を心の底から信じている人間は、そういないだろう。
科学技術が発達した世の中では、科学的根拠を用いた予測ができるからだ。
しかし、それがファンタジーの世界ではどうか。
人々は神秘の塊である魔法を使う。エルフや亜人種といった存在、ドラゴンや魔物という人知を超えた生き物すら存在する。そんな世界なら、もしかしたら予言というのは人々の生活を大きく左右するものなのかもしれない。(当たり外れは別として)
さて、ルージュという名の赤髪の少女もその予言に大きく動かされた1人である。文字通り命をかけて立ち上がった彼女は、自らの運命を変えるために行動を起こした。
しかし、決して暴走している訳ではない。彼女には望みがある。その望みを果たすまで、倒れるわけにはいかないのだから---
〜Side ルージュ〜
青の国で、赤髪の勇者が現れるだろうという予言が出されたことは、そこから離れた所に住んでいる私の耳にもすぐに入ってきた。
その知らせを聞いた時、私はそれに賭けてみようと思った。
目的を果たす上で私1人で出来ることは限られている。それに立場上、いつ殺されてもおかしくはない。ならば、たとえそれが根拠のない予言だとしても、それに賭けてみる価値はあると思った。
この世に赤い髪をしている女は私だけ。ならば、その勇者を召喚できるのは、私しかいないはず。
今は無力な私でも、勇者の力を借りれば、恐らくきっと---
(side out)
「貴方、本当に勇者な訳?」
「はぁ?」
危機的状況をくぐり抜けたルージュと紅蓮は、薄暗い森の中を並んで歩いている。
両者とも複雑な表情を浮かべているが、その顔には酷く疲れが表れている。先ほどまで命を狙われていたのだから当然といえば当然だが。
「だって…どう考えても勇者には見えないし。確かに髪は赤いけれど。それに貴方、弱そうだし。」
「待てコラァ!いきなり失礼やなおい!?」
「あらごめんなさい。馬鹿にしているつもりはないのよ?」
「そういうやつが1番タチ悪いっちゅーねん…でも確かに、情けないところ見せてもうたな…って、いやいや待て!ちゃんと説明しろって!俺まだお前の名前しか聞いてないし!勇者ってなんやねん!?」
「?貴方、この前の予言知らないの?青の国で久しぶりに出された予言。余りに衝撃的だったから瞬く間に広ま「いや待て待て待て待てちょっと待て!」
紅蓮はルージュが話している途中で無理やり言葉を遮る。どうも彼女の言っている事が理解できない。
「アオノクニってなんやねん?青森県の事か??」
「アオモリケン?なによそれ。そんな国知らないわよ?」
「…一応聞いておくわ。日本って知ってるか?東京は?大阪は?」
「???ニホン?トウキョウ?オオサカ?それが貴方のいた場所の名前なの?聞いた事がないわね…違う大陸から召喚されたのかしら?」
紅蓮は、先程から止まらなかった指の震えがさらに増したのを感じていた。
そもそも、先程の癒しの魔法を見た時点で、どう考えてもこれはおかしいとは感じていた。現実世界で起こりうる事でなはい。
紅蓮は漫画やアニメはよく見る方なので、異世界ファンタジーというジャンルがある事は知っていた。
それと照らし合わせて、頭の中で、『これはいわゆる異世界に召喚された状態なんだろうな』という風にぼんやりと考えていたのだ。
だが、『理解』はしていなかった。
どう考えても説明がつかない。紅蓮はついさっきまで、大坂城内にいた。それが急に異世界とやらに召喚され、矢で腕を貫かれ、魔法を見せられた、と。
そんな事、急に体験させられたとして、簡単に人は理解し、納得できるのだろうか?
むしろ紅蓮は、理解したくなかった。この状況を、認めたくなかった。
それにこれは夢の可能性もある。何かの弾みで大坂城内で転び頭を強く打ち、悪夢を見ているのかもしれない。
しかし、
(認めたくはない、認めたくはないが、でも俺の手にあるこれは…)
紅蓮の右手には、日本刀が握られていた。大坂城内で拾った、日本刀。これが紅蓮の手にあるという事は、
「夢じゃない、っちゅー訳やな…」
ここまで証拠が揃ってしまっては、認めざるをえなかった。
頭の中は依然モヤモヤとしているが、自分は異世界に召喚された、という事実に、紅蓮は一応の理解を示した。
「どうやら俺はホンマに異世界に召喚されてしもたらしいな…。ホンマ、とんでもないことしてくれたで…。」
「は?異世界?何を言っているの貴方。」
「何を言ってるもなにも、俺はこことは違う世界の人間や。」
「それは大陸が違うと言う意味でしょ?」
「いや違う。俺が元いた世界に魔法なんてそもそも存在せん。いきなり弓矢で殺しにかかってくるような野蛮な人間もおらん。」
「魔法が存在しない…?変ね、そんなの聞いた事がないわ。」
「だからこの世界とはちゃう所やって言うとるやろ…そもそも召喚したのお前やんけ。それも魔法ちゃうんか?」
紅蓮は足を止め、強い口調でルージュに問いただす。
「ええ、そうよ。正確には、エンシェントという道具に頼った魔法なんだけどね。召喚魔法は、個人が杖で唱えてもできないから。」
ルージュはごそごそと鞄から小さな石を取り出す。
「これがエンシェントよ。召喚士がこの石に魔力を籠める特殊な儀式を行うの。そうすると、どこでも召喚魔法が疑似的に使えるようになるのよ。一回きりだけどね。」
ルージュはそう言うと、コロコロと手の中でエンシェントとやらを弄ぶ。
「この召喚魔法はね、今自分に一番必要なものが召喚されるようになっているの。例えば…聞いた話によると、どうしても今すぐ手紙を出したいと思った人がこの召喚魔法を使ったら、伝書鳩が召喚されたらしいわ。」
「…なぁ、そのエンシェントとかいう道具、なんぼくらいするん?」
「値段?そうねぇ結構高価よ?エンシェントは籠める魔法によって値段変わって来るけど…召喚魔法のは40ルークぐらいかな…質のいい盾と短剣が一緒に買えるくらいの値段かしらね?」
「いやこの世界の通貨とか知らんけどそれってそこそこ高価やなおい!?もったいないやろそいつも!郵便出しに行けや!」
紅蓮はここぞとばかりに綺麗なツッコミをかます。
「知らないわよそんなの…まぁ、ともかくそういう事。私はこのエンシェントを使って貴方を召喚したのよ。」
「ふぅん…お前、追われとったんやろ?それでその状況を打破しようとして、召喚魔法使ったっちゅー訳か?」
自分のツッコミが軽く流されたことに内心傷つきながらも、紅蓮は質問を続ける。
「そうね。本当は家に帰ってからエンシェントを使うつもりだったのよ。それが、共和国から帰る途中に賊に襲われてね…。一か八かであの状況で使用したのよ。勇者が召喚されると信じていたからね。」
ルージュはエンシェントをカバンに直し、再び歩き始める。紅蓮もそれに合わせて痛む足を無理やり前に押し出す。
「その勇者ってのが気になるんやが…お前のさっきの説明を聞いている限り、俺はお前が今一番必要としている人間で、その俺が勇者って事になると思うんやが?」
「そうなるわね…。貴方、青の国の予言は知らないと言っていたわね?」
「知らん。あと青森県も知らん。」
「だから何よアオモリケンって…。ここから少し離れた所にね、カエルラ王国と言う国があるの。通称は青の国。そこには有名な予言者がいてね。その予言者の元には常に人が集まるそうよ。自分の人生に予言を求めているのでしょうね。」
「…そういうのは、どこの世界でも一緒らしいな。」
「お金を持った旅行者とかが他国からその予言者に会いにやって来てくれるのだから、国としてもありがたいのかもね。特に青の国に対して悪い予言を出した話とかも聞かないし。」
「ついでに宿屋や飯屋で金落として行ってくれたらラッキーってか…経済効果ありそうやなぁ…」
「それで、その予言者がついこの前、新しい予言を公に出したの。赤髪の勇者が現れ、赤髪の少女を導くだろう、と。普段予言なんて気にもしないけど、それは私にとって聞き逃せないものだったわ。」
「赤髪の勇者…赤髪の少女…あ…」
紅蓮はその説明を受け、ようやく納得する。自分は今、髪を赤色に染め上げている。
「だから俺が召喚されたって訳か…。でもお前、赤髪の男なんて俺以外にもこの世界によーけおるやろ。なんで俺なんや…」
「いえ、いないわ。少なくともこの大陸には。赤い髪をした人間は、今は男女含めて私だけなの。」
「は?なんやて?」
紅蓮は驚き素っ頓狂な声をあげてしまう。魔法があるような世界だ、赤髪の人間なんていくらでもいるだろうとどうしても思ってしまう。
「私はてっきり貴方はこの大陸とは違う大陸から召喚されたのだと思っていたわ。こことは違う大陸なら、可能性は低いけれど、もしかしたら赤い髪をした人がいるかもしれないし。異世界から召喚されたなんて、聞いたこともなかったしね。そもそもそんなもの存在しないと思ってたわ。でも…そう。異世界、ね。なるほど、納得だわ。それだと確かに赤髪の人間が召還されてもおかしくないわね。」
ルージュは何やら一人で色々と納得しているようだが、紅蓮にはまだ疑問が残っている。
「待てや、この大陸に赤髪の人間がお前だけやってどういうことやねん?そもそもなんでそんな事がわかるんや?」
「………」
ルージュは再度足を止め、考え込む。言うか言わないか、迷っているようだった。
しかし、意を決したのか紅蓮の方に向き直り、キュッと真一文字に結ばれた口を開く。
「私は、王族なの。」
「え…?王、族…?」
王族とは、あの王族の事だろうか。王様とかお姫様とか…紅蓮は予想もしていなかった言葉に驚きを隠せない。
「ええ、そうよ。正確には、もう今は王族の座は剥奪されちゃって、逆に命を狙われる立場なんだけどね。」
「え、なんで…」
ルージュは神妙な顔で、一言一言丁寧に言葉を紡いでいく。
「今は、簡単に説明するわね。大昔、私のご先祖様がこの大陸の真ん中に国を創ったの。名はフラメール王国。赤の国、とも呼ばれていたわ。」
「フラメール王国…お前の名前はそういう事か…!」
ルージュ・ド・フラメール。フラメールをかざすその名は即ち、ルージュがフラメール王国の一族の血を引く人間だということを表していた。
「そう。…でも約400年前、大規模な戦争があったの。大陸全土を巻き込んだ、大きな戦がね。その戦の結果、私のご先祖様…時のフレメリア女王陛下が一番の戦争犯罪人として、裁かれることとなったわ。」
「…」
紅蓮は、ルージュの話を真剣に聞き続ける。ルージュの顔には怒りや悲しみといった様々な感情が滲んでいる。
「どんな歴史書にも、フレメリア女王陛下が戦争の諸悪の根源だと書かれているわ…。でもね、フラメール王国は、死者をほとんど出していないのよ…自国の被害も最小限に抑えてる…相手の国に攻め入ってもいないのよ!?それにそもそも何度も何度も、戦争を回避しようとしているのよ…!それは無念の中散っていった騎士の人たちや、部下の人たちが必死に遺してくれた書類にも書いてある…!僅かに手元に残ってる当時の他国の公文書にもそれは記されてる!なのに、それなのに…!」
「ルージュ、もうええ。もうやめとき、イライラするだけやろ。」
紅蓮はポンポン、とルージュの肩を軽く手で叩き、できるだけ優しい声で告げる。
ルージュの手は怒りで震え、その目には涙が浮かんでいる。これ以上ヒートアップすると恐らく手が付けれなくなるだろう。
(戦争…正義と正義のぶつかり合いっちゅーのは、必ず勝つ側と負ける側がおる。負けたらしまいや。)
紅蓮は口には出さないが、心の中で呟く。大坂の陣も、豊臣と徳川が正義を掲げ、ぶつかり合い、そして豊臣が散っていった。悲しい話だと紅蓮は一人うんうんと頷く。
そもそもルージュの言っていることが正しければ、それはもう戦争ではなく他国による侵略に近い。…確かになにか裏がありそうではある。
「…ごめんなさい、取り乱しちゃったわね。そう、髪の話だったわね。実は、フラメールの血を引く人間だけが、この世で赤い髪をしているのよ。この髪は、私がフラメールの血を引いている証拠になるの。理由を話すと長くなるわね、神話とかも絡んでくるから。」
ルージュと紅蓮は再び歩き出す。
「なるほど、そういう訳か…。よーするにお前はその赤髪王族の末裔で、今も命を狙われる立場にあると…そういうことやな?」
「ええ。そうなるわね。」
「それはそれは…えらいこっちゃやなぁ…」
実際の所、紅蓮はルージュにどんな言葉をかけていいのか思い浮かばなかった。
おそらく、事実はともかく歴史上戦争犯罪人の末裔として、今も悲惨な待遇にあるのだろう。
そしてその環境を打破するために、勇者とやらの力が必要なのだろう。
「…お疲れ様、疲れたでしょう。着いたわ、私の家よ。」
色々と話しているうちに、どうやら目的地に着いたらしい。
まだまだ聞きたいことは沢山ある。この世界の事、魔法の事、そして、ルージュ本人の事。
これから先、彼女がどうしようとしているのか。それを聞かなくてはいけない。
「…おう」
とりあえず紅蓮は、ルージュに従い共に家へと向かった。
続く
クソ雑魚更新ですみません。多分気が向いた時にしか更新しません…。