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第一話 「召喚」

この物語は、異世界で主人公が赤備えの軍団を作るために奔走するお話。


主人公は、もしかすると真田幸村になれるかもしれない。もしかすると、すぐに殺されてしまうかもしれない。


彼はどちらに転ぶか?それが分かるのはまだ、先の話である。

「ふわぁぁ…ねむ…。」


西暦2018年9月1日。日本、大阪。


日本第2位の都市である大阪の、そのど真ん中で、髪を真っ赤に染めた男がそう呟く。


「なーーーーんで9月1日が始業式やねん?意味わからんわ!」


長身に筋肉質な体型、しかしその恵まれた体型が台無しになるように身体をだらんとさせ、足を組み、電車の椅子に座っている。


「なんや紅蓮頭おかしなったか??そりゃあお前、今日9月1日やからやないか?どこのガッコもそうやろ。」


「はは、そりゃそうやな。ってそんなん当たり前やないか!!俺が言うとんのはそういうことちゃうぞ裕也!なんていうかなぁ、せめてこう、もうちょっと9月の中旬からとかにして欲しいと思わんか??8月が終わっていきなり学校とかヤル気でぇへんやろ?」


紅蓮と呼ばれた男が、ガバっと身体を起こし、ツッコミを繰り出す。


「あー…せやなぁ。そう言われてみるとそうかも。大学とかやと中旬スタートのガッコも多いみたいやで。中には10月以降に始まるガッコもあるとかないとか…。」


それに対して、冷静な返しをする男。むさ苦しい紅蓮とは対照的にクールで爽やかな感じの男である。裕也と呼ばれたこの男は紅蓮の親友で、基本的に行動を共にしている。


「えっ、ホンマかいな!…ええなぁ、はよ大学行きたいわぁ。」


「そんなこと言うてお前、受験大丈夫なんけ?皆もう必死に受験勉強しとるんやで。お前、ずっと道場で木刀振っとるだけやん。それで大学受かるんか?」


「やかましいわ。俺にとっては木刀振り回すことが受験勉強なんや。」


「どんな受験勉強や…。お前が剣道部にでも所属してたら、それで推薦もらって大学行けたかもしれへんのにな。まぁそんなアマないんやろーけど。」


「それ言うの何回目や?もうええって。それに俺がやりたいのは剣道やのーて剣術やし。」


「わざわざガッコ終わってから剣術の道場通ってるもんなお前。まぁその2つ何が違うんか俺には分からへんけど。お前めっちゃこだわるよなそこに。そういえばなんで剣道やのーて剣術やろうと思ったん?」


「そりゃお前、剣術の方がカッコええからに決まっとるやんけ。何となくやけど。」


「…なんやそれ。そんな理由かいな…。聞いて損したわ…。」


「まぁホンマは色々と理由あんねんけど…ほら駅ついたで。降りよ。話の続きはまた今度。」


電車が目的地に着いた事をいい事に、紅蓮は話を切り上げ急いでドアまで走る。


大阪の中心、梅田から環状線で数駅。学校の最寄り駅に着いた紅蓮達は、まだまだ暑さの残る中、ダラダラと通学路を歩く。


「あっついなぁたまらんわぁ。もう9月入ったのになんでこんなに暑いねんアホちゃう?」


学校まで続く長い道。遠くには陽炎がゆらゆらと揺れているのがわかる。紅蓮は少しでも気を紛らわせるために口を開く。


「9月1日って、ほとんど8月32日みたいなもんやろ。だからまだまだ暑いんやで。知ってたか?」


「小学生みたいな理論やめーや…。そういえばこの前お前に借りたゲームでも、8月32日ってでてきたな…。現実じゃ起こりえないって分かってても、なんかワクワクするよな。」


「世間は今日を9月1日って言ってるけど、ホンマは8月32日なんやで。知ってたか?」


「あーもうやめようこの話!ややこしい!お前ややこしい!ただでさえ暑いのに余計イライラする!」


頭をガリガリと掻く紅蓮の横で、裕也はケラケラと笑う。


「あ、そういえば。お前今日アレ行くんか?大阪城の刀剣博覧会。今日の夕方やるんやんな?」


「お、よう知ってんな裕也。お前絶対興味ないおもてたのに。」


「いや、興味はないよ。言うただけやし。」


「なんやねん…。でも一緒に行ってくれるんやろ?」


「いや行くわけないやん。興味ないのに。」


「なんやねんホンマ…。今日バイトか?」


「いや、デート。」


「なんやねんホンマ!!!もうええ帰るわ!」


「落ち着け落ち着け。ほら、もう学校やで。」


イラつき帰ろうとする紅蓮を裕也は諫める。


「ホンマ腹立つわ…なんで俺は一向にモテへんのにこいつはめっちゃモテるんや?こんなんおかしいわ。許されへんわ。小早川の東軍への寝返りくらい許されへんわ…。なぁ、なんでお前は…」


ブツブツと呟きながら、裕也に一言文句を言ってやろうと紅蓮は振り返るが、


「裕也君おはよーっ!今日もカッコいいね!あ、今日の放課後時間ある??」


「裕也君おはよう!夏休み楽しかった?今日一緒にお昼食べない?」


「裕也君、今日髪の毛ちょっとパーマあててみたんだけど、どうかな?」


そこには学校の女子に囲まれた裕也の姿。


「もう、ええわ…。なんか、もう色々どうでもええわ…。」


呟いた紅蓮の目には、一粒の涙が浮かんでいた。


因みに紅蓮がモテない理由は女子曰く、「怖い」から、らしい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


始業式を終えた紅蓮は、一人帰路につく。


約一ヶ月半ぶりの学校。学校自体は当然何も変わりはないが、生徒たちは夏を過ごした事で

色々な経験をしたせいなのか、夏休み前とは少し違って見えた。


特に…男女関係。少し前までは単に仲良さそうに見えた男女がカップルになっているなど、

やはり夏というのは異性の仲を変えるらしい。


紅蓮は決してボッチな訳ではない。むしろ友達は非常に多く、夏休みに友達と色んな所へ

遊びに行っている。しかし、女子とはどこにも出かけていないのだ。


「くっそ…あいつ絶対童貞卒業したよな……あーー腹立つわ…。」


先ほどまで教室で下ネタを言い合っていた奴も、廊下で久しぶりだな!と言いあいながら肩を組みあった奴も、この夏で童貞を卒業したのである。現実は厳しい。非情である。


「ん?あの服カッコええな…」


そう呟く紅蓮の目の前には、商店街にある服屋の店頭に飾られた秋物の服。

赤を基調に、それを活かすように黒の模様が控えめに入っている。


紅蓮は何より、「赤」が好きだ。


しかし実際に赤を好んで身にまとう男性はそう多くはない。


小学生のランドセルでも、女子は赤で、男子は黒。もしくは青。


その後も赤は女性は多く身につけることはあるが、男性が身につける赤というのは、服というよりも、

むしろワンポイントのアクセサリーの方が多いのではないだろうか。


しかし、紅蓮は身の回りのもの全てを赤で統一するくらい赤が好きだった。


服も、靴も、携帯もカバンも文房具も、赤の物が多い。つい最近は髪まで赤に染めた。


…さすがに服、ズボン、靴の3つを赤で揃えることは変なのでしないが。


なぜ、紅蓮がそんなに赤に拘るのかと言うと---


「お!この歴史本はもしかして…」


紅蓮は服屋を後にし、隣にある本屋の店頭で足を止めた。店頭に置かれた本の表紙にはは、


「真田様!!」


真田幸村。大坂の陣において、徳川家康を自害寸前まで追い詰めたとされる武将。


おそらく日本において、信長、秀吉、家康に次いで知名度が高いであろう幸村。


紅蓮はこの真田幸村を、誰よりも尊敬していた。


子供のころに本で見た、幸村の活躍ぶりがどんな英雄譚よりも心躍ったのだ。


それから紅蓮の心には、常に幸村がいる。


真田と言えば、赤備え。


人によっては、元祖である武田の赤備えや、井伊の赤備えの方が知名度が高いだろう。と言うかも

しれないが、そんなこと紅蓮にとってはどうでも良かった。


ではなぜ真田の赤備えに惹かれるのか?と問われると、返答に困るかもしれない。


だが、恐らく紅蓮はこう答えるだろう。


「カッコいいよ。カッコいいんだよ何よりも。真田様は。真田の赤備えは。」


ポツリと、紅蓮はそう呟いた。


兎も角、紅蓮の赤好きの一番のルーツは真田幸村にあった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


家に帰宅した紅蓮は、着替えをし、刀剣博覧会のチケットを持ち、家を出る。


紅蓮の家から博覧会が開かれる大阪城まで、約30分。


電車の中で、紅蓮は博覧会の情報をスマホで見ていた。


村正、政宗…名立たる名刀が約一週間公開されるこの博覧会。初日ということもあって

中々の込み具合が予想されている。


「ま、しゃーないわな…ホンマは行くかどうか迷とったけど…折角やもんな…」


最寄り駅につき、大阪城までの道のりを歩きながら、紅蓮はどうやって博覧会をまわるか考えていた。


「村正は絶対見たいし…あとは…お、着いた着いた!」


考えている間に大阪城に到着する。紅蓮の目当ての刀がある場所は、天守閣。


チケットを受付に渡し、紅蓮は大阪城内に入る。


予想通り凄い人である。刀好きってこんなにいるもんなのか?と紅蓮は思う。


最近刀が擬人化する作品が人気だと聞く。それの影響も大きいのかもしれないが。


流れに乗り、目当ての刀がある天守閣まで進む。


その最中、


「うわ!なんや!?」


「おいおい!押すなや!危ないやろ!?」


「なんや?あいつ暴れとるんちゃうんけ!」


前の方が騒がしい。こうなっては人間と言うのは厄介だ。


実際に暴れている人間なんていなくても、一度そういう事を言い出す人間がいると

瞬く間に広まってしまう。


「おいおいどないしてんねん…。誰かがこけただけちゃうんけ…」


紅蓮は呆れたように呟くが、次第に騒ぎは大きくなっていく。


「え?なに?ホンマになんかあったん?…うおっ!!」


ドンッ!と強く押された紅蓮は、横にあった扉にぶつかる。すると、なんとその扉は

クルっと一周し、紅蓮は違う空間に放り出された。


「嘘やろ!?なにこれ隠し扉!?いやワクワクするけど…え!?マジで!?」


混乱しつつも状況を飲み込んだ紅蓮は、よいしょと立ち上がる。

目の前は真っ暗。扉は押しても引いても動かない。…なぜさっきは動いたんだ。


「しゃーないなぁもう。これ誰かに見つかったらどない説明したらええねん。」


ボヤキながら紅蓮は出口を求めて歩く。微かに前方から光が見える。


「ああ、あそこから出れそうやな…。うおっ!?痛!!」


早歩きで進もうとした矢先、紅蓮の足に何かが当たる。

紅蓮はつま先をさすりながら、その何かを拾う。

暗くてよく見えないが、ずっしりと重く、長いものだ。柄?みたいなものもある…。ん?


「え、これって…まさか…。」


日本刀…。そう呟こうとした矢先、


「おい、誰かそこにいるのか。」


光の方から声が聞こえる。ヤバい、そう思った瞬間。


「「あ」」


声が重なる。懐中電灯で照らされた紅蓮。


確かに運が悪かった。人に押された挙句隠し扉に引っ掛かり、落ちていたものを拾っただけ。


だが、第三者がこの状況を見たらどう思うだろうか?決まっている。


「お前なにやってんだあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


「うおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!?」


怪しいに決まっている。故に、紅蓮は逃げる。来た道をひたすら逆に。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


同じ時刻。


全く違う場所で。もはや地球でもない、この全宇宙の中、どこかにある星で。


似たような状況に追い込まれている少女がいた。


しかしこの少女は、追い込まれて逃げていると言っても、紅蓮の状況とは意味合いが全く違う。


文字通り、命が懸かっていた。


炎のような赤色をした、腰まである長い髪。


顔はまるで、西洋人形のような120点満点の美しい小顔。


残念ながら胸はそこまで大きくない…と言うのは嘘で、飛びつきたくなるような豊満な胸。


女性らしい美しいくびれ。


しかしながら残念なことに、その美しい顔や体は、いくつものかすり傷を負っていた。


「ハァッ、ハァッ…何よ…そんなに私が気に入らないの?そんなにこの髪の色が憎いの?

ふざけないで。殺されてたまるもんですか。あんた達みたいな奴等に。」


何者かに追われ、手傷を負わされている。しかし、極めて危険な状況下にあるというのに、少女は落ち着いていた。まるでこう言う状況は、何度も潜り抜けてきたと言わんばかりに。


だが、少女には武器はない。正確にはさっきまで持っていたのだが、今までの戦闘で失ってしまった。

この世界に、確かに魔法は存在する。しかし、アニメやゲームの世界のような、危機的状況を救ってくれる魔法や、攻撃、防御魔法など、そんな都合のいい魔法は、存在しない。


少女は無言で背負っていたカバンから古びた石を取り出す。

この世界に都合のいい魔法は存在しない。だが、都合のいい道具なら、ある。


「一か八かね…。ここで凶がでるなら、私はここまでの存在。でも、吉がでるなら…。」


少女は目をつぶり、石に魔力を注ぎ込む。石に刻まれた文字が光り輝く。


「いたぞ!あそこだぁ!」


「やっちまえ!ボコボコにして犯すんだよ!」


少女を狙う男たちが後ろからやってくる。もうどうすることもできない。危機的状況。

しかし少女は絶望しない。


「私は絶対に死なない。生きて帰るわ。こんな所で…死んでたまるもんですか!」


少女が叫び、石から凄まじい勢いで光が溢れる。まるで周囲が昼のように明るくなる。


それに伴いバチバチッ!!と大きな音がし、ドンッ!と軽い衝撃音。そして光は徐々に小さくなっていく。


「へ、へへ…なんだよ。ただ明るくなっただけじゃねーか。エンシェントを使うから身構えたが、

どうやらただ光るだけだったらしいな…。つくづくついてねーなおめーはよお!このまま大人しく…」


「…いいえ、違うわ。よく見たら?」


先ほどの光だけを考慮すれば、ただの目くらまし。しかし、先ほどまでの状況とは一つだけ、決定的に違うことがあった。


男たちの目が、少女の前に集中する。


「ハァッ、ハァッ、あれ…なんやここ。どうしたんや、俺…。」


そこには、さっきまで逃げ回っていた、紅蓮の姿。


天国か、地獄か。物語はまだ、始まったばかり。


続く。









主人公の名前は、不知火シラヌイ 紅蓮グレン

と言います。ヒロインの名前は…まだ内緒。

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