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来世でもう一度、会えますか  作者: 星海悠
本編
2/4

中編:従者の記憶


二話で終わるとか嘘つきました。

三話完結予定です!最終話は明日更新します。


 初めて彼女に会ったのは、いまから五年前の事。


 王族が年に一度顔を見せる建国の祝典。

 煌びやかな装飾が街を包み、人々は祭りを楽しんでいた。


 そんな王都の光景を呆然と見つめる。

 路地裏にうずくまりながら、そっと。


 なにもかもを諦めていた時だった。

 魔力を持って生まれたがために、居場所を追い出された。

 居場所、それも違うような気がする。

 両親は弟ばかりをかわいがり、俺には目も向けなかった。


 唯一目が合った時は、すべてを失ったあとだ。

 子供じみた癇癪を起して魔力を暴走させ、家を半壊させたのだ。

 母は怯える弟を抱きしめながら涙目でこちらを睨んでいた。父は顔を青くして、静かに金を渡してきた。


 暴力さえ振るわれなかった。実の子である俺自身を恐れていたのだ。


 家を壊してしまったのは反省もしていた。

 しかしそれ以上に、愛を得られなかった。愛情を与えてくれない両親を憎んでもいた。

 だからやっと目が合って、その瞳に怯えが宿ったのを見た時、かすかに笑ってしまったのだ。

 ざまあみろ、と。


 口には出さなかったが、それを感じ取ったのだろう。弟は泣きわめき、母はさらにおびえた様子を見せた。

 それを見て、胸の中が空になっていくのを感じた。


 金は一月ほどで食費に消えた。

 もともと大した量ではなかったし、そのまま飢え死にすることを両親は願っていたのかもしれない。


 きっと魔術を使って人を傷つければ金は簡単に手に入る。

 魔術を習ったこともなければ、遠ざけていたけど、こうしたことならもっとしっかりと学べばよかったと思う。

 そもそも魔術は忌み嫌われていて、関連する書物はほとんどない。

 わずかに残った書物も図書館では禁書扱いされているらしいが。


 こんなことを考えながらも、本当にどうでもよかったのだ。なにもかも。

 いまの自分に何が残っている?親も寝床も食事も金もすべて失ったのに。


 からからになった喉が痛む。視界がぼやける。

 腹の音は数日前からなっていない。頭ががんがんと痛んでそれどころじゃない。


 顔を伏せた。祭りに夢中な人々は俺に見向きもしない。

 たまに目が合ってもすぐに逸らしてしまう。関わりたくないと全面に出ている。


 そんなものだろう。人間なんて。とわずか十三歳にして思ってしまう。

 何もかもが憎かった。だけどなにもかもがどうでもよかった。そんな矛盾。


 魔力を暴走させて視界から消して見せようか。

 体力の無い時に魔力を暴走させればどうなるか。きっと死ぬ。

 目の前の景色と心中できるならそれもいいんじゃないか。


 そんなことを考えていた時。


 「………」


 一人の少女がじっとこちらを見つめていた。

 おもわず目を凝らす。

 美しい少女だ。自分より二、三歳年下か。

 平民の装いをしているが生地の光沢が良い。おそらくお忍びで来た貴族の令嬢だろう。


 しばらく見つめ合っていると少女は立ち去った。

 何だったのか。捨て子が物珍しくて興味本位で眺めていたのか。


 彼女に一体何を期待していたのだろう。心に残る落胆の色に自分で驚いた。


 まぶたが重い。いま視界を閉ざせば永遠に戻ってこれないような予感がした。

 けれどもう疲れていて、何も動かせそうにない。


 向かってくる闇に身をゆだねようとした。


 「ねえ」


 不意に近くで声が聞こえた。

 おそらく俺自身に掛けられた声だ。

 眠りたいのに。そんな風にうっとうしく思う。


 「ねえってば!」

 「……るさ」


 閉じようとしていたまぶたが上がっていく。

 うるさい。そう抗議しようとして。


 目を開けた。


 「なんだ。起きているじゃない」


 そこにいたのはさっき目が合った少女だった。

 一体何だというんだ。居なくなったのに戻ってきたりして。


 「でももう少しで死んじゃいそう」


 少女は呑気そうにそんなことをいう。

 そんなのよく分かっている。たったいま死にかけていたんだから。


 「ね、生きたい?」

 「………は」


 どういう質問だ。そんな思いで顔を少し上げる。

 少女と目が合った。にっこりと微笑んだ少女の手にはパンが握られている。


 「ど……いう」


 喉が枯れていて、うまく声が出ない。

 ケホケホとむせてしまった。


 「あ、飲み物もあるわ。両方ともさっき露店で買ったのよ」


 だから安心して食べて。そういってもう片方の手に握られている紙コップ。

 なにも考えず、それを手に取ってしまう。

 そして一気に飲み干した。


 喉を温める果実酒。潤せるならなんでもいいと飲んだけど、これじゃ逆に喉が乾くんじゃないだろうか。

 そう言おうと口を開こうとすると、笑顔の少女。なんとなく言い出せなくなって口をつぐむ。


 「ほら、パンも」


 紙に包んだ揚げパンは香ばしい。ほどよく冷めていて、そのままかぶりつく。

 じわっと暖かくなったのは喉だけじゃなくて。


 気が付くと視界が滲んでいた。

 その様子を少女はただ黙ってみていた。

 パンが無くなると、まだあるのよ、といって手提げから取り出す。


 少女はこれを買いに行っていたのか。俺のために?


 「なんで……」

 「ん?」

 「なんでこんなことをした。見返りはなんだ」


 気付いたらそんな可愛くない言葉が口をついて出た。

 彼女のおかげでもう眩暈はしない。二、三日は持ちそうだというくらい食べた。


 「見返り?あなたなにか出来るの?」


 少女は不思議そうに疑問で返した。


 「魔術の事知ってたんじゃ……」

 「魔術?」


 はっとして口を閉じてももう遅い。

 見返りとして望むのはそのくらいしか思い至らなくて、つい口にしてしまった。

 怯えるか、逃げ出すか。なんとなく後ろめたくなってそっと少女を伺う。


 「へえ!あなた魔術が使えるの」


 少女の反応は予想の斜め上をいくものだった。


 「魔術を使える人って初めて見るわ。この国だとなぜか嫌われているみたいだから」

 「……お前は」

 「?」

 「お前は嫌いじゃないのか」

 「だって魔術が使えるって素敵じゃない」

 「は?」


 何を言っているのか、初めは分からなかった。

 少しして理解し、目を見開く。


 「魔術が、素敵?」

 「だって願えば何でも叶うんでしょう?代償が必要らしいけど、それを差し引いても素敵だわ」

 「……バカなのか、おまえ」


 驚きを通り越して呆れてしまう。

 こんな頭の中がふわふわした奴がいるものなのか。こいつの親はどういう教育をしているんだ。


 半眼で見ていると、突然、民の歓声が沸き起こる。


 「ああ、もうこんな時間!」


 少女が立ち上がる。歓声を聞いて我にかえったようだった。


 「ほら、あなたも立って」

 「は?なんで」

 「私と一緒に行くのよ!あなた、行くところないんでしょう?」

 「なんでおまえと一緒に……」

 「私があなたともっと話をしたいと思ったからよ」

 「おいっ……」


 そういって少女が俺の手を強引に引いて立ち上がらせる。

 数日歩いてなかったので、筋肉がついてないこともあり、前につんのめりそうになった。


 「……貴族の道楽か」

 「あら、私が貴族だってわかるの?」

 「服見れば誰だってわかるだろ……」

 「そうなの?これでも一番シンプルなものを選んだつもりだったんだけど」


 かなりの箱入りらしい。そんな少女がなんで供も付けず一人で歩いているのだろう。


 「私ね、お忍びで街に来たの」

 「だろうな」

 「それでね、私だけの従者を探しに来たのよ」

 「へえ………は?」

 「姉さまや兄さまには従者がいるんだもの。私だってほしいわ」


 なんだこの流れは。従者がほしい?平民の中から?

 手を握られてどこへ向かおうとしているのか。おぼつかない足取りで、少女の後を呆然とついていく。


 すると少女は立ち止まって振り向く。

 輝くような笑顔を向けて。


 「だから、あなたを私の従者にしようと思って!」

 「はあ?何考えて……というか、そんなの家族が許さないだろ」


 吐き捨てるように言うと少女の顔が一瞬陰った。

 不思議に思ったのもつかの間。少女はまた笑みを浮かべる。


 「姉さまや兄さまはきっと許してくださるわ。ええと、ノブレス・オブリージュ?」

 「貴族の義務だって?」

 「そう!だから大丈夫よ」


 姉や兄が許したとして両親は?

 口に出さないところを見るに、あまりうまくいっていないのかもしれない。


 「理屈は分かった。だがなんで俺を?他にもいるだろう」

 「あなたは、あなたしかいないでしょう?」

 「……だから、俺以外にも他に人間はいるだろ。魔術を使えるからか?」

 「魔術なんてただの個性よ。私はあなたがいいと思ったの」


 個性とは。その言葉に胸がすくような、軽くなるような気がした。

 そんな風にとらえることが出来る人間なんてどれくらいいるのか。

 そう思うと目の前に現れた少女に出会えたことが、何億分の一くらいの奇跡に見えた。


 「これを一目ぼれっていうのかしら?」


 小首をかしげる姿は愛らしい。

 しかしその言葉にひどく動揺させられる。


 「な、なに言って……」

 「だって私、ずっと街で従者にふさわしい人を探していたのよ。それなのにあなたに会ったら他なんて目に入らなくなっちゃった」


 天然でこれを言ってのけているのか。

 自分だけがこんなに取り乱してバカみたいだ。


 「……嘘つくな。大体こんな汚れた格好で、一目ぼれも何もあるか」

 「外見なんて些細なことだわ。私はあなたの目が気に入ったんだから」

 「目?」

 「そう。誰かに見つけてほしいって、ずっと訴えている目」


 そんな目をしていたのだろうか。言葉に詰まる。

 即座に否定できなかったのは何故か。自分でなんとなく思い当たることがあったような。


 目を合わせようとしない誰もかれもが憎くて、なぜだれも見てはくれないのかと。


 「……お前は気付いたのか」

 「何か言った?」

 「いや」


 何でもないと言おうとして、ぐっと手を引かれる。されるがままの状態だ。


 「じゃあ早く行きましょう。兄さまと喧嘩して出てきたから、いまごろ後悔して泣いているわ。私に従者はまだ早いなんて言うんだもの」

 「お前、それ許しているって言わないだろ」

 「お前じゃないわ。セレンディアよ」

 「セレン、ディア」

 「ええ!セレンって呼んで」


 セレンディア。貴族名鑑でそんな名前を見たことがあるのを思い出した。

 自分と年頃の近い女性を将来の伴侶候補として覚えておくようにと言われて。


 この歳ごろなら、貴族名鑑ではひとりしかいない。


 「お前、王弟の娘だったのか」

 「よく知っているのね。もしかしてあなたの生家は貴族だったの?」

 「……まあ」

 「あ、そうだわ。私が名乗ったんだから、あなたの名前も教えて」

 「家名は名乗ることを許されていない。名前も追い出された時に一緒に捨てた」

 「そう、でも名前が無いのは困るわね」


 セレンは歩きながら考え事をする。

 そうしてふと思いついたように街に目をやる。


 「私が名前をあげるわ。レナードってどう?」

 「それ、王都の名前じゃないか」

 「ええ、私が守るべき、大切な場所の名前よ」


 そういわれて押し黙る。別に照れたわけじゃない。

 ただ魔力を暴走させて街を消そうとか、さっき少しでも思ったことに後ろめたさを感じた。


 「さ、ちょっと急ぎましょうか。私いちおう継承権持っているから祝典に参加しなきゃいけないのよね」

 「な、なにやってんだよ!こんなところ来ている場合じゃないだろ!」

 「いいの!あなたに会えたもの」


 手をつないで走りながら、セレンは笑う。

 つないだ手のぬくもりに心の中で感謝した。





 これがセレンとの出会い。

 はじめて、神様に感謝した日。


 従者として紆余曲折しながらも受け入れられて、そして幸せな日々は続いた。


 この出会いから二年後。セレンが愛するこの国で、悲劇が起こる。

 その悲劇の日を境に、セレンは笑顔を見せなくなった。

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