修羅場は戦闘より怖い
結局、フィルモントとは休憩中のみ引っ付いていいということで収まった。かなり譲歩してくれた…………らしい。そして、フィルモントの魔法だが、精霊が出現しなかったのあの一時だけで、また出てくるようになった。ただし、お姉さんではなく猫!!羽の生えた猫とか、精霊っちゃあ精霊認定できる………………か?ってメルヘンになってしまったが、まぁ害はないからいいか。
「ヤッター!着いたーー!!」
頂上が広く平らになっている山に登りきって、私は達成感に吠える。やっとここまできた!!
「感動しているところ、ゴメンだけど~。東の果て山は後3つ先の山だね~。」
フィルモントはフワンと隣にやってくると私の肩を抱いて、遥か彼方の方を指差してくれる。さりげにボディータッチされてるが、それどころではない。
3つ先の山、雲突き抜けてるじゃん!!あれって、登山装備バッチリして、なんならクライミングとかもできないと駄目なんじゃない?ってくらい切り立ってるよ!!
私は茫然と見上げ、ため息を吐いた。挫折してもいいだろうか?絶対崖とか崖とか、崖っぷちばかりだろぉ。
「あの山、人が登れるの?」
「ん?飛べば直ぐだよ~。僕にぎゅ~ってしてればあっという間に着いちゃうよぉ~。」
フィルモントは楽しそうに私に後ろから抱き着く。休憩時間にした覚えはないんだが、まぁいいかと半ば諦めてたら、王子がフィルモントを剥がしてくれた。
「精霊使い!それなら、君は剣士を連れていけ。姫のエスコートは私がする。」
「男やだぁ~。重い、硬い、きもい~。」
「きもいって…………俺か?」
カウザーも加わって言い争いが始まったようなので、蚊帳の外になった私はしれっと3人から距離をとる。誰に連れられたとしても私は飛びたくないよ~。いい策はないかと東の果て山を見ながら思案していると、何処からか私を呼ぶ声がした。
?
「アスナちゃ~ん!」
「アスナ!」
声の方を見れば、懐かしのロークとケインが満面の笑みで飛んできた。
「ローク!ケイン!無事だっ、ぐえぅ。」
彼らはどんどん近づいてくると、ノンストップで私に体当たりして抱きしめてくる。再会を喜んでくれるのは大変嬉しいけどさ、勇者力でどうにか2人分の衝撃も受け止めれたけどさ、もっと手加減したほうがいいよ。
「見つけられてよかったぁ~。生存確認は出来てたんだけど、居場所は近距離でしか分からないから、心配してたんですぅ~~。」
「身体も傷はないみたいだな。無茶ばかりしやがって、馬鹿が!」
「ローク、ケイン。」
私は感動の再会にうるるっとしそうになった。なのに、2人の雰囲気が急に寒々しいものに変わる。
「でも、アスナは他の方たちと仲良く楽しく旅されてたんですね…………。哀しいです…………。」
「僕らは昼夜問わず追いかけてきたのにな。おまえ、会うまですっかり忘れてただろ。」
「え、いや、そのっ。」
じと見されて、ついつい目が泳ぐ。違うと言い切れない曖昧な態度に、はぁと2人から呆れのため息が漏れた。ごめんなさい。
「まぁ、私たちはまだいいんですけどねぇ~~。」
「あいつの事は自分で何とかしろよ。僕らはここまでずっと宥めるのすっげぇ苦労したんだからな。」
「へ?」
どういうことなのか聞く間もなくロークとケインが両サイドに分かれると、いつ現れたのかアルフレッドがこちらに向かって歩いてきていた。
うおぉぉぉぉ!!なにあれ、怖い、怖い、怖い!魔王って仲間から出現するんだっけ?……………って、現実逃避してる場合じゃないよぉ~。
アルフレッドは穏やかな笑顔なのにまっ黒いオーラを背負っていた。めちゃくちゃ怒っているのが嫌でもわかる。下手すると魔王より怖いかもしれない。今すぐにでも逃げ出したいのに、恐怖に身体が硬直して足も全く動かなかった。私は助けを求めようと新メンバー3人を見るも彼らも驚き顔で固まっている。彼らとてアルフレッドのあんな姿を初めて見たのだろう。私の所為ですね、すいません。
「………アスナ。」
「はいっ!」
地を這うようなひっくい声にビシッと直立不動で向かい合う。アルフレッドは私の前で立ち止まると、鋭い眼光で見据えてくるが、目線?合わせられるわけないじゃないか。そんなことしたら即死じゃん。
「アスナ。俺は前に忠告しましたよね?他のものばかりに目を向けないでくれ…………と。」
「ア、アル。これは、その。成り行きで…………。」
「ええ。解ってます。けれど、お仕置きはしますよ?」
ひっ!お、し、お、き、ぃい~~!!!いやぁあ、あの。外野なら素晴らしい響きですが、当事者としては遠慮したいです。泣きそうですぅ~~。
私は言葉も出せずイヤイヤと首を振っていると、アルフレッドにぐいっと両頬を押さえられ、顔を固定された。
「じっとしていた方がいいですよ?」
アルフレッドに怖すぎる笑みを浮かべられ、硬直どころか息すらできなくなる。まじ怖い。私は観念するかの如く、目をギュッと閉じた。
平手打ち、いや、男性ならグーパンか、ウウッ、剣は…………さすがに無いよね?
何されるのだろうと全身に力を込めて待ち構えていると、フニッと唇に生暖かい感触が伝わってくる。へ?とうっすらと瞼を開けば、アルフレッドのドアップが目の前に。
「ア、んぐっ………んん~。」
なんでキス?と名前を呼ぼうとした瞬間、舌が口内に入り込んできて声は塞がれ、がっしりと身体を包まれて身動きもとれない状況。
え?なん……………で?………………これが……………お仕置き?…………………???
わけも分からぬまま抵抗すらも忘れてアルフレッドからのディープキスを受ける。そして、王子が私たちの間に割入ったことで、私はやっと解放された。
「騎士!どさくさ紛れに軽々しく唇を奪うなど、外道か!!」
「これは、お仕置きです。それに、キスは前にしたことありますし、遠慮する必要は無いでしょう?」
「キ、キ、キ、キス、した…………のか。」
「……………え?ロークやケインともしてますが?そもそも勇者の口づけは回復の特殊スキルでもありますし。」
アルフレッドの言葉に王子がものすごい勢いでこちらに振り向くとまだ呆けていた私の両肩をがっしと掴む。
「アスナ。何人と口づけを………?」
「えっ………?」
私は王子の信を問うような瞳を直視できず、視線が横にズレていく。
何人?え?ここにいる全員?いや、王子様とは未遂だったかな。……………え~、マジで?これじゃまるでビッチ確定……………。
うげっ!これがお仕置きってことか!!確かに、全員(王子様除く)とキスしたなんて、女性としての品位も好感度も駄々下がりだな……………。
あれ?でも、それって逆に好都合かも?乙ゲー脱落できるんじゃないの?
みんなのドン引きを覚悟して周りを見ると、何故かしたり顔をして全員が王子を見ていた。王子はふるふると身体を怒りに震わせていて、手を通じてこちらにも伝わる。あれ?この状況…………、おかしくない?
「…………アスナ。私は、していない。私は口づけしてないぞ!!」
う”えっ。王子様も、なんでひっかかるのそこなの?
「そう…………だったかな?」
「してない!!ここにいる皆としておいて、何故私だけ……………。」
「う~ん?タ、タイミング?」
私は冷や汗をダラダラ流しながら曖昧に答える。だって、私にだって分からないもの。
「…………アスナ。不公平はいけないぞ。となれば、私たちも口づけよう!!」
王子はそう言い出すとギュッと両肩に置かれていた手が力を増した。キラキラというか、ギラギラした目で王子が顔を近づけようとしてくる。私からは別の意味の汗が吹き出した。
キ、キス?他の人がいるここで?アルとのは不意打ちだったから仕方なかったのであって……………。いや、そもそもキスってもっと大事で……………って、私が言える立場じゃないけど。
どうしようと焦っていると、私と王子の間に剣が煌めいた。見ればアルフレッドが相変わらずの黒い笑みで、剣を構えている。王子様とのキスを阻止していただいたのは有り難いんですが、紙一重はすっごい怖いんですが。
「騎士。何のつもりだ?」
「ミスリム王子。アスナと、勇者さまとの口づけを御所望でしたら、死にかけられたらよろしいかと思いまして?あぁ、でも今は白魔導士のケインが居ますから無理でしたね。」
王子が私から手を離すと、アルフレッドも剣を下ろして鞘に納めるが、2人からはバチバチと見えない火花が散っている。
「はっ、わざとらしい。誰に向かってそんな口を。」
「おや、直ぐに身分を振りかざされるのですか?………器が小さい。」
「騎士……。お前はそんな性格だったのか。…………しかし、譲らんぞ。これだけは。」
「………。こちらとて、譲れません。」
ふおぉぉぉぉ~~。こぉえぇぇぇ~~~。一触即発~~~~。王子VS騎士ってか?私の事で争わないで………とかって修羅場に入れる人、スゴイ。………………私はただ静かに消えるのみ。
私は冷たく笑い合う王子とアルフレッドから気配を極力消して静かに後ずさる。逃げるのは卑怯だが、恋愛事は苦手だ。恋はもっとゆっくりのんびり育んでいきたいもので、こういう修羅場展開にはついていけない。ごめんなさい。
「僕は、ビッチでエッロエロな天使ちゃんでもいいよぉ~~。」
「ひゃうっ!」
充分な距離をとって安心しかけたところに不意打ちでフィルモントが私に抱き着き、ついでに耳舐めされた。ぞわわっと背中に寒気が走り、変な声が出る。それにしても、ビッチは言われても仕方ないがエロいとは心外な!…………いや、知らないだけで、本質はそうなのか??なんて考えていると、ぐいっと腕が引っ張られた。見るとケインがムッとした顔でフィルモントを睨みつけて私の腕を握りしめていた。
「こんの、化け猫!!僕の女を侮辱すんな!」
「え~、悪く言ったんじゃないよぉ~。やだなぁ~、捻くれ兎は~~。っていうか、僕のってサラッと言ったけど、まだ誰のものでも無いよねぇ~。」
私を引っ張りあうケインとフィルモントは知り合いのようだ。それはいいとして、これもヤバい修羅場パターン。今度は掴まれてるから逃げれない。猫VS兎?って………………。ここでも、私は割り込まないように沈黙を謀る。
「アスナはお前みたいな男は選ばない!!」
「それ、なんの根拠~?それに選ばれなかったとしても、いざとなれば寝取っちゃえばいいわけだしぃ~。」
「このっ!何言って………。」
「おやおや~。ウブな兎ちゃんはお相手は乙女じゃないと嫌ですかぁ~。」
「エロ猫ーー!!ふざけんなーー!!」
ケインが切れてフィルモントを掴みにかかり、すいっと軽くいなすフィルモントをケインが追いかけ回す構図になった。そして、私はフリーの身となった。すぐさま、コソコソと逃げ出せば、今度は視界にロークとカウザーの2人が入る。
「なんか、面白い状況になってんなぁ。んじゃ、俺たちも戦うか!!」
「え~。私は争うの嫌なんですが~~。特にあなたみたいな魔法切っちゃうタイプとかは~~。」
「まぁまぁ、手合わせっつー感じで、軽い気分でさ!」
「絶対、軽くないでしょ~。嫌ですよぉ~。」
ロークを嬉々として追うカウザー。カウザーがやる気満々なのは一目でわかるよね。厄介なのに絡まれたな。助けてあげれないけど。と心でご愁傷様とロークに手を合わせて、私はこのカオスから一人脱走した。
彼らから距離を大きく離すため平地の端の方まで来て、助かったなとやっと一息ついた。しかし、ちょうどその時、少し先の崖下から疾風と共にイエロードラゴンが現れる。ドラゴンはチラと私をその瞳に捕らえると空中で立ち止まり、こちらに巨体を向けて帯電を強めた。戦闘体制に入ったらしい。
うぎゃ!イエロードラゴン怒っていらっしゃる?!ヤバい!仲間を呼ば………………。
私はすぐさま振り向こうとして止めた。あの修羅場より断然ドラゴン戦の方がいい。私はゆっくりと剣をイエロードラゴンに構えるのだった。




