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戦わないドラゴン戦


 さて、しかし、どうしよう。


 やっぱ、めちゃくちゃ怒ってるよなぁ。餌に逃げられたんだもんなぁ。もしかして、探してたりもしてた?うわ、だとしたらマッズイぞ。話して聞いてもらえる状態じゃない…………。


 って、考えが纏まらないうちに、イエロードラゴンから巨大な電撃が放たれる。ちょっ、待って。なんて余裕はなく、反射的にシールドブレスを発動させた。バチンっと凄い音を立てて小さな雷となって雷撃は散ったが、ジーンと身体は痺れる。さすがのシールドブレスのおかげでHPは削られなかったが、MPがあまり貯まってないのでシールドブレスが使えるのももう一回が限度だろう。こんなの、ダイレクトで当たったらたちまち死亡だ。


 く~、本当にパワーバランスどうなってんだ!!


 再び帯電を始めたイエロードラゴン。攻撃と攻撃に間隔が空くようだ。狙うならここなのだろう。私は剣を構えはしたが攻撃には移れない。ドラゴンとは戦いたくない心理が身体の動きを阻む。


「「「「「「アスナッ!!!」」」」」」


 後方から叫ぶように名前を呼ばれる。流石にあの音とこの存在感だ、いくら修羅場中の彼らとてドラゴンに気付かないはずはなかった。


「攻撃しないでーー!!!」


 私は慌てて駆け寄ってくる6人に振り向いて叫ぶ。と次の瞬間、イエロードラゴンからの雷撃が放たれた。隙を見せてしまった私にはシールドブレスを発動させる暇はなく、やられた……………………と思った途端、ブアッと赤い光が私の持つ剣から放たれ私と雷撃の間に壁となって攻撃を散らしてくれる。そして、その光はみるみる大きくなると、真っ赤なドラゴンへと姿を変えた。


「クレ?なんで?」


 私はキョトンと小首を傾げた。目の前には依然洞窟で出会ったレッドドラゴンが鎮座していたからだ。


「必要な時には我を呼べと言っておいただろう。忘れたか?」

「あっ!いや、覚えてたんだけど、それって魔王戦の時だけなのかと。」

「む。つれない。汝の為ならばどのような些細な事でも駆けつける気だったというに。」


 クレは拗ねたような顔を私の元に下ろしてきた。慰めるようによしよしと鼻頭を撫でてやれば、くすぐったそうにルビーのような目を細める。


「そんな軽々しく呼び付けるなんて悪いよ。でも、今はありがとうね。助かった。」

「んむ。ならよいが、礼にはまだ早い。奴を片付けてからだ。」


 私の言葉に満足したのか、クレはそう言うと首を振りイエロードラゴンを面倒そうに見つめた。


「あ、戦っちゃ。」

「承知ている。話で決着させるのだろう。だが、奴の頭を冷やさせねば、会話にもならん。少しだけだ。」


 クレは言うと間もなく地を蹴り、イエロードラゴン向けて飛び立ち襲い掛かった。レッドドラゴンVSイエロードラゴンの空中戦は雷と炎の撃ち合いやお互いの巨体を使った力業と全然少しではない戦いが眼前で繰り広げられる。これがドラゴン戦か、……………私だと…………やっぱ瞬殺。


「アスナ。これはどういうことだ。レッドドラゴンを手なずけたのか…………。」


 ポンッと肩を叩かれてびっくりして見ればメンバー6人が私を取り囲んでいた。アル達はあきれ顔、フィルモントとカウザーは興味津々、王子が渋い顔で。私の肩に手を置いているのは王子様。


「クレ…………、レッドドラゴンとは、その、お友達です。」

「ドラゴンと…………友だと?…………そんなことがあるはずが。いや、親しくしている口調ではあったが。……騎士?」

「は………ぁ。簡単に言えば、サウスの街に向かう途中、勇者さまがレッドドラゴンの命を救い、それに恩義を感じて懐いているというか…………、好意以上のものを抱いている。というところでしょうか。」


 王子に話を振られて、仕方なくアルフレッドが説明。なぜ、私に聞かないの?なんて野暮なことは言いません。


「うわぁ~、あれもライバル~~?ないわぁ~。」

「異種族なら仲が深まるにはハードル高ぇだろ。ま、俺たちもある意味、異種だが。」


 話を聞いたフィルモントとカウザーが真剣な表情で語る。ん~。ドラゴンが友達って、やっぱ非常識なのかな?


「その楽観は、どうかな~。元々レッドドラゴンはアスナちゃんと脳内会話しかできていなかったけど、今回は人の言葉を話す術を得てるし~。これは、変化?進化?しちゃってるって事だからね~。」

「ちっ。そうでなくても外見はアスナのタイプなのに。」

「「「はあっ?!!!」」」


 カウザーへのロークの会話でクレが人語を話せたと今更気づいた私。そして、ケインの言葉に新メンバー3人が驚いて私を見る。すいません!爬虫類好きです!ドラゴン大好きです!と心の中で宣言しながら私はヘラッと曖昧スマイルでかわす。


「うむ。汝の取り巻きが増殖してる。…………が、どいつも敵ではないな。」


 バサリと風が吹きレッドドラゴンことクレが私の側に着地する。ゲージは少し減ってるけど、傷なども無いようだ。


「お帰りなさい、クレ。あのね、敵じゃなくて、この3人も10プレメンバーでね、彼は………。」

「ああ、紹介はいらん。…………判るのでな。」

「あ、あぁ~。」


 クレは悪どい顔でザアッと6人を見やる。そういえばクレは彼らの好感度がわかるんだっけ。なんだか険悪な空気が漂ったような気がしたので、直ぐに話題を戻す。


「そ、それは手間が省けてよかった。で、イエロードラゴンと話はできた?いないみたいだけど。」

「無論。ただ、汝の力を借りたい。奴が戻ってきたら頼めるか?」

「私?私に出来ることなら何でもするよ!」

「汝にしかできぬことだ。」


 クレがさっきまでの鋭い眼差しから心が温かくなるような穏和な表情をくれる。いつもこんな顔でいれば誤解されないのにと思いながら、視線がなんだかくすぐったくて、私はわきゃわきゃしてしまった。


「やることもわからねぇうちに安請け合いして、はしゃぐな馬鹿!」

「勇者さまは、ドラゴンが絡むと見境をなくすのは良くないですよ。」

「そうだよぉ~、命懸けの事だったらどうするの~。無いとは思うけどさ~。」


 ケイン、アルフレッド、ロークと旧メンバーからの鋭い指摘に、浮かれていた私の頭が一気に冷えて落ち込む。久々に聞いたせいか心にやけに刺さるな…………。


「アスナに対し酷い物言いだな。」

「よねぇ。けど、これがやけに核心を突いてんだよね。もうちょっと言い方あるだろってもんだけどさ。ま、彼らのお陰でダメダメな私も勇者やっていけてる。大事な仲間なんだな、これが。」


 クレが私が落ち込むのを見て彼らに牙を剥くのを慌ててフォローすると、クレはなぜかいじけた顔になる。


「…………………。むぅ、今の我ではまだまだ…………入り込めぬか…………。」

「…………?」


 クレの言葉に首を傾げるが解答はなく、急にグンッと首を上げて後ろを向きその場から巨体を動かした。すると、飛んで来るイエロードラゴンが私の視界に入った。イエロードラゴンは私の前で着地すると、その琥珀の瞳でじっと見つめてきた。さっきまでの怒りはないが、ただ不信感がありありと見てとれた。そりゃ、前回、餌だぞホレホレってちらつかせていきなり逃げるなんてすごい裏切り行為だよな。誤解なんだけど……………。どう説明すべきか、考えあぐねながらも目だけは反らしてはいけないと、その澄んだ琥珀の瞳を見据える。


「我が命を懸けると言っただろう。一度だけでいい、人間を信じろ。」


 クレがイエロードラゴンに向けてそう語りかけると、イエロードラゴンは少し間を置いて意を決したかのように自分の背中へと首を動かした。そして、何かをくわえて私の前の地面へとそっと降ろした。現れたのは小さなイエロードラゴン。小さなと言ってもドラゴン比で他の2匹に比べるとであって、体長はかなりデカイ。そのドラゴンはなぜかぐったりとしていて、ピクリとも動かず目も閉じられたままだった。ゲージを見ればメーターは長いのにHP・MPともに残量はほとんど無い。このゲージの状態は、見たことある。


 そうか!!この子、病気か怪我かで死にそうなんだ!!だから、イエロードラゴンのお母さんは、なりふり構わず薬草探しまくってたんだ!!!


「オッケー!分かった!!これなら私の出番だね!任せて!!」

「あ、アスナ?!!」


 私は小さなイエロードラゴンに近づき跪くと躊躇うことなくチュウッと上唇と思われるところに口づけた。クレがびっくりしているのを不思議に見上げる。


「いや…………汝が珍しい薬を持っていたと奴から聞いたので試せたら………………と。………………しかし、そうだったな。その方が手っ取り早かったな。」


 グフフッと可笑しそうに笑い出すクレ。


 あ、私しかできないって、そっちかぁ。また、はやとちりをしちゃったか………………。しかし、途中で止めるってのもな。


 小さなイエロードラゴンのゲージは勇者のスキルで着実に上がっているので割りきってそのまま続行。後ろでなにか男性陣の叫びやら、ため息やらが聞こえるが、無視、無視。やがてゲージが一杯になったので、私が唇を離すと小さなイエロードラゴンはパチリと目を覚まし、飛び起きるとお母さんであろう大きなイエロードラゴンに擦り寄ると元気に頭の周りを飛び始めた。そして、大きなイエロードラゴンも今まで見せたことの無いような穏和な雰囲気を漂わせた。


「良かった。治ったみたいだね。」


 微笑ましい親子の触れ合う様子にホッとため息を漏らすと、ギョロッと二対の琥珀の瞳がこちらに向いた。子ドラゴンがストンと親ドラゴンの頭に乗っかると、親ドラゴンが私の眼前に顔を寄せてきた。


「アスナ。触れてみろ。」

「い、いいの?」

「うむ。」


 クレに促されてゆっくりと母イエロードラゴンに手を伸ばした。クレとは違いつるんとしっとりした肌質は蛇に近かった。


『あんた、勇者なんだってね。この子の命を助けてくれて、ありがとねぇ。本当にもう、ありがた過ぎて感謝しきれないくらいよ。まさか、人間にこんなことできるなんて思わなくて、何か色々と街とかあんたとか襲うようなことしちゃって悪かったねぇ。こっちもかなり切羽詰まってたんだわぁ。』


 脳内に声が響いて私は目を丸くする。イエロードラゴンが語りかけてきたからだ。いや、別にクレとも脳内会話したからそこには驚かなかった。私をびっくりさせたのは口調がおばちゃんのノリだったことだった。


人数多いと苦しい。影が薄くなる人がちらほら…………。

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