今度はロークルート?
今日は、初めての野宿です。
私はインドアのため、今までキャンプなどもしたことはなかったので、夜に外で寝るのは生まれて初めてです。テントや寝袋などはなく、そのままごろ寝しています。まぁ、私はロークとケインのローブ蓑虫なので一種の寝袋状態なのですが。
元の世界では深夜でもどこか明るかったから、こんなに星がたくさん輝いている夜空なんて始めてだな。
真っ暗な森の中、少し開けた空間。木々の間から見える星空は天然プラネタリウムのように、小さな星まではっきりと輝いている。みんなが寝静まるのを見計らって目を開き、空を眺めていた。
「アスナちゃん、寝られないの~?」
ばれないように静かに見ていたのに、ロークに察知されてしまった。ゆっくりと上半身を起こす。アルフレッドとケインは眠っているようだ。
「星が綺麗で眠れませんでした。」
「あ、そっかぁ~。星たちが騒ぐから気になって起きたんだけど~、見られて恥ずかしがってたのか~。」
「恥ずかしがる?」
「そ。いつもそこにあるのが当たり前だから、気にしてもらえる事は少ない。だから、見つめられるだけで、嬉しくて恥ずかしくて…………恋しい………。」
ロークが私の元にやって来るとすっと左手を差し出した。私は誘われるままその手を握ると、ぐいっと体を引き上げられて立ち上がらせられる。
「もう少し、星たちの近くに行ってみませんか?」
「近く………。」
ロークの魅惑的な瞳に捕らえられ、正常な思考がぼやける。ぼーっとしている私から彼とケインのローブを脱がせた。ケインのローブに触れないんじゃなかったですか?などと突っ込むのも忘れるほど優雅な手つきで、ロークは自分のローブだけを私にかけ直す。そして、私をぎゅっとその腕の中に抱いた。
そこで、やっと視線が外されて私は正気に戻ったが時すでに遅し。ふわりと地面から体が浮く。
「!!!?!!」
「しっかり捕まっていてくださいね。暴れたら落ちちゃいますよ?」
言われなくてもしがみつくしかない。ロークが腰に回した手だけでは不安定な体が心許ない。ぎゅうっとその体に抱き着いて、目をきつく閉じる。私は高所恐怖症で、怖いと目も口も開けていられない。絶叫系に乗って叫ばないタイプ………、どっかで言ったなこれ。
こうしている間にもどんどんと私たちは上へと上がっていく。
あ~。もう。星に近づくって………高いとこに行くってことじゃないかぁ。私のばかぁ。
やっと足がどこかに着いて、体の上昇も止まる。
「着きましたよ。」
「無理………。」
ロークに抱き着いたまま目を開けることすらできない。だって絶対、高い所にいる。ガチガチに体を固まらせてプルプルと震えていると、回していた手をやんわりと外されて、その場に座らされる。そうして、後ろから私の体を包み込むように抱いてロークが座った。
「大丈夫、しっかり支えてます。上だけを見て。ほら、星たちが待ってますよ。」
そういわれてゆっくりと目を開いた。まるで星空の中にいるみたいな錯覚するほど、視界にはそれしか見えなかった。
「……。」
言葉にならないとはこのことか。小さな星屑までも煌めいて夜空はとても賑やかに光り輝いていて、夢のような世界だ。
「星たちがあなたに見初められたくて、今夜は一際輝いています。」
「ふっ。上手~。」
「本当の事ですよ。いつだって、この瞳に映りたくて精一杯光ってるのです。」
気障な台詞を茶化して返すとロークの手が私の顎に伸び、くいっと顔を後ろに向かされる。星明かりに照らされるロークの甘いマスクはいつもよりも何倍も艶っぽい。そこに憂いを帯びた笑顔を浮かべれば、落ちない女なんて…………。
いっか~~ん。落ち着け~~。この雰囲気に流されてる。
私はまだ合わせてなかった目線を思いっきり反らす。ロークの瞳は私の鬼門だ。
「そ、そういえば、星の気持ちがわかるって魔法??」
「いいえ。魔法では意思疎通はできません。動植物やドラゴンにも。ただ、星とはなんとなく感じるものがあるのです。同類だからでしょうかね。」
「同類??」
「………ふふっ。」
ロークは含みのある笑いでそれ以上答えそうになかった。
「なんでも魔法でできるわけじゃないんだね。」
「万能なものなどこの世にはありませんよ。」
「でも、空飛んだり、火や水出せたり、すごいよね。」
「魔法が使えるように……なりたいですか?」
ロークの声のトーンが少し落ちる。さっき目をそらした隙に顔を正面に戻していたので後ろにいるロークの表情はわからない。
…………。これ…………イベント??
星空に視線を巡らすが、特に違いはわからない。でも、このシチュエーションって、すんごくそれっぽい。どうしよう、ロークへの回答はYESorNO??
「はい。魔法使えたら嬉しいです。」
「そう……ですか。アスナは勇者だからそのうち魔法が使えるようになりますよ。」
「いや。やっぱいらないかな。」
「………それでも、使えるようになりますよ。勇者ですから。」
くっ、どっちでも同じじゃないかぁ~~。イベントに入ったら会話じゃ逃れられないのか?
ならば暴れてロークの手から逃れられれば、イベント脱出!でも、それって確実に落っこちること間違いなしだろう………もちろん、そんな勇気微塵もありません。やっぱり選択肢で乗り切るしかなさそうだ。
「アスナに魔法が使えるようになったら………私の価値などなくなってしまいますね。」
「価値??」
「アスナにとって魔法は魅力的でしょう?それは自分に無いものへの憧れ………。手に入れればそれは特別ではなくなる。そうでなくても、この世界では魔導士など沢山います。ケインのように白魔法使いは希少ですが、黒魔法使いなど星の数ほど。そして、私の魔法はどの属性も使える分、どれも強力じゃない。これから街に行けば各属性に特化した強い魔導士達に会うでしょう。いずれ、私にはたいした価値がないとあなたは知るでのです。」
私にすがるように回されていたロークの腕の力が強くなる。多分、ここが分岐点。星空に目をやるも文字は出ていない。もしかして、選択肢が出ないのが通常なのかも知れない。まだ、システムにぶちギレてなくてよかった。
う~んと。ロークは自分の価値を気にしてたな。価値、価値かぁ。恋人モードならあなたは特別とか言えばいいんだろうけど、それじゃあなぁ~。だいたい、価値観なんて人それぞれだし。
別に他の人より秀でてなくても並ならいいのよ。
そうよ。ロークは黒魔法の全属性か使えてるんじゃん。それって全教科それなりにすべてできるってことじゃないか。私なんて体育が足を引っ張って全体の成績が一向に伸びない。苦手がないって羨ましいぞぉ。おお、この世界の勇者体力なら体育満点出せるかも………っと、脱線した。
私はふぅと息を整えると、そっとロークの腕に手を置いて素知らぬ顔で星空を見ながら口を開く。
「この世界の評価制度は良くわかんないけど………私はロークの魔法はいいと思うよ。試験で満点教科あっても赤点教科があったら追試だし。」
「…………。」
あ。試験とか教科で例えてもわからんわな。
「え~っと、特定の属性がすっごい強くても、その属性に耐性のある魔物だったら役に立たないでしょう?それに引き換え全属性が使えるなら、弱点がないってことじゃない。………ほんと、苦手教科あったらどうしようもないって。」
……やべ。最後愚痴ってしまった。
「だから、えっと………言いたいのは、並でいいってことよ!」
「並って………。それ、褒め言葉?……ぷっ。…………ふふっ。」
私が勢いづいて出た言葉は、ロークに笑われながら返された。そのあとも、ロークは笑いを堪えて体を震わせているのが、背中を通じて伝わってくる。
やらかしてしまったな。私的に褒めたつもりだったが、並はないか………。さあて、どうやってフォローいれるか。
私はロークの笑いが納まったら、もっと上手い言葉をと、ぼーっと星空を眺めるながら考えるのだった。
ーーーーーーー
この世界では魔力を持って生まれてくる人間が多くいる。
ある程度の年齢になると一定の魔力を有する者は、王都内にある魔法学校に入る。寄宿制で約2年入学中に適性属性や魔力の強さを知り、魔法技術の習得をする。約2年というのは、そこまで在学する必要がないからで、優れているものは期間に関係なく卒業できる。また、自分が劣っていると自覚したものは自主退学していく。そんな中で私はきっちりと2年在学した。私は強くも弱くもない中途半端な魔力なうえに辞めるという潔さもなかった。そして、卒業後、そのまま魔導士となった。大概の魔導士はここで王都お抱えの魔導士団に入る。しかし、私の能力では声すらかからなかった。どの属性も使えるのにどれも秀でてはいない、器用貧乏とはまさに私のことだろう。
こんな中途半端な私だから、いつも人の評価が気になったいた。すこしでも悪く思われないよう周囲に合わせていい顔を振り撒いているうちに、人の機微にまで敏感に感じることもできるようになった。おかげで人当たりのよい性格になり、日々をのらりくらりとしながら送っていた。
そんな折、私が勇者のパーティーメンバーに選ばれた。魔導士団にいる凄腕魔導士達ではなく、この私が。世間に私を認めさせるチャンスがきたと意気揚々とこのチームに加わった。
勇者であるアスナは異世界の人間のため、魔法を見るのが初めてだった。だから、飛ぶだけで、水や炎を出すだけで、私に羨望の眼差しを向けてくる。
それは明日奈の元の世界にいたとき、私に向けられていたものと変わらない眼差しだった。
私が明日奈と出会ったのは真中という男性の経営する店でだった。私は他のものたちと雑多に仕入れられた一つだった。だけど、私が店頭に並ぶこともなくレジ付近でペーパーウェイトがわりにされていたのを、店に訪れた彼女に一目惚れされた。彼女は店主に了解をとり、私を持ち帰ると飾り棚に飾ってくれた。そして、たまに出しては綺麗だといつもきらきらした瞳でうっとりと見つめてくれる。値段さえつかない価値の低い私は、その眼差しを喜びながらそれを失う未来にいつも怯えていた。
この世界でその恐れは着実に近づいている。いつか、彼女の視線は特別な誰かにだけ注がれる。
この世界には私より優れた魔導士は数多いる。さらに彼女には騎士や白魔導士、レッドドラゴンのような異質なライバルもいる。その中で、特別でもない私など選ばれるはずはない………。焦りばかりが募っていく。
「並でいい。」
彼女に言われて気がついた。彼女の価値観は人とは大きく違う。彼女にとっては特別より並が上だ。
私は途端に可笑しくて仕方なくなった。自分の馬鹿さに笑いが込み上げる。
私は世間から価値が低いと評され、自分で自分を卑下していた。彼女は私に付いた値段など関係無しに純粋に私を褒めてくれていたのに。愛しい人が私を評価してくれている。これほどの賛辞を浴びながら、私は何に怯え卑屈になっていたのか。
比べなくていい。私はただあなたのためだけに輝きを届けましょう。そして、いつか私の正体ごとあなたへの愛を伝えましょう………。
今度はロークの正体について。
分かりづらくてすいません。




