狂人は昔を想い
残酷な描写があるので苦手な方はご遠慮ください。
私はどん底にいた。
なんでそうなったかはもう憶えてない。それは忘却の向こう。だけどそれ以前は、幸せだった気がする。
不幸のどん底、人生のどん底、女としてのどん底、人としてのどん底。
来る日も来る日も。日が昇っても沈んでも。寒い日も暑い日も。乾いた日も湿った日も。来る日も来る日も。
弄ばれ汚され狂わされ。泣いても泣いても止まる事は無く。願っても願っても止まる事はなく。弄ばれ汚され狂わされ。
一日が過ぎる事を望んだ。速く速くと望んだ。一日が過ぎれば眠る事を許された。速く速くと望んだ。
でも、それがいつまでも繰り返される事が解ると、それがいつまでも終わる事が無いと解ると、望む事は無駄だと解った。
後は諦めの日々。
後は自分を傍観する日々。
後はただ過ぎる日々。
ただ終わる事を待つ日々。
不思議と死は望まなかった。何故だかはわからないけど。なにか、心の底にある誰かの言葉が引っ掛かっていた。
いつからだったか、ほんの少し、ほんの少しだけ優しさに浸れた。私に優しさをくれる人が現れた。忘れかけたその温もりを。
その人以外が居る時はただ不幸の時間。その人だけが居る時はほんの少しの幸運の時間。
でも、ただそれだけ。
ある日、私の耳に声が聴こえた。
最初は小さく、けど徐徐に大きく。
それは取引。
甘い取引。
私に自由を与える甘い取引。
その声は私に言った。
この日々を抜け出す力をあげよう。
このどん底を壊す力をあげよう。
その代わり、君の心をおくれ。
優しい心を。
止める心を。
慈しむ心を。
悲しむ心を。
想う心を。
愛する心を。
私は、迷う事なく受け入れた。
そして壊した。
全てを壊した。
どん底の日々の源を全て壊した。
私を弄んだ人を。
私を汚した人を。
私を狂わした人を。
全てを壊した。
楽しかった。楽しかった。楽しかった。楽しかった。楽しかった。楽しかった。
あれは楽しかった。
今でも鮮明に思い出せる、初めての感覚達。
目の前に広がる紅く染まる景色も。
耳に響く助けを乞う悲鳴も。
鼻につく芳しい死臭も。
口に流れ込む血の味も。
人を壊す感触も。
全てを壊した。
私をほんの少しだけ幸せにした人も。
その人を壊した時、胸の中が何故かざわめいたけど、特に気にならなかった。
ただ楽しかった。
自由になったその日からも、私は壊し続けた。
楽しいからだ。面白いからだ。身震いするほどの快楽があったからだ。
潰して壊して砕いて壊して浴びて壊して味わって壊して千切って壊して聴いて壊して否定して壊して刻んで壊して落として壊して弄んで壊して捻って壊して開いて壊して貫いて壊して抉って壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して……。
ああ、楽しい、楽しい日々。なんて楽しい日々。
でも満たされない。
体の一部は満たされても全ては満たされる事も無く。
ただ壊すだけじゃ満たされない。
ただ人を壊すだけは飽きた。
じゃあやり方を工夫しよう。
足の指から、手の指から時間をかけてゆっくりとゆっくりと丁寧に潰していった。
最初から最後まで悲鳴が聴けて楽しかったけど、満たされない。
子供の目の前で親を引き千切ってバラバラにして切り刻んでグチャグチャにした。
子供の髪が何故か白くなったり金切り声を上げて面白かったけど、満たされない。
五十人位手足を折って小屋に詰め込んで火を点けた。
折り重なった絶望と恐怖の叫びは心に響いたけど、満たされない。
満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない満たされない……。
時々、夢を見る。
どん底を壊した時の夢だ。
楽しかった時の夢。
でも少し違う。
夢の中でどん底を壊しているのは何故か今の私で、昔の私が近くで見ている。
昔の私はぼんやりと私が壊しているのを眺めていて、私は昔の私を時折見つつ壊し続けて。
突然、彼女は泣きそうな顔で悲痛な声で呟いた。
――やめて。
一体どうしたのだろう?
私は彼女が何故そう言ったのかわからなかった。
考えながら壊すのを再開しようとした。
するとまた、今度は叫ぶように。
――やめて!
なんで彼女は止めるのだろう。彼女もやっていた筈だ。望んでいた筈だ。
なんで? なんで? なんで? なんで?
ああ、そうか。
やっと解った。
彼女が止めた理由。
今、私が壊そうとしたのは優しさをくれた人。
私が忘れかけた優しさをくれた人。
ほんの少しの幸せをくれた人。
だから――
なに?
私はそれを彼女の目の前に引きずって、彼女の目の前で、千切って、抉って、潰して、砕いて、ゆっくりと、彼女のやめてという言葉を聴きながら、壊した。
彼女は泣いた。涙を流した。壊れたそれにすがりついて。泣き続けた。
――なんで、酷い、なんで、こんな、こんなの、私は望んでない、望んでいない、私が望んだのは、望んでいたのは――
そこで夢はいつも終わる。
ああ、心が、なんでかな、こんな、なにか、変な気分。夢を見た後はいつもこんな気分。
どうしてだろう。貴方が望んでいた事をやってただけなのに。繰り返しただけなのに。どうして? どうして? どうして?
……まあ、いいか。
貴方の声は、いつも心地良いのだから。
自作小説(現代ファンタジーバトル物)の快楽殺人鬼のエピソードとして書いていたのですが、これ1つで話になるかなと思い少し手直しして投稿……でもかなり微妙、いや、微妙ですらないかも。内容はブラックな感じで自分でも何書いてんだかと、電波かと。でも結構自己満足できたものです。(文法おかしいですね)