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アスナの受難

 このゲーム…………やっぱり18禁ものじゃないの??


 私はフヨフヨと浮かぶシステム文字に唖然としながらそんなことを心の中で呟く。


 温泉事件は彼らには何らダメージを与えることはなく以降の冒険は順調に進んでいた。そうして、私たちは今、山間にある一軒の宿屋に辿り着いたのだった。王都を出てから野宿ばかりで久々に出会えたオアシスと思っていたのに………ありえない。

 この宿はな・ぜ・か全室2人部屋。さらに酷い事にツインルームとダブルルームしかないという、何だそれ仕様。そして、空いている部屋はそれぞれが一室ずつだそうで。勿論、泊まらない選択は早々に却下された。夜の山で一人野宿もできない。………そう、もんのすごいシステムの強制力を感じます。で、その元凶はざまあとばかりに文字を浮かべている。


    誰と同室になりますか?     1.アルフレッド(騎士)

                    2.ローク(黒魔導士)

                    3.ケイン(白魔導士)



 全くルートを選択していないというのにどのような仕組みになってるのだろう?そもそもまだRPG的には序盤。そういうのはエンディング、せめて佳境のあたりに配置するべきイベントじゃないの?…………また、深く詮索し過ぎなのかしら?


 宿屋のロビーカウンターで私の選択を待つ3人に目を戻す。


「同室でも何も無いよねぇ?」


 きっと私の思い過ごしなのだろうと3人に軽い感じで聞いてみた。


「精一杯、頑張ります。」


 うん。アル、眠るだけなのに頑張ることなんて無いよ。


「もちろん~、優しくするよ~。」


 へぇ~。優しくされる意味わかんないなぁ~。ローク。


「たっぷり、満足させてやんぜ。」


 ケイン、満腹だよ。もう、何もいらねぇ。


 と、天然で返せるほどピュアじゃない私は引き攣った笑いを返す。


 あー。なぜだろう。貞操の危機しか感じなーい。私、擦れてんのかなー。たぶん乙ゲーにハマってた彼女のせいなんじゃなーい?

 

 と、明後日の方へと思考をずらす。乙女ゲームにどっぷりとハマっていた友人、そういえば彼女は一応良識はあり年齢制限はきちんと守っていた。18禁ものの知識は彼女の大学生の姉からの入れ知恵だ。そもそも友人が乙女ゲームを始めたきっかけも姉からのおさがりゲームからではなかったっけ…………。で、15禁では濁すに留まるピーな表現が18禁だとモロ……………。


 うげっ………。ちょい待て、このゲーム15禁ものだとして、行為の部分は仄めかすだけだとして…………。それって、リアルだとどーなるの?現実も飛ぶ?そこんとこすっ飛ばしてくれる?


 どんよりとした目でシステム文字を見る。楽しげに浮かぶように見える文字。今まで話が飛んだとこは無い、というか普通現実では時間は飛ばない。


 ふぇぇぇーーん。乙女になぜこんな酷い仕打ちーー。そだ!ヒロインならこんな状況だと失神とかして乗り切れるんじゃ。…………で、失神ってどうやんの??……………。

 ダメか。だいたいさぁ、リアルにそういう行為って想像できないんだよなぁ。想像力が乏しいのか、実感?が湧かないっていうか………。はっ!この場でやけに冷めてんのもそういうことなのか?!

 

 一人でやけに納得してみた。そういえば、王子様に誤解で迫られた時も、意外と冷静に対応できてた気がする。おおっ、再度納得したわ。

 そんな私の心に呼応したのか、今まで表示されていたシステム文字はサアッと消えて、新たな文字が浮かび上がる。

 

「プレビュー?」

 

 ぽそりと小さな声で読んでみるとパアッと文字が光り、私の視界を真っ白にした。


 一瞬の目くらましにあって、その視界が戻った時には私は全く別の場所にいた。目の前にはドーンとデカイベッドとこぢんまりとしたサイドボードの上にランプがあるだけの簡素な部屋。ゴージャスさは無いけど落ち着いた雰囲気の部屋で悪くない。


「へ?…………どこ?ここ。」

「ここが今夜、俺達が泊まる部屋。」


 ガチャと鍵のかかるような音と共に背後から声がして、驚いて振り返れば、やけに熱い目線で私を見つめる真顔のアルフレッドがいた。


 あ、アルと泊まる事になったんだ………け?


「…………アスナ。やっと俺を選んでくれたね。」


 私に近づくなりアルフレッドは優しく強い力で抱きしめてくる。思考の追いつかない私は突っぱねることも忘れて不思議に彼を見上げた。呆ける私の唇にアルフレッドの唇が重なる。


 ん?!キス……っ!!


 全身の血がカァッと沸騰したみたいに熱くなる。焦ってアルフレッドから離れようとしても完全にホールドされていて微動だにしない。その間に口づけはさらに深く濃くなって、頭をぼうっとさせた。


「…………んっ。」


 脱力してカクンと膝から崩れる私をアルフレッドは腰を抱いてベッドへと座らせてくれる。そこで、ようやく唇が離された。


「明日奈…………。俺はいつもここに、あなたのそばにいた。」


 そう言うとアルフレッドは私の左手をとると手首に愛おしそうにキスをした。そして、そのまま私をベッドへと押し倒し。


 ェ、え″え”ええええ。なんで私、易々と押し倒されてんの?!


 ぎょっとして覆いかぶさるアルフレッドを見ると、切なく甘く彩られた瞳で見つめ返された。ギュッと胸が苦しくなる。大切な何かが引っ掛かっている気がする。


「好きだ。狂いそうなほど焦がれてた。俺は………明日奈が大切にしてる・・・・だ。」


 な、に??ノイズ?


 はっきりとした声のはずなのに一瞬聞こえなかった。もう一度と口を開こうとした私にまたしても口づけが降って来る。アルフレッドは私を掴む左手首にさらに力をこめて、もう片方の手が私の太ももに触れた。暖かな体温が伝わる距離感にゾクッと背筋が震える。


「ん、アル…………。」

「明日奈…………。俺、思ったよりも余裕無いかも。下手だったら………ゴメンな。」


 顔を上げてフッと照れ笑いをしたアルフレッドは壮絶な男の色香を纏っていた。彼の顔が今度は首もとに埋まると、太ももの手がすっと肌をなぜる。


 っ!!これって………やんの?うわっ、マジでっ!ひぃえぇぇーーー、心の準備がぁぁーーー!!!


 心の中で大絶叫すると、サアッとまた目の前が真っ白になる。唖然としているとぐいっと誰かの腕に抱きしめられた。すると、ゆっくりと視界が回復する。そうして、そこには柔らかく微笑むロークが…………いた。


「あれ?アルは?」


 ロークの胸に預けていた頭を離して状況を確認するため周りをキョロキョロする。居るのはアルフレッドと入った部屋と同じで、大きなベッドの端にロークと一緒に座っていた。


 あれ?どうなってんの?


 アルフレッドはどこに消え、ロークがどうやって現れたのか。思考が追いつかない。まだキョロキョロする私を後ろからロークが長い腕で抱きついてきた。


「私と二人きりなのに、他の男の名を呼ぶのですか?」


 焦れたような声が間近で耳を掠めてブワッと私の体が粟立った。


受難はまだ続く。

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