さまよう勇者
本編戻ります。
「ここは僕の森だよ~。」
「この国の領地だ。すなわち私のものだ。」
「ひっど~い。王子権力かざして僕のもの奪うんだよ~。どう思う~、天使ちゃ~ん。」
「勝手に自分のものにしているのはそっちだ。そうだろう?姫。」
「え~っと、森は誰のものでも無いと思います。あえていえば、自然は生きとし生けるもの全ての宝です。」
フィルモントと王子が言い合い、私に同意を求めてきたが、どちらも違うと回答をする。2人は少し不満感はあるようだが反論はできないようで押し黙った。
私がポロリと、そういえば私が落っこちてくる前、ここで何してたの?などと聞いた結果、こうなった。詳細としては、王子様が部隊を率いてイエロードラゴン討伐に向かってこの森を突っ切ろうとしたところ、ここを住家にしているフィルモントが通せんぼうをしていたらしい。フィルモントいわくこの森を大勢で通るなんて精霊が怯えるという話だが、いないんですよね?なんか視えちゃう人ですか?霊的な?……………そこはまぁ、怖いので考えないことにして、そこまで言うなら王子も迂回してあげればいいものを退くのは縁起が悪いとかで。うん、もう、どっちもどっちな争いをしていたようです。
「フィル。ところでいつ着くの?」
私は前を浮かびながら行くフィルモントに尋ねた。実は、一段落着いてから小腹が空いているのに気づいた。で、フィルモントがいい場所を知っていると先導してもらっている最中。だけど、霧の中をもう小1時間ほど歩いていた。
「……………。」
フィルモントはいきなりピタリと止まるとキョロキョロと辺りを見渡す。いや、真っ白で何も……、特殊なもの視えるんですか?私が嫌な予感で彼を見つめていると、ニコリと小首を傾げ微笑んできた。
「ここ、ドコ?」
「!!………こっちが聞きたいんだけど。」
「だって~、迷いの霧だも~ん。精霊は悪戯好きなんだよ~。」
「精霊使いを信じて、ついて行った私たちが、馬鹿だったか………。」
溜め息混じりに私の隣を行く王子が呟く。
ぐああっ!!やられたぁ!!嫌な予感はこれかっ!!って、ことは私たち完全な迷子じゃねぇかぁぁぁぁーー!!!
顔を押さえて脳内で叫んでみるも打開策を考えないとどうしようもないなと至る。少しずつだが、突発事に冷静に対応できる力がついてきているみたいだ。まずは、この霧を消してもらって現在地の確認だ。私はすっと上げていた手を下ろした。
「フィル。まずはこの霧を消してくれないかな?追っ手ももういないし、私たちも景色で方向がわかるかもしれないしさ。」
「あ~、これねぇ~。僕には消せないよ~。」
「え"?自分でかけた魔法解けないの?」
「美しくないも~ん。そのうち、消滅するから待てばいいじゃな~い。」
「どのくらい待てばいい?」
「ふふっ。」
……………うん、期待しちゃ駄目なわけね。
「闇雲に歩いてもしょうがないし、ちょっと休憩しましょうか。」
「そうだな。足も休めたい。」
「え~、僕大丈夫だよ~。」
「「そりゃ、浮いてりゃなぁ。」」
フィルモントはホワホワと笑い、私と王子はこれから大変だなぁと互いに目配せした。ヤバい、王子が至極まともに見える。
そういえば、王子も魔法が使えるんだったと聞いてみたが、他の者がかけたものは解きにくいという。特にフィルモントの魔法は変則的なため、魔導士長のエンフィさんくらいじゃないと抜け出すのも困難らしい。何気に、あのおじ様2人って凄いようだ。
途方に暮れていると、全く動きのなかった霧がサアッと引きはじめた。おや、ちょうど切れたのか?なんて悠長なことは考えられなかった。何かが結界を破ったのだ。これでも、勇者としてこの世界をしばらく旅してきた。少しは勘も養われようというもの。こっちに向かってきている何かに警戒するように剣を構えた。王子も細身の剣をスラリと引き抜いた。私はその剣を見て、RPGで王子様の攻撃力が低いのはこの所為かと知る。斬るというより突くイメージの強い剣にまたしてもゲーム設定の裏を知ってしまった気分になった。しかし、立ち姿はザ・王子様で、様にはなっています。何処の舞台ですかってくらいに。で、フィルは………勝手にやるでしょう。
「魔物じゃ………ないのか?」
一向に出てこないゲージを探す。もう、表示されても可笑しくない距離までその何かは近づいていた。
「お!!お嬢、また会ったな!」
こちらが相手を判別する前に向こうが気づき、声をかけてきた。薄くなった霧の中から現れたのは、剣士・カウザーだった。……………あれ、なんかデジャヴュ?
「なんだ、カウザーだったのか、よかった。偶然に、よく会うね。」
「本当だな。まぁ、10プレメンバーだから、出会いやすいんだろ。」
「そ、そっか……。」
目からうろこだったが、言われてみれば合点がいった。確かに、仲間に出会わないとゲームとして成り立たない。ってことは、王子や精霊使いに会ったのは偶然ではなく必然…………。あ~、なら労せずアル達にもそのうち会えるわけね。そりゃいい、と久しぶりに楽天脳が働いた。
「それより、この霧?斬っちまったんだが、お嬢んとこの魔法だって知らなくて、悪かったな。」
「あぁ、いいの。ちょうど解きたかったところだから。ありがとう。」
「そ、そうか。」
私が笑顔でお礼を言うと、カウザーは照れたように笑った。きつめの顔の人がそんな笑い方をすると破壊力半端ないですな。と、感心していると、フィルモントが私に寄ってきた。
「僕の魔法を剣でとか、ガサツだなぁ~。で、誰~。」
「あ、そっか。王子とは会ってるけどフィルとはまだだったね。彼は剣士のカウザー。で、こっちが精霊使い?のフィルモントだよ。」
「何そのハテナは。ま、いいけど~。」
「精霊使い?そんなのあったっけ?」
「自己申告してるだけだ。気にするな。」
「お!王子?!…………って!!お嬢!パーティーメンバー変わってるじゃねぇか!」
お互いの紹介に王子が入ってきたことで、気づいたカウザーがデカイ声で叫んだ。仕方ないので、アル達と逸れた経緯と王子達とパーティーを組むことになった理由を簡単に説明する。
「じゃあ、今は仲間は2人か。なら、俺入れるな!!」
カウザーは私の説明を聞くや否やパアッと目を輝かせた。
「え?や、この2人には押し切られたっていうか…………。」
「押しに弱いのか!!俺を仲間にしろ!!」
ガシッとカウザーは私の両肩を掴むとグイグイと文字どおり押してくる。お陰で私は力負けして、どんどん後ろに後退させられた。そして、木に背中が着く。壁ならぬ木ドンですか?
「いや、そういう意味じゃなくて。」
「はぁ?なにがダメなんだ?今度こそメンバーの座を奪い取ってやろうと思ってたけど、空いてんなら問題ねぇだろ?」
「だから、これは成り行きでこうなっちゃってるだけで、変える予定ではなかったわけで。」
オロオロとしていると、ぐいっと顎を捕まれて顔を上げさせられた。カウザーの真っ直ぐな強い視線に居すくめられる。
「アスナ、次は離さねぇって言ったよな?」
「………え?っと」
いつそんなこと聞いたっけと思い出そうと目をさ迷わせた。カウザーと会ったのはサウスの街と………あ、天然温泉でも会ったっけ?と呑気に考えていると。
「こうして約束しただろう?」
カウザーの声と共にふにゅっと柔らかな感触が唇を押して、すぐに離れる。
「うわぁぁぁ!!!」
思い出したっいうか、忘れていたかった!!キスしたこととかっ!っていうか、また、キスした!!カウザーって、エロさがなさ過ぎて、あの時も今も完全に油断してたよ!!
私は真っ赤になってすぐさま口を手で塞いだ。私の雄叫びに、どしたどしたと王子とフィルモントがやってきた。
「貴様、姫に何をした!顔が赤いぞっ!大丈夫か!!」
「カウザーさん、コワモテだもんね~。脅されちゃったの~?」
どうやら2人の角度からだとカウザーの背中しか見えず、何が起こったのかわからなかったようだ。よかった鈍感な2人で、安心したのも束の間。
「いや。俺はただ約束を思い出してもらおうとキス……。」
「うおーーーーッッ!!そうだったね!!仲間にする約束だったね!!!」
私は慌てて大声でカウザーの言葉を重ね、発言を阻止した。
折角、見られてなかったのに自らバラしてんじゃねーよ。危ねぇ。…………いや、もしかして嵌められた?
ハッとしてカウザーを見上げる。しかし、カウザーは単に嬉しそうな顔で「これからヨロシクな」と私の頭を撫でてきた。彼に裏は無いみたいで、単純なのにも引っかかる私って…………どうよ。こうして、私の3人目のパーティーメンバーも決まってしまった。
「あれ?でもいいの?どっか行く予定で、この森にいたんじゃないの?」
「ただの放浪中だから、心配ねぇ。俺、昔から、なかなか目的地とか着かねぇからさ。もう、つくる自体やめたんだ。」
私の疑問にワハハと豪快に笑いながらカウザーが答える。多分、私を含めてこの場にいる3人ともあきれ顔になったのは、言うまでもない。
カウザーは真正の方向音痴。そして、絶賛迷子中だったのか…………。
やはりパーティーメンバーは慎重に組むべきだった…………、一抹の不安を抱える私だった。




