何かと………終わった
「………目ぇ開けていいぞ。片付いた。」
ケインが私から体を離す。私はゆっくり目を開いた。光が眩しい。しばらくして、やっと目が慣れてきて状況が見えた。
「いや。ぜんっぜんダメでしょ。」
魔物はやっつけたみたいだが、元の姿に戻った蜂がブンブンしてる。小さくなっても虫は虫だよ。はぁと息を吐いて、見ないように目線を下の草原にやる。
「ケインっ!!」
私はグイッとケインを引っ張るとそのまま地面へと転がる。一匹、倒しそびれていた。私たちに向かってそいつが針攻撃をしかけてきたのをかわす。それは、瀕死での最後の一撃だったみたいで魔物はそのまま煙のように消えて元の蜂に戻った。よかった、終ったか。
「おまえ!!やられたのか!」
「え?」
ケインが真っ青な顔で私の左腕を掴んだ。見ると左腕から流血していた。
「あんまり傷は深くないよ。痛くな………い?」
くらりと頭が揺れる。おかしい。ゲージを見るとHPの下に麻痺と毒の字が書かれていた。あ~。蜂だからかぁ~。クラクラする頭で見ているとHPが勝手に減っていく。
「毒!!すぐに抜かなきゃ。」
ケインは私を横にすると傷に口をつけた。
「ケイン………ダメ。毒………。」
あれれ、うまく喋れない。麻痺のせいか?毒は口で吸出しちゃいけないんだよって、言いたいのに。そうこうしている間にケインが傷口を吸い上げる。
「いっ……たぁ。」
「我慢!!」
「……っ。」
ケインはペッと血を吐き出すと、また強く吸いつく。その行為を数度繰り返してから、ケインは手を私の傷にあてた。温かな熱が伝わってくる。
「毒は消えたが、結構傷が深い。割と時間かかるな。」
ケインはチッと舌打ちしながら、私に回復魔法をかけてくれている。ぼうっとする頭で彼のゲージを見るとMPが減っていくのが見える。
「ごめ……力……使わ………せて………。」
「馬鹿が。こんな時に使う力だろうが。」
私は怪我のしていない右手でケインの頭に触れた。ケインはちょっとうざったそうな顔になったが振り払いはしない。病人に気を使ってくれたんだろう。ふわふわの髪が気持ちいい。
何だろう。この感覚。………落ち着く。
まるでぬいぐるみみたいな触り心地だなぁと思っていると、ケインのHPゲージが減っていくのが目に入る。見れば毒の字が出ていた。
「毒が………。移った……?大丈………夫?」
「平気だ。もう少しで傷が塞がるからな。」
ケインは平静を装ってるが、苦しそうな表情は消し切れてない。それに、見る間にHPとMPがどんどん削れていく。
あ………。減ってく………、まずい、まずいよ。死んじゃうよ。
私の頭はかなり毒に侵されていたのだろう。きっとそうだ、絶対にそうだ。だから私は手をケインの頭から肩にずらすとグイッと彼のローブを掴んで顔を引き寄せてそのまま口づけてしまった。ケインは一瞬びっくりした顔をしたが、そのまま大人しく唇を重ねてくれていた。柔らかな唇はほのかに血の味がした。ケインのゲージが溜まっていくのが見える。ステータス異常も消えた。ホッとすると、ゲージ自体が消えた。
アル達の戦闘も終わったみたいだな。彼らは大丈夫だったのかな?
私はケインの顔越しに草原の方に目をやる、と2人がこちらにやってくる姿が見てとれた。
よかった、無事だったんだ。……………って、よかねぇよ!!!
私は慌ててケインから離れようとした。が、ケインはそれを諌めるように私の頭を掴むと、焦って開いた唇に舌を滑り込ませてキスをさらに深くしてきた。
「んぅ…………うっ………んむっ!」
ぎゃぁぁ~~~。ケイン!!!アルとロークが来てるってば~~~。
毒の後遺症か、出血で血が足りないのかろくな抵抗もできない。ジタバタしているうちに、近づいてきたアルフレッドとロークが怪訝な顔に変わる。ケインとのキスを見られた。というか見られてる。私の向きからだと2人と目さえも合う。
終わった………。なんかいろいろ………終わった………。
私がぐらぐらする頭で出した逃げは………死んだふりだった。私はぐったりとケインの腕の中で脱力する。
「俺達が戦ってたというのお二人は何してるんですか。」
「そうだよ~。ありえないんだけど~。」
アルフレッドとロークの声にチュッとわざとらしく音を立ててケインは私からようやく唇を離すと、おや?居たのか?としれっと2人に振り返る。
「おまえらの方が先にこいつのキスを奪ってんだから、見せつけるくらいしたっていいだろ。」
ぐぎゃ!なんてことだぁ!!ロークだけじゃなくアルとキスしたこともばれてる?!
「奪ってないよ~。ちゃんと言ったも~ん。」
「俺は合意の上でしましたよ。」
え!!ばらすのかっっ!!いや。この口ぶりは3人わかって言ってる。え、何で………筒抜け?
「どうせ、こいつの弱みに付け込んだんだろ。」
「あら~。ケインがそれ言う~。」
「お互い様でしょう。」
はい?どういうこと?私は嵌められた…………?!
私はうっすらと目を開け3人の様子を確認することにした。体はもちろん動かさない。3人はにこやかに笑っあっているが、見えない火花が見えるのは気のせいだろうか。すっごい怖い。やっぱ死んだふりだな。と、私は再び目を閉じようとした。
「ところで~。当のアスナちゃんは~。寝てるのかな~。」
「気を失ってる………わけじゃないですよね?」
「まさかの、死んだふりとか………。……………強力な回復魔法かけてやろうか。」
!!!
バチンと目を見開いた。強力な回復って何だ!!もちろんそんなの受けたくない。
「あ、あれ?私、どうしてたのかなぁ?あ、頭くらくらする。貧血……かな?」
「それはいけない。強力回復を。」
「や、大丈夫っ。大丈夫ですっ!!」
ケインの腕から抜けて、ズザザッと後ずさる。あ、しまった。と、思った時には視界に青空が広がる。そう、ケインが落ちた窪みに私もはまったのだ。3人から見下され手を差し出される。
「大丈夫ですか?捕まってください。」
「可愛い~。はい、手~。」
「馬鹿が。しょうがねぇな。」
私は3人を見上げて固まる。笑顔なのに怖い。なに、この三つ巴感……ハンパない。
え、選べってことなの??3人ともにキスしたのばれた状況でどうするのかって問われてるの?………やばい私めちゃくちゃビッチ状態じゃないか。…………すんごい修羅場っぽい。…………うぅ、終った。
私は顔を青ざめさせ冷や汗がどっと溢れるのを感じた。修羅場の切り抜け方なんてわからない。どうする?どうしたらいい?円満解決はある?とぐるぐる考えていたら3人から盛大にため息がもれる。すると、さっきまでの雰囲気が和らいだ。
「なにか良くないこと考えてますね。大丈夫ですよ。誰の手を取っていただいても。そんなもので愛情の深さを測ったりしませんから。」
「うん。アスナちゃんがこの人って思うまで待つし~。簡単に決められない性格なのは十分承知~。」
「ま、恋愛偏差値の低いお前がキスしてくれたんだ。お前にしちゃ頑張った。今はそれでいいよ。」
いや~。皆さんとっても寛大ですね。ありがとうございます。何これ、共有モードとかあるの?…………まさかのハーレムあるゲームじゃないだろうな。………いや、そんなゲームは数が少ないし、特定のエンディングだって聞いた気が………。そうだよな、このゲーム最初からルート選択出てるじゃないか。一人と恋愛進める乙ゲーだよね。……………やってないけど。
あ、やってないじゃん。馬鹿みたいに自分ビッチみたいに言ってたけど。そうだよ。恋人モードにはなってない。キスは回復。同じパーティー仲間……………男友達。な~んだ。
脳内結論が出た。沸騰しておかしくなっていた頭が冷静になっていく。またしても乙女ゲームだという事に引きずられてた。なんか心の奥がちくりとするけど、友達関係だとわかってよかったよかった。
私が改めて3人の方に目線を戻すと、彼らは一斉に吹き出した。そして、堪えるように大爆笑を始める。そこで私は気づいた。さっきの考え事の最中、ずっと百面相していたということに。やってしまった、意識してないと考えてることが顔に出やすいのよね………。
この穴もっと深けりゃよかったのに。
私は埋まりたい気分を反らすかのように頭の後ろへと目線を飛ばした。すると、いつから在ったのか空にふよふよとシステム文字が浮かんでいた。
おめでとうございます
「おめでとう。」
久しぶりに見たなとポツリとその字を読んでみた。すると、私が気づいた事が分かったからか文字は消えて新たな字に変わる。
3人制覇!達成賞品 シールドブレス
「シールドブレス?」
私が言葉にすると同時に左手首が淡く光り輝く。そして、光が消えた手首には銀色の分厚いブレスレットがはまっていた。また文字が変わる。
シールドブレス(アイテム)
戦闘時、MP消費により攻撃を一定時間防御する。
と、同時に私のゲージが出てきてそこにMPのゲージが…………。さっきまで凹んでた感情が一気に上昇する。
ついに。ついにMPゲットぉぉぉ!!
私はほくそ笑むと、キラキラと輝くブレスレットを見つめた。宝箱とか道具屋でなくこうやってアイテムゲットか。おや?どういう条件だった??
「達成賞品って、何達成したっけ?」
その声に文字はまた切り替わる。
キス達成賞品 3人 シールドブレス
6人 勇者の鎧
10人 エクスカリバー
ブチッと頭の中で何かが切れる音がした。私はぐるんと体を回転させて起き上がると、駆けて文字に近づき力強く地を蹴り上げた。そして、システム文字が浮かぶところまで飛び上がり、剣を取り出すと文字を切り裂く。もちろん、着地も完璧にこなした。この時、私は潜在勇者能力を遺憾無く発揮したと推測される。
「このエロゲー!乙女のキスは安かねぇって言ってるでしょうがぁぁぁ!!10人って何だよ。10って!!エクスカリバーなんて、いらねーーんだよ!!!こっっの、下りてこんかぁ。出てこいクソゲー!!アイテム欲しさに、んなことホイホイできるかぁ。どんなゲームだこれはぁ!!」
剣を振り回して遠当てで文字を切り裂くも直ぐに元に戻る。むかつく、まじむかつく、微塵になりやがれ。私はまたしてもシステムとの不毛な戦いに入る。
「すごい身体能力でしたね。あれが通常戦闘で出せたならかなり強いでしょうに。」
「無理でしょ~。高所やスピード恐怖症だから~。自主ブレーキかけちゃう~。」
「ブチギレなきゃ使えねぇとか。難儀な奴だな。」
「で、今回は何に怒ってるんでしょう。」
「賞品のラインナップが気に入らなかったんじゃな~い?」
「エクスカリバー、すごくねぇの?」
などと悠長に、3人はやはり被害を受けないように遠巻きにただ見守るのだった。
私はこの時10人がどういうことなのかを深く考えていなかった。そう、このゲームが10プレをベースに作られた、ということを。




