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第二話 「逃亡」

大阪城内にいたはずの紅蓮。

気が付けばそこは、見たことのない世界。

見るからに異常な光景に、紅蓮は--

状況を整理したい。

というか、何がなんだか分からない。


俺はさっきまで、大阪城内にいたはずだ。それが何故か今は、うす暗い森の中にいる。

城内で逃げている途中、眩しい光が自分の体を覆ったと思ったら、次の瞬間、気付いたらここにいたのだ。

一体なぜ?どうしてこんなことに?

紅蓮の頭の中は真っ白になっていた。


周りには薄汚い恰好をした男達が立っている。まるで汚物を見るような目で紅蓮を睨む。


どう考えても普通ではない。異常事態だ。


「おい…見ろよあいつの髪色…嘘だろ…。」


「まさかあの予言は本当だったって訳か?…馬鹿馬鹿しい。」


「ちっ…だから早くあの小娘は消しとくべきだったんだよ。おいお前ら!やっちまうぞ!」


男達が何か言っているが、理解できない。聞いたことのない言語。紅蓮の不安がさらに膨らむ。情けないが、泣きそうになる。

そうしている内に、凄む男達が一斉に腰に差していた剣を抜く。紅蓮は瞬時に理解した。アレは決して偽物なんかではない。

本物の凶器だと。


「は、はは…なんやそれ…。なぁ、ちょっと待ってくれよ。落ち着こうや、な?話し合えば分かり合えるって!」


紅蓮は何とか口から言葉を発するが、自分が何を言っているのか全く実感が湧かなかった。

そもそも自分の言っている言葉は奴らに通じているのだろうか?

足はガタガタと震え、指も小刻みに震えている。

心臓が握られているかのような感覚---まるで、崖に立たされ、今すぐにでも

突き落とされそうな感覚を紅蓮は覚えていた。


「俺は別にあんたらに危害加えるつもりなんかねぇよ!だから話し合おうや!そうすれば」


思いついたことを口から出まかせで言っている最中、紅蓮は自身の体にわずかな振動を感じた。

腕に鈍い痛み。ヌルっとした不快な感覚が腕を伝う。


「…あ?あ、あ、あ、あ、あ、うああああああああああ!!!?」


腕に、矢が刺さっていた。傷口から血が溢れる。痛みと衝撃で紅蓮の心は潰されかかっていた。


もはや何も考えることはできない。今起きている現実を認めることもしたくない。

度重なる悲運の所為で幼児のように声をあげることしかできなくなった紅蓮。後は殺されるのを、

待つだけ、


しかし、


「しっかりしなさい!!!逃げるわよ!!!」


少女の一声で何とか紅蓮は心を繋ぎとめる。


少女は叫ぶとともに紅蓮を引っ張り走りだす。

この女の言葉も理解はできない。が、言葉は分からなくとも、今の紅蓮にはその手助けが何よりの救いの手だった。

兎も角逃げる。逃げなくてはいけない。情けない、カッコ悪い。そんなことは今どうでもいい。命がなくなれば、もうどうすることもできないのだから。紅蓮は崩れ落ちそうになりながらも少女と懸命に走る。


石に足を引っかけ顔からこける。ツタにつまずき膝を強打。だがそんな事は関係ない。

生への執着心と言うのは凄いもので、体を駆け巡る痛みも、恐怖も、不快感も消し去って、

紅蓮をひたすら走らせる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



一体どれくらい走っただろうか。大量分泌されたアドレナリンのおかげで、時間を忘れて走る事ができた。しかしそれももう限界。先ほど矢で貫かれた腕や、体中の擦り傷の痛みで足が止まる。


「ハァッ、ハァッ、ぐっ!もう、限界や…。」


体力、気力共に限界に達した紅蓮は倒れこむ。追手が追いつく気配はない。うまく撒いたのだろうか。


そしてようやくここで初めて、紅蓮は少女を見る。


紅蓮ほどではないが手傷を負い疲弊はしているが、透き通るような白い肌が眩しい美しい顔、くりっとしていて可愛らしい瞳、燃え上がる炎のような赤色の美しい髪、豊満な胸。


まるで女神のようだと紅蓮は思う。


「綺麗やな、あんた…。」


紅蓮は思わずそう呟く。


こちらを見て何か考えている少女。おもむろに木の棒を取り出すと、それを紅蓮に向け、

一言二言呟く。


「…どう?これで、理解できるんじゃない?私の言葉。」


驚く事に紅蓮は、彼女の言葉が理解できるようになっていた。


「嘘…やろ?さっきまで何言っとるか全然分からんかったのに…ちゃんと理解できる…。」


紅蓮は驚きを隠せないというような目で少女を見る。


「変なイントネーションね…。まぁいいわ。とりあえず、ひとまずここまで逃げれば大丈夫でしょうから、傷を治すわ。見せて。」


少女は紅蓮の腕を掴むと、刺さっていた矢を無理やり抜き出す。

矢が刺さっていたおかげで血が噴き出す事はなかったが、それを引き抜いた所為で血が溢れてくる。


「ぐっ!あっ!おま…!なにすんねん、そんな一気に抜いたら!」


「黙って」


紅蓮は少女に抗議しようとするが、少女の迫力に押され黙り込む。


「神よ、この者の傷を癒し賜え---【サーナーティオ】」


少女が杖を構えそう唱えると、緑の淡い光に紅蓮の腕が、そして体全体が包まれる。

紅蓮はまるで、風呂に浸かっているかのような感覚に襲われた。体中が温かく、

そして癒される気持ちで満たされる。


「おいおいマジかよ…傷が…塞がって…何事もなかったかのようになっとる…」


光が収まると共に、紅蓮の体の傷は全て治っていた。勿論、腕の傷もだ。


「サーナーティオ…癒しの呪文よ。この呪文なら、骨折位なら治せるわ。」


少女はそう言いながら、自分の体にも同じ呪文を唱える。みるみるうちに傷が治っていった。

なんとか追手から逃げきった事、そして、傷が一瞬にして治った事で、紅蓮の心にようやく安堵の気持ちが訪れる。色々な感情が胸に立ち込め、また泣きそうになるが、なんとか堪える。


「すげぇ…一気にファンタジー要素入ってきたな…。こんなん見せられたら、異世界に召喚されたって言われても納得してまうわ……って、そうや!!!ここどこやねん!?んでもってお前誰や!?」


「質問は一つずつにしてほしいわね…。まぁいいわ。貴方面倒くさそうだし教えてあげる。

私の名はルージュ。ルージュ・ド・フラメール。貴方は?」


「…紅蓮。不知火 紅蓮」


ここに、赤と赤が巡り合った。


続く。



裕也君は多分もう出てきません。


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