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それぞれの思い

 廊下を行くアルフレッド。引きずられる私。静かな薄暗い空間に2人。


「アル、助けに来てくれてありがとう。それから、……………ごめんなさい。」


 沈黙が辛くなって私は口を開く。


「なぜ謝る?」

「アルが怒ってるから。」

「相手が怒っていたら、とりあえず謝るのか?」


 アルフレッドが意地悪く言ってくる。トーンはいつも通りだから、余計に怒りは深い。


「………私が悪いと思ったからです。」

「何が悪いと思った?」

「アルの言うとおりにしなかった……とか。」

「とか?」

「………。」


 答えに詰まるといきなり廊下の壁に体を押さえ付けられた。ん?これ壁ドンってやつ?背中と後頭部を思いっきり強打でかなり痛いが。見上げれば私を囲うように立つアルフレッドは切羽詰まった顔で真剣な眼差しを向けてきた。


「アスナは、俺の好きという気持ちを軽く考えているだろう。」

「そんな…………ことは。」


 否定できなかった。わからない感情だから。私が彼らに抱く好きとは違うとしか。


「明日奈。すぐに答えを出せとは言わない。けど、俺の前で他の者(物)にばかり目を向けないでくれ。そうでなければ俺は…………。」


 アルフレッドは言葉を止めると、すっと顔を耳元に寄せてきた。


「……狂ってしまう。」


 一言呟くと同時に私の耳に軽く歯を立てる。それは毒牙のようにドクンと私の心臓を跳ね上げた。


 怖い、怖い、怖い。なに、アルさん。ヤバい系??


 縫い付けられたように身動きとれない私の首筋にハァと熱い吐息を漏らし、顔を上げたアルフレッドはいつも通りの紳士に戻っていた。


「解りましたね。」

「…………は……いっ。」


 こくこくと大振りに首を振りなんとか声を出すと、アルフレッドは私の左手首を掴んでまた廊下を歩き出す。私はアルフレッドの本性を垣間見た気がした。アルは絶対に狂わせてはいけない。私はこれだけははっきりと解った。



 廊下を右や左、階段を下りたり、上ったりしてひとつの扉の前でやっとアルフレッドが止まる。


「ここが俺達に充てられた部屋です。中にロークとケインもいますよ。」


 説明されてから扉が開かれる。言われたとおり部屋にはロークとケインがいた。ケインはベッドサイドに腰掛けて、ロークは部屋をうろうろとしていた。


「アスナちゃ~~~ん。大丈夫だったぁ~~。」


 私の姿を見るなりロークは駆け寄り抱きしめてくる。かなり呑んでるようでロークからは酒の臭いがした。


「ありがとう。ロークのおかげで助かったよ。」

「ごめんね~。もっと早く気づいてあげられれば良かったんだけど、思念が読みづらくて~~。今度からはもっと助けて~~って強く思ってね。………で何があったの?」

「ミスリム王子に襲われかけていた。」

「やっぱり。」


 アルフレッドの答えにロークの声音が変わる。ロークは私の髪に鼻を近づけるとクンクンと私の臭いを嗅いだ。


「強い香りに紛れてるけど、媚薬香の香りがする。」

「そういえば、部屋にむせるほどの匂いがしてたが、媚薬?………俺は変化ないが。」

「女性にだけ効く独特なものだね。アスナ、気分は?平気?」

「あ、うん。他にも食事とかにも媚薬盛られたみたいだけど、どれも効かなかったみたい。」


 私の顔を心配気に覗き込んだロークが私の答えを聞いてほわりと笑う。


「良かった~。事前に予防策打っといて正解だった~。」

「予防策?」

「うん。万が一を考えて差し替えのジュースに薬を入れてもらうように執事に頼んどいたんだ~。勿論、彼にはアスナの持病薬だって渡したんだけど~。」

「薬……?」

「状態異常を回復する薬だよ~。毒や麻痺、眠りとかに効くんだけど、媚薬にまで効果あって良かったぁ~。」

「そうだったんだ…………ほんとにありがとう。」


 ロークにそっと縋った。もし、媚薬が効きまくってたら今頃は………と思うと今更ながら身震いがする。


「今回はたまたまうまくいったからよかったけど、おまえにはそもそも危機感が欠けてるといつも言ってるだろうが。」


 ケインがベッドに座ったまま、ツンと冷ややかに鋭い口調で痛いところをついてきた。


「だって、王子様がそんなことするなんて思わなくて……。」

「だから、肩書に騙されんなっつってるだろ。優しく近づく奴ほど危ねぇんだからな。」

「はい。今回身をもって勉強しました。」


 その言葉に私は王子より廊下でのアルフレッドを思い出してしまい、あれは大いに身に染みたと真面目に反省。


「もう、ど~して憎まれ口ばかりなのかな~、ケインは。実はこの薬はね~、ケインの回復魔法を私が固めて試作してたものなんだよ~。前にアスナちゃんが毒にやられた時あったでしょう?今後、もし自分が助けられなかったらってケインが私に相談してきて作り始めたんだよ~。って言えばいいのに~。」

「んなこと!………思って作ったんじゃねぇよ。」


 ロークによって真相を暴露されたケインはふいっと顔を逸らし、尻すぼみに呟く。けれど、その横顔は真っ赤で図星だってバレバレ。あまりの愛らしさに私はケインの側に駆け寄ると思いっきり抱きしめた。


「うぁっ!!何すんだ!!」

「ありがとう、ケイン。………みんなの連携のおかげで今の私があるんだね。本当にありがとう。」


 ぎゅうぎゅうとケインを抱きしめてほお擦りする。ケインにはこれだけでも癒しの力があるのか、私の心が落ち着くようだった。


「おまえな………。」

「ごめん………もうちょっとこのままでいさせて。なんか………安らぐ…………ぬいぐるみ抱いてるみたいな。」

「はぁ……………。」


 ケインは盛大なため息を漏らし煩わしそうにしながら、私にされるがままにしてくれる。


「けど、これでライバルが1人減った。結果オーライか。」

「それが…………そうでも無いんですよ。」

「はぁ?!無理矢理やられそうになった相手だろ。王子は嫌いだよな。アスナ。」

「………ふぇ??………嫌いもなにも無いって言ってるじゃないかぁ。やられそう?になったのも………ちょっと錯覚が暴走しちゃったのよ。………ん~、魔がさすってやつ??」


 私にはすでに睡魔が襲ってきていた。それでも、王子への誤解を解かねばと思いを唇に乗せる。


「なんだよ、それ。」

「だって………王子様、きっと悪い人じゃないよ。なんか…………10プレのメンバーって………親近感があるっていうか………何だろう………この感覚………みんな嫌いじゃない……………寧ろ………好き…………?」


 まどろみながら言葉を綴る。よくわからない感情が私の中で靄のようなはっきりとせず燻っている。


 もっと………もっと、好きに………なって。愛着を………愛情に。そして…………。


 頭の中で響く声。この世界に引き込まれた時に聞いた。これは誰のもの?


 私はふわふわと気持ち良く眠りの世界に吸い込まれた。ケインに体を預けたままで。


「すぅ………。」

「え。おい。アスナ。てめぇ、このまま寝んな。さっきのふわっとした好きってどういう意味だ。教えろ。」

「あらら………。返事はもう無理かな~、アスナちゃんマジ寝しちゃった~?」


 ひょいとロークがアスナの顔を除き見て、頬をツンと突く。


「ありえねぇ。こんな状態で寝れるとか…………。がっつり掴んで離れねぇし。」

「良かったじゃない~。アスナちゃんと久しぶりに一緒に寝れるよ~。」

「そ、それは元の姿の話で。」

「ケイン。今回だけは添い寝を許します。けれど、絶対に手を出さないでくださいよ。」

「………アルまで。それに何で上からなんだよ。………あ~、くそっ、好きにしろ!!」


 呆れるとケインはアスナごとベッドに倒れた。ロークはアルフレッドにもっと飲む~と酒席の誘いをかけてその夜は過ぎていった。




「…………ン。」


 私は朝日の眩しさにユルユルと覚醒した。うっすらと瞳を開けて気持ちのよい抱きまくらを手繰り寄せる。ピンクのふあふあ~~。


「やっと起きたか……。」


 不機嫌な男の声にパチリと目を見開く。


「ぎゃぁぁぁぁ――――。」


 私は胸元にいるケインを思いっきり突っぱねて、飛び起きる。ベッドの上で頭を抱えてうろたえていると部屋のソファーにいたロークがのそりと起き出した。


「大声やめて~~。頭痛い~~~。」

「いやぁぁぁーーー。」


 私はさらにパニック。手っ取り早くベッドのシーツに包まって全身を隠す。


「おい。何、寝ぼけて変な想像してんだ。服着てるだろが。」

「………。」


 仏頂面のケインがのそりと起き上がる。相変わらず寝起きは不機嫌??

 私はシーツの中の自分の状況を確認して、むむっと顔をしかめる。


 確かに服は着ているが…………。


「だからってなにもなかった証拠は無い。」

「はぁ?!おまえは僕の我慢を………。」


 ケインがギロリと私を睨む。けれど、ふっと思いついたようにその顔がにやりとした。嫌な予感と感じた瞬間、ケインに両腕をとられベッドに引き倒されると馬乗りになられる。


「僕は喰うなら寝てるより起きてる奴がいい。その方が反応を愉しめる……だろ。」


 ケインはからかうような顔をゆっくりと私に近づけてくる。ちょうどその時、部屋の扉を開けてアルフレッドが入ってきた。


「朝食を運んできました。そろそろ起きて………!!」


 アルフレッドは私たちの状況を一瞥して止まった。


 そのあとの惨状は…………、お察しのとおりです。



 

「昨日の今日でその冗談はふざけ過ぎです。」

「「すいません。」」


 なぜか、ケインとともに私までアルフレッドに怒られた。なんたる理不尽か。

 しかし、それで仕切り直して、私たちはアルフレッドが運んできたが冷めてしまった朝食をこの部屋の小さな据付けテーブルにていただいく。ロークは二日酔いのようで、騒動中でもソファーでぐったり。なので、飲み物だけを採った。


「あれ?そういえば私たち部屋で食べてていいの?王子様は?」


 食事途中ながら私は何とは無しに聞いてみた。途端にアルフレッドの顔が険しくなり、ケインは呆れるような視線をくれる。私はザアッと顔を青ざめさせて慌てて水を飲む。


「ミスリム王子が気になるのですか?」

「いえ、あのっ…………。はい。あのまま放置しちゃったので、気になります。」


 アルフレッドの質問に否定しかけて、やはりと正直にと思い直す。


「……………はぁ。王子なら頗る元気らしいですよ。また何を勘違いしたのか、早朝から小隊を指揮してどこかに遠征に向かったとのことです。」

「何だそりゃ。」

「知りませんよ。ただ、アスナが影響したことは確実ですが。」


 ため息まじりにアルフレッドとケインにジト見されてしまった。えっ。そんなこと言われても、私にも王子様の思考は読めませんよぉ。私はへらっと複雑な笑みを浮かべるしかなかった。



 そんな朝食を済ませて、なんだか疲れのとれないまま私たちは王子がいなくて少し静かになった城をお世話になったメイドさんや執事さん達に見送られながら後にする。その中には昨夜の2人もいた。なんだかちょっといい雰囲気に思えて、やはりあの後は………と私が気恥ずかしくなってしまったことは言うまでもない。


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