きちんと愛されていました
怖い…怖い…どうしよう、お父様、に拒絶されてしまったら。失望されたら…私は、必要とされなくなってしまう?……
あれから走った、息が切れても……とはいっても所詮は私は子供で、子供の私には広すぎるこの屋敷…逃げれるはずもなく…
「はっ………はぁ、はぁ…………ここは…」
気づけば母のいる部屋の前に立っていた。
そういえばしばらく母にあっていない。少しくらい、良いかな………母は、私が悪い子だと知ったら、拒絶される?……失望…されてしまうの?
母の部屋に入りたい、でも、不安という気持ちが込み上げてきて私はただ、突っ立っている事しかできなかった。
「アイリス……?いるのかしら?」
「ッ……!!」
どうして?私は声も出してない、ノックをしたわけでもない。どうして…?どうして私がいる事が分かるの?
「…?アイリス?入ってきなさい?少し、お母様とお話をしましょうか」
「……ハィ…し、失礼…します」
ガチャ
遠慮勝ちに中に入り、近づく私。
そんな私を母は優しく微笑み、迎えてくれた。
「アイリス…久しぶりね、あなた、大きくなったわね…」
そう言って母は私を優しく抱きしめてくれた。
とても暖かい。もう何ヶ月もあっていなかった母。母の温もりは暖かくて、不安を少しずつ消化してくれている、そう思った。
でも、病気が悪化したのか、母の腕や体にはあまり力が入っていなくて、私はとても悲しくなった。
「…ッ…おか、さま…お久しぶりです…」
「えぇ、ごめんなさいね?全然会えていなくて。」
「いえっ……今、こうして会っています」
「……ありがとう。…ほんとに…貴方は強い子になったわね……。でも、あまり溜め込まないで。聞いたわ。シオン、という子を貴方は側に置きたいのね?……聞いていいかしら?それは…なぜ?」
「ッ…それ、は………わ、たしは--- 」
私は戸惑いながらも、転生した事は隠しつつ、シオンと出会った日のこと。シオンを守りたいと思ったこと。今さっきまでのこと。包み隠さずきちんと話した。
話終わると母はもう1度、最初よりも強く、強く、暖かく抱きしめてくれた。
その温もりが暖かくて、優しすぎて…私は泣いてしまった。まるで今までために溜めてきた不安やガマンが溢れ出たのだと思う。
「そう……やっと、やっと聞けたわ…あなたの本当の気持ち…ありがとう、話してくれてありがとう…」
「ぅぅ…ッ………ヒック」
「大丈夫、大丈夫よ……私わね?アイリス、あなたの気持ちに賛成よ?」
「ふぇ?………??」
なぜ?
「実は、あなたのお父様にも言っていないのだけれど、シオンとは2度くらい会ったのよ。そしてシオンと話したわ?…とても、いい子ね……私は思ったの、あの子なら、あなたを守ってくれると思ったわ……。」
優しく微笑み、そう告げた母。
そして今日に真顔になり、私を見つめた。
そして小さく息を吸い、何かを決心したような目で…
「アイリス…今から私が言うことは、きっとあなたには重いものだと思うわ。でも、今、伝えないといけない気がするから…」
いいかしら? そう聞く母にわたしはただただ頷いた。
「アイリス…私が病を患っていることは、わかるわよね?」
「…はい」
嫌な予感がよぎった
「…まだ、だれにも、言っていないのだけど…私は、長くはありません。もって、1年ほどかしら」
「ッ…何故ですか!何故そんなことが分かるのですか!!そんなの、そんなの悲しいです、お父様も、悲しみます!屋敷のものだって!」
「…分かるわ、自分のことだもの。ふふ、あなたも、悲しんでくれるのね?…お母様はとても幸せよ………だから、お願い。お父様を、屋敷をあなたが癒してあげて。大丈夫。貴方ならできる。そして……周りをよく見て、溜め込まなくていい、もっと、頼りなさい。貴方は…まだ子供なのだから…ワガママ、言わなくていいの。貴方は、だれにも嫌われてないわ。ごめんなさいね、全然、貴方を甘やかしてあげれなかったわね。」
ギュッ
「ッ…!!…ぅ、ぁ…ヒック…うぅ…うぁぁああ!!」
お母様、お母様…あったかい。
今度こそほんとにすべてが溢れ出した。声が枯れるくらい泣いた。
そんな私を、母は優しく慰めてくれた。大丈夫、大丈夫と何度も言ってくれた。
母だって怖いはずなのに、死ぬのが怖くない人間なんていないのに…ありがとう、ありがとう……
私はほんとに母に愛されているなんて思っていなかった。でも、こんなに愛されていたんだ。
ありがとう…