ちょい話 僕の天使
フィルモント目線です。
いつから居たのか…………。
どうして居るのか…………。
忘れられたのか…………、捨てられたのか………………。
何も覚えてない。ただ、僕はここに居た。
僕の瞳と同じ色の淀んだ空から冷たい雨が、死を待つだけの僕に降り注ぐ。
感情すらも無くした僕はただぼんやりといつものように佇むだけ。
人間はそんな僕など気にすることなく足早に通り過ぎていく。今日は朝から降り続く雨に人通りは少なく、たまに傘に身を縮ませて行き過ぎる人を風景のように見ていた。
「落とし物かな?」
僕の目の前にヒョイとしゃがみ込んだ少女に、やっと天使が迎えに来たのか………と一瞬勘違いしてしまった。でも、よく見れば、しゃがんだスカートからパンツがまる見えだし、顔もこの世のものとも思えないほどの美貌でもなかった。
こんな薄汚れたゴミに何の用だろう?あぁ、ゴミはごみ箱か。やっと終われる。
なぜだか、安堵した。そんな僕を彼女はそっと救いあげた。
「多分持ち主さんはいないよね?なら、一緒においで。」
ふわりと笑う笑顔と手から伝わる体温の暖かさに僕の心が初めて泣いた。
僕は僕だけの天使に出会えた。
その後、彼女の家に連れて帰られた僕は、ガシガシと洗面台で薄汚れた身体を洗われ干されて、彼女の元に収まった。彼女は明日奈という名だった。彼女は高校という学校に通っていて、僕はいつも鞄の中で登下校を共にするが、学校内のことは僕には音でしか分からない。
明日奈にはいつも休み時間や昼休みに親しくしている友人がいる。付き合いは止めた方がいいんじゃないかと思うほど、男を取っ替え引っ替え堕として喜んでいる女性だ。俺様王子、ドS執事、幼なじみ、生徒会長、ワンコ、バンパイア…………何でもありかよ。今日も今日で僕の天使に下世話な話を聞かせてくる。
「最近はね、こういったヤンデレってキャラが人気なのよ!」
「ヤン…………デレ?…………ツンデレとは違うの?」
「大違いよ。もっと愛が深いの!重いの!暗いの!!好きで好きで、心病むまで好き過ぎて、死んでも~ってくらい愛されるの!」
「へ、へぇー。スゴイね。」
「はぁ~、こんな情熱的なイケメンにリアルで愛されてみた~い。最近の男は押しが弱くて駄目よねぇ。」
「ソーダネー。イイネー、……………うん、押しは欲しいかな。」
僕の天使が珍しく反応した。明日奈の浮いた話は聞いたことがなかったから、彼女のタイプなんて初らなかったが……………、かなりマニアックだなぁ。あ、だから、男の影すらないのか。
そのあとも2人の話は続くが、段々と18禁もの?とかにシフトしていく。女性同士の話って結構辛辣でえぐい。エロトークなど男なんかより明け透けに話しているのではないんだろうか。さらに、無理矢理とか、寝取りとか、3○とか、逆ハー………、純真無垢な僕の天使が毒されると最初のうちは思っていたが、経験ないくせに明日奈は平然と相槌を打っている………。もっとこう恥じらい…………いや、エロでウブな天使とか、いいかもな♪
こちらの世界で僕は割と魔力の強い魔導士になる。王都魔導士団に一時居た時もトップクラスの方。でも、僕の心は満たされない。冷えたこの身体を包み込んでくれる温もりをつい探してしまう。
僕は小さい頃に母を亡くした。父が愛情をたっぷり注いでくれたので、別に寂しかったわけじゃない。けど、魔法を使うと、なぜか女性の姿が現れた。母でもないらしい、現実味のない女性像。皆にはそれが精霊みたいに見えるようで、おかげで僕は精霊使いと呼ばれている。この現象は僕にも説明がつかないので、これは芸術だ!と開き直っている。
女性に飢えているのだろうか?と生身の女性とも多々知り合ったが、やはり違う。何が…………とは分からないが、なぜかそう思うから仕方ない。ここにいても、窮屈だなと思いはじめた僕は一人森に引きこもることにした。
森の中で僕の精霊達と平穏に日々を過ごしていた。勇者?10プレメンバー?どうでもいい、めんどーだ。だから、いつも通りの生活をしていた。なのに、僕の森を荒らす奴らが現れた。本当なら魔法で片付けたかったけど、厄介にも僕のいた王都魔導士団の面々率いる世間知らずの勘違い王子様御一行だったから、仕方なく彼らの前に立ち塞がる。
「悪いんだけど、僕の森に大勢で騒がしく立ち入らないでくれないかな~。精霊達が怯えるだろ~。」
「君は確か………精霊使い、か。ここは我が国王の領土、君の森ではない。それに精霊など、この世界にはいない。」
王子に言われいなくてもそんなことは分かっている。全て一人よがりの幻。けど、ここは引けない、引きたくない。ここしか僕の居場所はないんだ。
入れろ、入れないで膠着状態で睨み合っていると、いきなり上空が騒がしくなる。反射的に見上げれば金色に光るイエロードラゴンが飛んできた。この先の東の果て山が住家のようで、たまにその姿を見かけたりしていたので、特に問題なしと視線を戻す。が、それは僕だけで、王子様御一行はどよめいて、すぐさま引き連れていた魔導士達が何千もの氷の刃をイエロードラゴンに向けて放つ。さらに、立て続けて今度は多量の火のつぶてを打ち込んだ。少しは効いたのかよろめきながらイエロードラゴンは飛び去っていくが、何かを落としたのが見える。
人だ!!と分かった途端、僕は風魔法を使っていた。そして、自然と身体が動いて、両手を広げ大切に大切に受け止めた。
僕の僕だけの天使。
もう一つの記憶が僕の中に溢れ出して、脳内に染み込んでいく。
やっぱり僕を見つけてくれた。僕の元に堕ちてきてくれた。
触れられる。話せる。反応してくれる。
なりふり構わず仲間の座を獲得して、側にいて、彼女の姿を見ているだけで嬉くて、パーティーメンバーの王子やカウザーと馬鹿騒ぎしている姿も微笑ましくて楽しくて…………、でも、足りない??
洞窟内でカウザー達仲間と離れ2人きり、美しい鍾乳洞でできた部屋に辿り着いた。雨のように水が天井から降り注いで、まるで僕らのあの時の出会いを再現しているかのようだった。
「………。ねぇ、覚えてる?…………僕らが出会った時も、こんなふうに雨が降っていたよね………。もう、死を待つだけだった僕に………、君はその美しい手を指し述べてくれたんだ…………。…………一緒においで、って。」
アスナが分からないと知っていても言葉が、思いが止まらなかった。あの日の笑顔が、あの温もりが…………、明日奈が欲しい。
初めて感じた強い欲求に僕は彼女を組み敷いていた。天使は堕とさなきゃ、いつか天に帰ってしまう。僕のものにはならない。僕は貪るようにアスナの唇を奪う。キスは甘くてあの温もりに似た感覚が身体を駆け巡った。身体をつなげればその温もりをもっと感じれる?布越しに触れた柔らかな胸は小ぶりだけど、僕の指に可愛らしく反応した。もっと欲しいと耳に舌を這わすと身体を硬くさせながらも反応するのが可愛くて執拗に舐めてしまった。そのせいか、シールドブレスを発動され、僕の接触が拒まれる。
あ、やり過ぎたか………、でも、めげない!服を脱がすくらい魔法でできる。うまくやれば求めてこさせる術も……………。僕は彼女を濡らす水をスライム化させる。トロトロと溶けていく服に羞恥に真っ赤になる僕の天使、これはこれで悶絶するくらい可愛いらしかった。瞳に焼き付けていると、アスナが別の抵抗手段を考えてきた。けれど、怯えながら剣を向ける姿は、小動物が捕食者相手に威嚇しているようなもので、逆に煽ってるって気づいてはないのだろう。
あぁ、すごく欲しい。恋しくて、恋しくて、何度も重ねてきた思い。元から明日奈に拾われた命。君が手に入るのなら死んでも構わない。ふふっ、まるで、前に聞いたことのあるヤンデレ?みたいだな。
………………あ、僕が彼女の理想のタイプになればいいんじゃないか?そうすれば相思相愛。
アスナの剣に首筋をあてる。ツウッと真っ赤な血が流れた。僕にも血が通ってる。彼女も僕も同じ。うっとりと感慨深にしていると彼女は怯えて僕に触れた。ふっ、こういうのが好きなんでしょう?なのに、アスナが放つ言葉は僕に命を自分を大切にしろだった。
「………………それ、単にはぐらかしただけだよね?」
不思議でそう尋ねると、明日奈はチッと舌打ちすると、一転、物凄い絶望したような顔をした。この世の終わりかってくらいに。やはり惚れたという態度とは明らかに違う。
「…………あれ?おっかしいなぁ~。今、流行りのヤンデレって、こうじゃなかったっけ?好きで好きで、心を病んで、死んでも愛してる。……………合ってるよ?じゃ、なんで恋に堕ちない?リサーチしたはずなのに……………??」
予想外の反応に慌て、素が出てしまう。すると、アスナの気配が柔らかくなった。
「………………よかった。これは、本当のフィルじゃないんだ。」
ホッと笑うアスナにあの日の温かく和んだ笑顔が重なる。僕が欲しかったもの!彼女はきちんと僕を見ている。僕のそのままでいいんだ!!嬉しくて嬉しくて抱き着いてほお擦りする。彼女が優しく撫でてくれる手もあの時と同じで温かい。気持ち良さにまどろんでいると、アスナが焦った声を上げた。僕はまだこうしていたいのに…………。面倒だから難題を突きつける。すると、彼女は真っ赤になって困惑しながらも受け入れた。え?そうなの?まさかとは思うものの目を閉じて待つと、本当にしてきた。すんごいちょっと、掠ったかくらいだけど。明日奈からなんて、これも予想外過ぎる。余りの驚きに魔法も解いてしまった。もうちょっとごねればよかったかと少し後悔。それと、アスナのキスで身体が温かくなる理由も分かった。治癒魔法、勇者の特殊スキルなのだと。残念、アスナの為に死ねそうには無いかも知れない。いや、もうヤンデレじゃないから関係ないのか。僕は君から救われた命を力の限り大切にすればいい。ふにゃりとまた擦り寄れば、撫でてくれるわけではないが、拒まれなかった。やはり素のままの方が警戒されてない。
「へぇ~。この感じで迫ると、無防備なんだなぁ~。なら、じっくり腰据えて堕とすか………。ふふっ。焦らされる狩りも悪くないねぇ~。」
「え?何?フィル?」
「ん~ん。何でもな~い。……………あったかいなぁ、小さいけど。」
アスナの温もりはあの時の僕の全身を包み込んでくれたそれよりかなり小さいけど、同じものだった。幸せに浸っていると、いきなりアスナが僕を引っぺがそうとする。
「悪かったな。小さくて……………。」
「何怒ってんのぉ~。全然問題ないよ~。小さくて可愛い~って褒めてんだよ~。い、いやだあぁぁ~、離れないぃぃ~。」
アスナが何で怒ってるのかは分からない。ただ、僕がギュッとできる小さくて可愛くなったサイズの身体を離したくなくて、ギュウギュウしがみつく。しばらくすると抵抗してこなくなり、諦めたか?と思えば、今度はアスナが抱きしめてくれる。
あぁ、そう、この温もりだ…………。僕の大好きなもの、僕の居場所。
温もりに心が満たされたので、これからどうするか思案するアスナに、僕はここぞとばかり張り切って魔法を使う。なんだったら全魔力を使ってもいいくらいだった。水魔法で外まで一気に滑り落ちる、ギュッと彼女からの抱擁にこのまま時が止まればいいとさえ思った。
到着して、大丈夫かと聞くと、放心状態ながらも無事だと教えてくれる。ついでに、勇者である彼女は失神しないとの情報も。…………それって、ずっとヤっても意識飛ばないってこと?え?暗に誘ってる?緩んだ顔をしてたのか、すっごく嫌そうな顔でアスナがこちらを見て、あからさまに話題を変えた。ついでに身体も離される。わぁ~、ヤダヤダ、離れない。このままくっつくと濡れてるから冷たいと口実を与えてしまいそうなので、風魔法で乾かしてから縋り付く。あ~、残念、服戻ってる。
それから、アスナが仲間を捜しに行こうと言い出すので、カウザーや王子もめんどーだけど水魔法で回収してあげた。優しく頭を撫でてくれるから、やってよかったけどね。
そして、カウザーに精霊が出てこなかったと聞いて、ハッとする。確かに、さっきの風魔法も水魔法にも精霊達は居なかった。普通の魔導士達が使う魔法と同じに。いつから?
多分、無意識に求めていたものが見つかったから、消えたんだ。
その理論がストンと腑に落ちた。愛しさが込み上げてきて、アスナの耳を舐めてしまう。ビクンと小さく跳ねたアスナは耳に性感帯があるのだと思う。…………これは僕だけの秘密。
そんな風にいちゃついていると、カウザーが僕らの様子に茶々を入れる。惚気たら要らない事を言いやがって、僕を離そうとアスナが暴れ出す。けど、僕だって簡単には離さないよ。
僕は執着心が強いんだ。…………逃がす気はないから覚悟しといてね。愛しい僕の天使♪
明日奈の友人はビッチではありません。むしろ彼氏などいたこともありません。乙女ゲームで男を落としまくっているだけです。フィルモントは音声のみの情報しかないため過度の誤解が生じてます。




