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ちょい話 オレンジの姫

ミスリム王子目線です。主人公との絡みを全部書いたら長くなってしまいました。


 夕暮れ時のオレンジに染まる時間は嫌いだった。この色は私と同化して私はまるでいないかのように消えてしまう。ここにいる。私は存在している……………?いつも不安になる時間だ。


 今日もまた、この時間が来る。


 私はいつものように忙しない人々の往来を出窓に佇み眺める。ゆっくりと景色がオレンジ色に染まりはじめる……………。


 そこに1人の女性が現れた。私をチラリと視界のはしに捕らえると直ぐに足を止めた。彼女は時が止まってしまったかのようにジイッと硝子越しに私を見つめる。いつものように明るいオレンジ色が私の姿をかき消す。なのに、彼女が目を逸らすことは無かった。やっと彼女が視線を動かしたのは、闇が侵食し始めた頃だった。そして、私の側に置かれた値札に渋い顔をする。彼女は制服姿でどこにでもいそうな中学生だった。私は中学生が小遣いで買うには少しばかり高価だ。戯れに私を眺めただけで、去って行くだろう。動き出した彼女が店の扉を開けた。


「すいませ~ん。」

「はい、いらっしゃっいませ。」


 彼女は店長の男性と少し話をするとそのまま帰ってしまう。少し期待したが、やはり今回もダメだったか。

 その日の閉店後、私は出窓から奥の倉庫へと移された。もう、オレンジの光に晒されなくて済み、ほっとする。なのに、どういうわけか彼女が忘れられない。さらに、時が経つに募っていくこの気持ちは何なのだろう?


「いらっしゃい。とっておいてるよ。」


 倉庫に移動して数日たった頃、そういって私は店長に連れ出された。夕暮れでオレンジに染まる店内、そこにはいつかの彼女が立っていた。ほわんと微笑んだ瞳で私を見つめる。


「まさか、本当に来たんだね。冷やかしかと思ってたんだが。」

「かなり遅くなっちゃって、すいません。貯めてるお金だけじゃ足りなくて、親に前借りするのに手間取ってしまって。」

「いや、別にこっちはいいんだよ。じゃあ、壊れないように包むから待ってて。」


 店長はそういって私を柔らかい布で包んでいく。そうか、私はあの日、取り置きされたのか。心が締め付けられるように嬉しくて苦しくてドキドキして仕方ない。


「まいどあり。本当に嬉しそうだね。そんなに気に入った?」

「はい。あの日、一目惚れしたんです。」

「ハハッ。そうかい。じゃあ、大事にしてね。」


 店長に笑われながら彼女の手元に私は渡された。包まれた私には彼女の顔は見えなかったが、はにかむような彼女の声に、あの日私も彼女に一目惚れしていたのだと知った。


 それが、明日奈との出会い。



 この世界での私は誰もが憧れる存在の王子様だ。


 理想的な王子となるべく剣も魔法も所作を身につけ、国王が不在時には表に立つことも多くなった。王子であることが私の存在価値だ。


 予言どおり、勇者がこの世界に現れた。が、私はメンバーに選ばれなかった。なぜだ??駆けつけて理由を問い質したいが、王子として焦燥する姿など見せられない。私は勇者がサウスの街に来るとの噂を聞いて、最近城内や王都を襲撃してくるドラゴンの討伐を勇者に依頼するとの名目で、悠然とサウスの街に馬で向かった。


 着いて早々、やけに騒がしく人が集まる路地があった。やじ馬が喧嘩だとか話している。興味は無いが通り過ぎるついでだからと目をやると……………彼女、勇者アスナがいた。私は引き寄せられるように彼女へと馬を向けていた。


「かっこいいっ!」


 私を見るなり大興奮で彼女は私を褒めたたえる。元の世界で私に一目惚れしたのだから、こちらでも当たり前か。しかし、そうなると余計選ばれなかった理由が気になった。


「王子様だから。」


 恥じらう彼女に頬が緩む。明日奈は元の世界で色恋沙汰には縁がなかった、だから惚れた男性に側にいられるのは照れるんだな。私はかわいい言い訳に乗ってやる事にする。

 そして、私の城への招待に、彼女は満面の笑みで受けてくれた。私はここで余裕を見せつけるように、颯爽と去る。彼女の周りには男共がいたが、どいつもライバルではない。なんせ、私は一目惚れされている、愛されている。確信を得て、私は彼女を迎え入れるため城へと急いだ。


 勇者一行が城に着いたのは翌日だった。私が出迎えると…………なぜ、取り巻きに纏わり付かれているのだろう?そういえば、路地での最初の出会いの時も同じだった。嫌がるというより困ったような表情の彼女に少し心が焦る。まさかな。断ち切るように話題を変えた。

 彼女と庭園の散策と洒落込みたいところだが、男共のガードが固い。騎士も私などと話などしたくないだろうに物腰柔らかい態度で私に就く。距離が縮められないことに、焦りが増す。さらに、このままここを発つとまで言い出した。それは考えてもいない事だった。こんなにも早く行ってしまうのか。それも、私との甘い刻を過ごすこともなく?……………あぁ、そうか彼女がとてつもなく奥手だと忘れかけていた。私がリードしなければならない。なんとか城への宿泊を了承させる。しかし、1晩だけ。好いている相手とひとつ屋根の下にいることも恥ずかしいようだ。


 夕食時でもあるので、晩餐用に彼女に装いを整えさせた。メイド達が気を利かせたようで、彼女はオレンジ色のドレスを纏っていた。私はその姿にしばし言葉を失う。その姿は夕焼けのあの日を彷彿とさせた。すぐに我に返り褒めてみるも、上手い台詞は思い浮かばなかった。はたとパーティーメンバーの男共も彼女に熱い視線を送っていることが目に付いた。と、いうか、誰がこいつらにまで正装をさせている!!これでは、彼女がいくら鈍感でも、たらし込まれるではないかっ。私の焦りが最高潮に達した。


 今宵しかない。彼女を私のものにする。


 彼女の食事に媚薬薬を混ぜるようこっそり伝え、晩餐会が始まる。前菜に薬を仕込むのは間に合わなかったが、メインまで品数は多いので心配ないと考えていたのだが………。薬の利きが良くなるであろう酒には手をつけない、さらに、食事は緊張のあまり一口しか食べられないという事態が起こる。しまった。惚れている男の前でガツガツと女性が食べるわけがないではないか。予期せぬながらも幾分かは媚薬を口にしたはずだが、彼女に特に変わった兆候は見られない。量が足りなかったようで、私は次なる作戦、もっと媚薬を盛ることにした。恥ずかしいがりやの彼女に素直になってもらうにはこれしかない。

 彼女に宛がった寝室に特殊な媚薬香を焚かせ、茶菓子に即効性の媚薬を多めに混ぜ込ませた。そして、彼女が寝室で落ち着くのを見計らって、茶菓子を持参する。メイドと執事の2人はカモフラージュだが、この2人、実はお互い好いているが中々動きがなく周りが心配しているのだと伝え聞いている者達だ。彼女の部屋へ行けばメイドも充満する媚薬香の効果を受けるだろう、さすれば…………まぁ、よい事になるだろう。ふふん。なに、これは幸せのおすそ分けというものだ。


 なのに、おかしい。段取りどおり彼女の部屋には媚薬香がむせ返るほど充満し、多量の媚薬入りの菓子を何枚も食べているというのに何事も起きない。先ほどメイドは倒れ、執事と共に出ていったので薬の効果は間違いないはずだ、解せん。しかし、触れると彼女の顔が赤くなった。あぁ、薬などもうどうでもよい事だった。想い合う男女2人がひとつの部屋に。ならば何を臆することがある。オロオロとするシャイな彼女に近づき、詰め寄った。行為を怖がる彼女にそっと優しく唇を寄せる。背ける顔も愛らしく、焦らし煽られるようで艶やかな黒髪に口づけた。


 そんな、タイミングでいきなりいけ好かない騎士が現れた。場の甘い雰囲気が掻き消される。それとともに彼女がよく分からない事を言い出す。中身?器でしかない私に………?私は愛でられないのかと絶望感に打ちのめされた。しかし、彼女は私を励ますように国宝になれと言う。そうか!見た目だけの王子ではなく、国王にも国民にも認められる立派な真の王子になれということか!!それまでは周りには恋心がばれたくないという慎ましやかな心情も理解した。よかろう大丈夫だ。私には真意が伝わったぞ。確認の意を込めて遠回しに問えば、彼女も仄めかして答えてくれる。やはり、好かれている。私の実力が分かれば仲間になって旅もできそうだ…………。ふふっ。どうだ、通じ合うものにしか分からぬこのやり取り。恨めしそうな顔で騎士が彼女を連れ去るが、微塵も焦りはしなかった。彼女に見合う王子となって姫を迎えに馳せ参じるのだっ!!私はすぐに真の王子になるためにすべき事を考える。

 やはりまずは王都で暴れているイエロードラゴン討伐だろう。勇者パーティーに依頼した事で国家騎士団も王都魔導士団もやけに血の気を多くさせていることだし、我ら精鋭部隊でドラゴンを倒して彼女には龍玉をプレゼントすれば、私の株は一気に上がるではないか。私は非常召集をかけ、翌早朝から遠征に出発した。


 途中、精霊使いと揉めているところにイエロードラゴンを発見する。ここぞとばかりに魔導士団が攻撃すれば驚いたのかドラゴンは飛び去った。その時、上空から彼女が落ちてきた。精霊使いに助けられた彼女は死んだと思い込んでいるようで、精霊使いと天使がどうのと話をしている。私も天使が落ちてきたかとちょっと思ったとは言わず、現実を教えるため心音を感じられるよう彼女の手を自分の胸にあてた。すると、ア、アスナが私にっ、す、縋り付いてきた。こんな大勢の前で、シャイな彼女が、こんなに大胆な行動を!!固まっているうちに、ドルとエンに冷やかされ、彼女が離れてしまう。しまった。精霊使いと話しているではないか。気を取り直すとすぐさま会話に割り込んだ。


 聞けば、彼女はドラゴンに連れ去られているところだったらしい。攻撃してしまった事を謝るとともに、私は我が部隊の不甲斐なさを知った。部隊員に問えば、彼らは逆ギレをする始末。部下の失態は私の責任だ。彼らを過信し過ぎたのか、いや、私が盲目だったのだ。このまま、ドラゴンと戦闘しても勝ち目はほぼ無い。多少の傷を負ってもここで彼らを撤退させねば。覚悟を決めて対峙していると、アスナが私の前に立つ。そして、私を引き連れて逃げ出した………。何が起こっている??余りにも予期せぬことに咄嗟に自分の状況が理解できなかった。思考が追いついて喚くも、彼女は聞く耳を持たなく、やっと止まった時には精霊使いの霧の中。私の計画は目茶苦茶になってしまった。ま、まぁ、謝る彼女はかわいかったし、私は寛容なので許してやるがな。


 その後、ドルとエンが現れて邪魔な精霊使いを大人しくさせ、アスナにやっと真相を伝えられた。落ち込む彼女をドルが慰める。それは私の役割だろう!溜め息混じりにぼやくと、彼女が涙目で謝ってきた。なぜだ。これでは私が悪者ではないか。うろたえ繕う言葉を探していると、今度はエンが彼女の顔を上向かせる。お前のようなミドルエイジがそういう態度をとると、彼女が誤った道に入ってしまうだろう!!焦ってみるも、どうやらエンはそういう目で彼女を見たわけではなかった。ドルとエンの会話は彼女を私の伴侶として、認めるという話のようだ。そのあとも何か話していたようだが、そんなことは頭に入って来なかった。


 明日奈が私の妻に。


 一人で萌えていると、話が変な展開になっているのに気づいた。私が伴侶から仲間に格落ちしている。更に、護衛?しばらく?どういうことだ?と思い、発した言葉にドルとエンが反応して、私の両腕を掴むと素早くアスナから引き離される。


「いいですか、王子。勇者殿を好いておられるのは傍から見てもわかり易すぎるくらい承知しております。ですが、今はパーティーメンバーから、友からでも良いのでまずは側にいることです。」

「恋愛経験豊富じゃない俺らから見ても、勇者殿はそういうことにはかなり疎いタイプだろう。そういう子は下手にがっついちゃならねぇ。ほら、追われりゃ逃げるっつうだろ。」

「とにかく、勇者殿にはじっくりと王子の良さを理解してもらう事が先決です。」

「そーそー。頼りねぇとこが、こう、ほっとけねぇって感じにな。」

「私は頼りない………?」


 ギロリとドルトスを睨むとどぎまぎとしだす。こいつはたまに本音をポロリと…………。おい、それ本音か。


「まあまあ。落ち着きください。ともかく、勇者殿にはパーティーメンバーの承諾を得られたのですから、しっかりと彼女の心を掴んでからご帰還下さい。」

「部隊員の件は我らががっつり再教育させておくし、城も国王陛下とちゃ~んとやっておきますから、頑張って下さいよ。王子。」

「お、おまえら、ちょっと待て。」


 端的に言って去ろうとするドルとエンを引き止めようとすると、霞みにいなくなったアスナの悲鳴叫が聞こえた。


「あぁ、フィルモントの奴を解放しておきましたので、彼が勇者殿に接触したのでしょう。」

「それは、急いで助けに行かなくてはなりませんな。あの男、手が早そうだし。」

「お前ら、こういう時だけ連携良くっ!!」

「「では、我々はこれより全部隊を引き上げます。ミスリム王子。勇者殿にくれぐれもよろしくお願いしますとお伝え下さい。」」


 ニマリと笑顔で会釈すると、ドルトスとエンフィは靄に姿を消した。ドルとエンのお膳立てに乗るのは癪に触るが…………仕方ない。私はアスナの元へ声を頼りに足早に向かう。


 明日奈は私の姫だ。精霊使いになど、いや、誰にも渡すわけにはいかない。



初期メンバーだけの予定だったが、書いてしまった………。こうなると、全員かぁ。


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