やっぱくるよね、ケインルート。
「やっぱ、このゲーム、私の弱点ばっか狙ってんだろーー!!」
私はギャアギャア叫びながら草原を逃げ回る。
「勇者さま。逃げないで戦って下さい。」
「そうだよ~。私とアルだけだとこの量はきついよぉ~。」
アルフレッドとロークが魔物と戦闘しながら私を諭す。
「無理、無理、むりぃーーっ!私は節足動物は苦手なのよぉー!」
「「せっそく?」」
「足に節がある生物。昆虫です。虫です。そういう奴らです。ぎょえーー。お腹向けないでぇー。」
「好みは置いといて、とにかく一匹でもお願いします。」
「この魔物は早く倒さないと仲間を呼ぶんだよ~。」
そう、私たちが今対戦しているのは、昆虫である蜂の魔物。こいつらは見た目を変えずにサイズが人並みにでかくなった状態で、そうでなくても苦手な腹部の感じがダイレクトに………。うぷっ、言えません、直視できません。そして、この魔物は数が多い上に時間が経つと仲間を呼ぶ。さっきからかなり2人でやっつけてくれているが、なかなか数が減らない。
わかっている。私が頑張らなきゃいけないのは分かっているけど…………。
「生理的に受け付けられませーん。乙女に虫はきついですよぉーー。」
「ドラゴンとキスできる奴が乙女とか言ってんじゃねぇ!!」
ロークの件からずっといら苛ついているケインが後方から怒声を浴びせて来る。私は恨みがましくケインを見やった。
「ケインは後方支援で羨ましい………。」
「はぁ?僕だって戦えるんならそっちに行きたいんだ………好きでこんな力を持ったわけじゃない!!」
私が発した言葉にケインは切れ気味な口調で、でも泣きそうな表情で反論してきた。しまった………。私は彼の地雷を思いっきり踏んでしまった。
脱兎の如くケインが走り去る。もちろん私は追いかける。あぁ、もう私のばかっ。
「待って、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないのよ!!」
「うっさい!!ついてくんな!!!」
「ごめん。ケイン、ごめんよぉ~。」
「ばか!!てめ~が来ると魔物も付いてくるだろうがっ!!!」
あっ、そうね………。
でも、きつい目尻に光る涙は見逃せません。とにかく、ケインを捕まえなくて、きちんと詫びなくては。それにしても、体力のないはずの魔導士なのにケインの逃げ足は早くて追いつけない。けど、ここは草原。距離は縮まらなくても姿を見失うことは無かった。と、思ったらケインの姿がいきなり消えた。
「??」
ケインの消えたところに行ってみると、彼はちょうど地面の窪みにすっぽりとはまっていた。ケインは罰が悪そうにキッと私を睨みつける。
「見下してんじゃねぇよ!」
「あ、ごめん。ねぇ、どうして、空飛ばないの?」
「はぁ?……飛んだら目立つだろ、魔物の餌食になりたくない。それに、魔力は温存しとかなきゃ、いざって時に防御や回復に使えねぇだろうが。」
あぁ、皆のことを考えて力を抑えてるのか、しっかり考えてる。そうだよな、後ろにいてもケインが皆の戦況判断してくれてるんだもんなぁ。
起き上がるのを手伝おうと手を伸ばすも、ペシッと払われてしまう。そして、ケインは自分で立ち上がると体に付いた土を払った。
「本当にごめんなさい。ケインの力をからかったつもりじゃないの。自分が苦手なことから逃げようとしてあんな風に言ってしまって。」
「んなの、わかってるよ。どんだけお前といると思ってんだ。けど、正直、僕は戦闘では役に立たない。それを突きつけられたみたいで………僕も逃げただけだ。」
ケインはツンとふて腐れた顔で拗ねる。かわいい。っと、今は重要な話の途中だった!心に浮かんだ言葉を飲み込んで、私は真剣な顔をする。
「役に立たないわけないでしょ。私たちの状態をみて的確に回復してくれたりしてるじゃない。」
「回復なんて、お前の勇者スキルがあればいいだろ。MPも使わないその能力。僕なんていなくてもいい存在なんだよ。」
「何言ってんの!ケインがいなきゃ私はダメなんだからね!あなたしか私を助けられないのよ!!」
私だけだと回復の度にキスしまくらなきゃいけないじゃないかぁ!!減るもんじゃないし、挨拶みたいなものって、そんなお気軽にできるタイプじゃないのよぉ。ケインに見放されたら………やばい。
私はケインがいない場合を想像し恐怖し、縋るような目でケインを見つめた。
「!!………そう……か。」
そんな私を見たケインはそう呟くと、照れたように顔がポッと薄くピンクに染まる。
やっべぇ!なんかしくじった………。これイベント入ってたんじゃ………。
私ははっとするももう取り返しなどつかない。そもそも私は何を口走ったっけ?な有様だ。どう挽回しよう、とその時だった。私たちは蜂の魔物に四方を取り囲まれてしまった。ぐるりと周囲を囲んでいて、針を突き出し腹部をこちらに向けるという悍ましい光景が………ううっ。私はとにかくケインを背に隠して剣を構え、薄目で視界をぼやけさせて直視しないようにする。これなら気持ち悪くはないかな。
「うーん。薄目じゃ、よく見えない。でも、見たくない。」
「!それだ!!お前は見るな!僕が目になる。いいか、僕の言う方向に剣を振り抜け。遠当てで魔物を倒すぞ。ちょうど、仲間も側にいないから気兼ねなく打てるだろ。」
「おぉ!いい案!乗ったぁ!!」
私は声を張り上げると、直ぐに目を閉じてケインの声に耳を澄ませる。
「まずは、正面!今!!」
私は言われた通り剣を振る。すると、バシュッと何かにあたった音がした。
「1匹退治!次は45度右っ!!」
ほいっ。私は勇んで45度っぽい左を向いて切り付けた。あれ?音がしない。
「ばか女!!右だっつってんだろ!!」
「へ?右?右でしょ?お茶碗持つ方は………どっち?」
「それは左だ!!そうだった。お前、よく右と左を間違えるんだった。」
あ、そうでした。私よく、左右ってどっちかわからなくなるのよね。
こまったわぁ。と体を固まらせていたら、ぎゅっと背後からケインが抱き着いてきた。そして、耳元で囁くように声をかけてくる。
「方向転換は僕がやる。とにかく止まったらすかさず剣を振れ。これなら馬鹿でもできるだろ。」
馬鹿って連発されてるが、耳元で直で聞くと結構堪えるんだけど…………。へこみたいが、今はそれどころではない。コクコクと私は首を縦に振ってケインの意見を了承する。こうして、私たちは共闘作戦に入ったのだった。
―――――――
僕は小さい頃から希少な白魔法保有者ということでちやほやされて育った。でも、徐々に妬む奴らに罵られることも多くなった。別に好きでこんな力をもったわけじゃないのに。おかげで僕は捻くれた性格を持つようになった。
魔法学校でも待遇は同じだった。待望されて入ったけど、黒魔法の類いは全くできなかった。唯一、飛行魔法ができるようになったくらい。元から出来る白魔法は希少すぎて教わることも無かった。そして、僕は追い出されるように卒業させられた。
王都の魔導士団ではさらに酷い扱いを受けた。入団時にはすごい能力者だと大歓迎されたが、ここでは回復魔法など要らなかった。傷は勲章で死闘を勝ち抜いた証。そして、弱いものは治す価値も無い使い捨ての駒。戦闘もできない僕の居場所なんて何処にもなかった。勝手に歓迎されて、勝手に幻滅され脱退させられた。
いつもいつも。最初は大切にする癖に最後は僕を捨てる。そして、あいつも……。
あいつ、明日奈とは、4歳の七夕の夜に出会った。笹に吊した短冊に書かれた僕を彼女の父親がその日に買ってきたのだ。明日奈は僕を抱きしめるとそれはそれは可愛らしい笑顔で「お願いが叶った!!すごい!」と大喜びしてくれた。多分、前から欲しいと親に仄めかしていたのだろうが、幼い明日奈は書いた日にすぐに願いが叶った事で僕は神様の贈り物としてあいつのお気に入りになった。
家にいるときはいつも一緒だった。特に夜は必ず僕を抱いて眠った。沢山遊び相手もさせられた。薄汚れては洗濯機にかけられ、少しポロくなっても僕は愛されていた。
けれど、成長していく明日奈はいつの間にか僕で遊ばなくなった。そして、一緒に眠ることさえも無くなった。今はかろうじてベッドサイドにいるが、大人になっていくあいつに僕はいつ捨てられてもおかしくない。
どうせ、僕なんて。いじけて拗ねて、自分から離れていく明日奈に勝手に腹を立てた。
この世界で明日奈に選ばれてたときはとても嬉しかったのに、まさかの適当発言。積もっていた怒りが軽く爆発した。その後も憎まれ口ばかりついてしまい、明日奈とうまく距離感が掴めない。こっちを向いて欲しくてガキみたいないたずらもしてしまった。嫌われたくないのに、拗ねている期間が長すぎたのか素直になれない。
アルフレッドやロークがアスナと共に戦うのを見るのも屈辱的だった。あいつの隣に立つ資格があるのはこういう奴らなのだと。後ろにいることしかできない弱い僕ではない。まるで、そう言われているようだった。
戦闘中はいつも前を向いているあいつが今回ばかりは僕の方を振り返った。1番見られたくない姿なのに………。僕はあいつの言葉に託けてそこから逃げた。アスナの視界から。
なのに、あいつは追いかけてくる。ほっといてくれ。浅ましい僕を見ないでくれよっ。口からはアスナをはねつける言葉しか出てこない。差し出された手も払いのけた。
あなたしか私を助けられない
ドクンと心臓が跳ね上がった。薄汚れていた心のせいで僕はきちんと見ようとしていなかった。明日奈は成長してからも時折、僕を抱いては弱音を吐いて、その度、僕は心の支えに癒しになっていた。
苦手なものだらけで、単純で暴走する無防備な馬鹿。今はこいつをフォローできる口も手もある。僕がこのままでできることが。
あぁ。また、馬鹿が炸裂した。本当に………仕方ねぇ奴。
僕はアスナを抱きしめながら、魔物どもを睨みつけた。
明日奈、僕は1番長くおまえの成長を見てきたんだよ。僕の本当の姿を知ったらおまえはどう思う?きっと捨てられてもおまえを恨むことはできないんだろうなぁ。
ずっと愛してるよ。これまでも、これからも。
やっと、ケインの正体までたどり着いた。
これで、みんな揃った。




