誤解には誤解で
「騎士……。なぜ、ここに。」
王子は扉の方を振り向いて、不快感をあらわに呟いた。そう、やってきたのはアルフレッドだった。アルフレッドは私たちの状況を見るなり眉をしかめる。
「アスナの居場所はロークの贈ったネックレスですぐわかる。何か起こってるようだと聞いて、城内に1番詳しい俺が来てみた。けど…………、なぜミスリム王子が一緒にいらっしゃるのですか?」
「メイドが外れないと言っていたネックレス、あの黒魔導士のものか。………ふん。過保護な男共が付いているものだ。けれど、逢瀬を邪魔するのは些か度が過ぎてないか?」
やんわりと王子に抱き寄せられた。私は青ざめるほど血の気が引く。アルフレッドのオーラに怒りが増していくのが嫌でもわかる。
「逢瀬???どういうことだ?………アスナ。」
うっぎゃ~。王子様の誤解がアルにまで移ってる~~。なんで、修羅場~~~。こういうの勘弁してくれ~~~。
「………違う………。」
アルフレッドのいつもより低い声に私は身震いする。すると、王子が私を抱く力をさらに強めた。
「そうか、君は騎士達に脅されているのか。その首輪で行動も監視され逃げ出す事を許さないようにまでされて。だから、愛する私を守るために素直に本心を語れないのだな。なんと、哀れな捕われの姫。」
「は?」
王子の極端な大誤解にぽかんとするアルフレッド。さっきまでの怒りも一気に吹き飛んだようで、かなり嬉しい誤算だ。それにしても、これだけ飛躍した発想に至る王子の思考回路。わからん。
「ミスリム王子。もしかして王子は壮大な思い違いをされておりませんか?」
「なにを!」
アルフレッドの的確な分析に王子は反論しかけるが、王子の腕の中で大きく頷く私にその視線を下ろしてきた。そして、私の表情を確かめるためにか、王子は抱きしめていた体を離す。
「姫?」
「そこ。そこから間違っています。私は勇者です。それに、アル達は私の大事な仲間です。彼らに軟禁されているわけではありません。それから、私は王子様に特別な恋愛感情は持っておりません。」
訂正できるチャンスを逃してなるものかと、私はまくし立てながらきっぱりと意見を述べる。たぶん、濁した言い回しが彼の誤解を招くのだ。王子様の持つ死亡フラグは怖いがここは毅然とした態度を取るべきだと私は思った。
「そんな、そんなはずがない。私を一目で気に入っていたではないか……。」
王子がとても傷ついた悲しげな表情を浮かべて私を見つめた。その顔は、硝子の棘のように私の良心に突き刺ささる。けれど、ここで怯むわけにはいかない。優柔不断、中途半端は遺恨を残す。
「人を好きになる条件は外見ではなく、人となりだと考えてます。中身を全く知らないのに好きになる事はありえません。」
誤解させる態度をとり、ごめんなさい。心の中で謝りながら冷めた態度を取った。嘘だと揺らめく王子の視線を、強い意思で見返す。
「アスナ。もういい、部屋から出よう。」
アルフレッドから穏やかに声がかかった。その声に私は王子の腕からすり抜けると、アルフレッドの方へ歩を進めようとするも、王子にすぐさま片腕を捕らえられる。振り返った私はその場に立ち尽くす。
「アスナ。来い。」
アルフレッドが少し焦れたように声をあげる。けれど、私は王子の掴む手を振りほどけなかった。振り払えばガシャンと音を立てて粉々に砕けてしまう硝子のような様、ゆらゆらと不安に揺れる青い瞳が私を縛り付け動けなかったのだ。
「私は器だ。元から中身など無い…………。外見しかない物は………駄目………なのか?」
留まった私に王子は態度と同じくか細い声で縋るように聞いてきた。そんな王子の手を私は空いていた手で掴む。
「何言ってるんですか!器はそれだけで素晴らしいんですよ!国宝になったり美術館に飾られてる器も沢山あるじゃないですか!!その、人を魅了する容姿や美しさは筆舌に尽くしがたい!!!また、芸術品でありながらも機能美にも優れ多伎に渡る使用ができる凄さ!!!わかりますか?!」
私は目をギラギラと輝かせて鼻息荒く熱弁を奮う。ともすれば、王子に詰め寄る勢いだったが、それはなんとか止めていた。大興奮で言い終えた私は我に返って大後悔。
うっわぁ、やっちゃった………。物フェチが炸裂してしまったよ。器が駄目だなんて言うから、器の良さを盛大に語っちゃったよ。これ、王子様以上のとんちんかんな回答だ。
王子様が言ったのは器は身分とかの意味で、中身がないってのは自分らしくないって言ってたんだよな~。
あはっ。今更だがな………………。
私は愕然としているであろう王子に覚悟を決めて目をやった。なのに、王子は華やかにその頬を染めている。
あっれ~~?思ってた表情と違う……………。おぉ、私の勘違い発言を王子様がさらに勘違いして、うまく補正かかったのか???
私は首を傾げて、感情が上向いたっぽい王子を眺めた。すると、グイッと腰を強い力で引かれる。見上げれば、アルフレッドが険しい顔で私の背後にいた。
「あなたは振った相手に、何故フォローを入れているのですか?」
アルフレッドは私の腰に手を回したまま、怒りを含んだ声をあげる。どうやら、来いと言った事を無視されたことに少々お怒りのよう。
「振る??なにが?」
「は?さっき、あなたは王子を振ったんだろ?」
「へ??振るも何も、誤解だって言ったじゃない。私が王子様に好意があるって誤解してて、王子様も私に好意があると錯覚しちゃったのよ。好き好きって言われると好きになるみたいな?ですよねぇ?」
アルフレッドにあなたも勘違いしていると説明してから、王子に確認の言葉を投げた。
「………。私は………嫌われてないのだな?」
「嫌い以前に、王子様の事を何も知らないと言ったじゃないですか?」
「では、……………チャンスはあるということか。」
王子の終わりの方の言葉は小さくてよく聞き取れなかったが、明らかに自信を取り戻したようでいつものようにキラキラとしてきた。それを見たアルフレッドはなぜか私に回していた腕の力が篭る。おい、あまり締めると何か出るぞ。
「うっ、アルッ、お腹が締まるっす。」
「もう、いい加減にしろ。いくぞ。」
アルフレッドは私の腰を捕まえたまま体を引きずるように扉へと向かう。王子との手がするりと外れた。そのことに特に気にするでもなく王子は私たちを面白そうに見やった。
「フフッ。騎士、男の嫉妬は醜いぞ。」
「………。ちっ、砕かれてしまえばよかったのに。」
「私たちを壊せるのも、捨てられるのも主のみだ。」
「分かっています。手出しできるならとっくに刃を向けている。」
不穏な2人の会話に目をさ迷わせる。やはり仲が悪いのか?と思うが聞けるような雰囲気ではない。
「そんなことをすれば騎士ではいられなくなるぞ?」
「構わない。アスナの前では身分も肩書も邪魔でしかない。」
「おや。あんなにもこだわっていたはずだが…………。変わったな。」
「あなたには関係ないだろう。」
王子の言葉に不機嫌なアルフレッドの口調は荒い。が、ここでもう部屋の扉の前に辿り着いた。ガチャリとアルフレッドが扉を開ける。
「では、失礼致します。王子様」
一応、礼儀かなと思い私はペコリと頭を下げる。
「アスナ。ひとつ最後に聞いてもいいかな?」
「え、はい。」
王子が私の方を見て微笑む。その態度は出会った時と同じで凛としていた。
「私は姫に愛される器だと思うか?」
「はい!王子様のことを理解してくれるお姫様がきっといます!!頑張ってください!!」
私はピシッと親指を立てて王子に檄を飛ばす。それをアルフレッドは驚いて、王子は嬉しそうに笑って受け止められた。2人の違う表情が印象的なまま、大きな部屋の扉は閉じられる。
う~む、このジェスチャーまずかったんだっけ。
でも、まぁ王子様も笑ってたし、うまく誤解も解けたし。上出来じゃね??
私は部屋から出てからもアルフレッドに引きずられながら廊下を行く。深夜のためか静かな廊下には人影もなく、沈黙のままアルフレッドのカツカツという足音とズルズルという私の足音だけが響いた。
王子様の正体に少し触れてみました。
王子様サイドは………また、どこかで書ける………かな。




