表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

ダンジョン脱出

「うえっ。…………ぐすっ。………えぐっ。…………ううっ。」

『………うるさい。静かに逝かせんか。』


 ぐすぐすと泣いていたら頭に声が響く。へ?と見ればうっすらとドラゴンの目が開いていた。どうやらフライングしてしまったようだ。私は涙もろい質で、テレビや映画・アニメでも誰か死ぬと直ぐ泣く。ちょい役でも、死んでしまうとわかった時点で、もうだめだ。私の涙腺は崩壊する。おかげで、感動ものは映画館では見られない。


「まだ、生きてる~~。」

『………早く死ねと言われてるようだな。』

「違う~~。」

『解っとる。』


 ペロリとドラゴンに舌で顔の涙を拭われる。というか、サイズが大きいので顔面を舐められた形だ。その瞬間、ピピッと電子音がする。見上げれば、ドラゴンのメーターが少し増えていた。


 これは、もしかして………。勇者の特殊スキルがドラゴンにも効くのか!!


 ドラゴンの舌と私の唇が触れて口づけと判断されたという事なのだろう。私はぐいっと涙を拭くと、さっそく実証することにした。


「ドラゴンさん。ちょっとじっとしててね。」


 言うと同時に私はドラゴンの上唇辺りにチュウッと唇を押し当てた。


「「「あ″ーーーーー。」」」


 後ろで3人が悲鳴のような声を上げたが、完無視だ。どうせ怒られるだけだから。キス?したままゲージを見れば、案の定、ドラゴンのHP・MP共にメーターが増加していく。やったぁ。これでドラゴンが助けられる。私はよしよしと唇をあてたままメーターを凝視した。


「あぁぁ。アスナちゃ~ん。私たちにはあんなにキスしないって豪語してたのに~。ドラゴンは良いわけ~。」

「いや。あれは、キスって感じじゃねぇだろ。」

「そうです。アスナとのキスはもっと官能的な………。」

「「は??」」


 アルフレッドの言葉にロークとケインが反応する。アルフレッドは何か聞こえましたか?と素知らぬ顔で2人の視線を笑顔で返す。


「だいたい、てめぇが付いていながら、ドラゴンに近づかせるとか。何やってんだよ。」

「俺はアスナの意思を尊重しただけです。それに、止められるわけないでしょう。アスナは爬虫類好きなんですから。」

「「はちゅうるい?」」

「蛇とかトカゲとかを総称してそう呼ぶんですよ。ドラゴンなんてその類と見た目が全く同じでしょう。アスナが飛びつかないはずがない。」

「アルってば~、そんなことよく知ってるね~。」

「ええ。爬虫類展というものに連れて行かれましたから。特に蛇やトカゲが苦手なわけではないですが、巻き付かれたり舐められたり、かなりハードな体験でしたよ。あれは。」


 語りながら、ふっとアルフレッドは遠い目をする。その態度にロークもケインもアルフレッドを攻める気が失せてしまう。


「いつも一緒に出かけられるから、羨ましかったけど~。結構大変だったりするんだ~。」

「ご愁傷様……。」




「ぷはぁ~。やったぁ~。全回復だぁぁ~。」


 私はHP・MPともに一杯になったのを確認して、唇を離す。ドラゴンはぱちりと瞳を開くと、グイッと頭を持ち上げた。


『なんだこれは…。全身に力がみなぎる………。これなら。』


 ドラゴンはすっと頭を自身の上に乗っかっている岩に向け、口を開けるとブワァっと火を噴いた。その火力は凄まじく炎が消えた後には大きな岩山は跡形もなく消え去っていた。のに、ドラゴンの魔力はさほど減っていない。


 おいおいこのゲーム、パワーバランスおかしくない??


 私は焼失した岩があった場所を見て思う。フルパワーのドラゴンとの戦闘など4人がかりでも無理な気がする。いや、はっきり言って今の一撃で全滅だろう。だから、ドラゴンあんなに弱った状態で現れた?んな馬鹿な。

 私がぼうっとしているうちに、ドラゴンは下敷きになっていた下半身をおこすと、長いしっぽをゆらゆらとさせた。


『傷も癒えている………。ふっ。あはははは。はははっ。………………愚かなる勇者よ。』


 ドラゴンが私の頭に高らかに嘲笑いながら話しかけてくる。ドラゴンは高みからこちらに鋭い目線を向けていた。


『敵に情けをかけて回復させるなど………、自分の愚行を後悔しながら死ぬんだな!!はーっはは!!』

「っ!!………酷いっ。私、信じてたのに………。」


 私は顔を青ざめさせると、両手で口を覆う。ドラゴンはくいっと顔を下ろしてくると、まじまじと私を覗き込み満足そうににやける。


『…………なんてな。なかなかの悪役ぶりだったろ。』

「うっ………ひどい…………。……………騙すなんて。」


 私はおどけるドラゴンを目に涙を溜めて呟いた。すると、ドラゴンは焦ったようでおろおろとし始める。


『す、すまん。ちょっとからかったつもりが…………。脅えさせるほどだとは。』

「…………うん。私の演技力も中々か。」

『…………。』

「…………。」

 

 私がニッといたずらっぽく笑えば、トンッとドラゴンに鼻先で小突かれた。それでも、力の差で私は軽くよろける。何をっ!と私はドラゴンの顔面に体当たりを食らわせる。けれど、ドラゴンにはノーダメージのようだ。


「何やってんだ。あいつら。」

「じゃれ合ってる~??」

「変なシチュエーションですね。」


 3人が呆れるようにこちらのやり取りを見ていた事など知らない私達は、暫くそんなことを繰り返した。


「ほんと、元気になってよかったぁ~。」


 馬鹿なことができるくらい元気になってよかった。私は心からそう思う。


『汝のおかげだ。そうだ、借りを返さねばな。』

「わ~い。何かくれるの?」


 見返りを求めてたわけじゃ無いけど、ドラゴンがくれるものには興味ある。


『そうさなぁ………。奴らの汝に対する好感度を教えてやろう。』


 ドラゴンは得意げに鼻を鳴らした。が、私のテンションは急降下だ。ちょいちょい乙女ゲームが絡んでくるよな、このRPG。ドラゴンから攻略対象者の好感度知るってどうなんだ。


「いらない。」


 即答したが、ドラゴンは引き下がらなかった。


『??知っているとルート選びの参考になるぞ。まだ、誰のルートにも入っていないようだし。』

「本当にいらないからその情報………。」

『何故、拒む?3人ともにかなり好かれ………ぐっ!』


 私は思いっきりドラゴンの喉元にアッパーを食らわせてみた。少しは効いたみたいだ。嫌だというのに無理矢理聞かせようとするからいたい目を見るのよ。


「乙女ゲームをするつもりは無い。」

『ほぉ~。その割には騎士とは一段階進んでおるのう?』

「~~~~~っ!!」

『………ん?我も同じか………??……おや??………。』


 一人で混乱するドラゴン。私の赤くなった顔はばれなかったようだ。全く不意打ちで思い出させないで欲しい。何故知ってるのか………好感度わかるから、と私なりに納得?しときます。


『ま、良いか。……では、こうしよう。剣をここに出しなさい。』


 ドラゴンから話を切り替えてきたので、私は素直に言われるまま剣を呼び出す。すると、ドラゴンは鋭い前足の爪をちょいとあてた。


『我は汝の力となろう。必要な時にはこの剣に向かい、我が名を呼べ。』


 パアッと赤く剣が光りすぐに消えた。魔法でもかけたのだろう、ドラゴンのMPが少し減る。


『龍玉のかわり、というところだな。呼べはいつでも駆けつけ力を貸そう。』

「これ助かる!ありがとう。」


 なんと。これで魔王戦でドラゴン呼び出せるようになったってか。この手法なら………、他の3ドラゴンにも協力をお願いすれば………、龍玉いらないじゃ~ん。殺し合いしなくていいじゃ~ん。


 私は晴れやかな気持ちで、自分の出した名案に心の中でほくそ笑む。


「で、ドラゴンさんのお名前は?」

『レッドドラゴン。』

「いや、冗談じゃなくて。」

『人間はそう呼んでいるだろう。』


 マジ回答だった。確かにゲームでもそんな呼称しかないよね。出よレッドドラゴン!!………やだな。


「名前…………何かないかな?」

『ならば汝が名付けよ。人間の感性はわからん。』


 そうかと私は頭を捻ってみる。ペットに名前付けるみたいでいいのかな。


「じゃあ、赤いから…………紅…………クレ!」 

『クレ………。わかった。』


 いっ、いいのか!このゲームのネーミングセンスに文句言ったけど、私も変な名前にしちゃったかも。でも、快諾されたし……まいっか。


 「これからヨロシクね。クレ。」と呼べば『うむ。』とクレが頷いた。私は思いっきりクレの顔に抱き着きほお擦りをする。


 かわいいっ!!現実世界に帰ったら絶対にイグアナかトカゲ飼おう。前は親の反対に負けたが、今度は根気強く説得しよう。


 しっかりとクレの感触を味わってから体を離す。大満足っす。今度はクレがスリスリしてくる。はぁ、かわいい。


「一緒に冒険できたらいいのに……。」

「「「それはダメ!」」」


 私が小さい声で漏らした願望に見守っていた3人が反応した。ちょっと存在忘れてたな。


「勇者さまは仲良くなったかも知れませんが、他の人間には脅威です。連れて行くことは出来ません。」

「ドラゴンを助けるだけで、シナリオから外れてるんだから~。これ以上ダメだよ~。」

「そんな強い奴連れてたら魔物もよってこねぇぞ。おまえは弱いまま魔王戦する気かっ。」


 3人から立て続けに否定意見がでる。


『我も暫くは同行する気は無い。汝のゲームに逆らうというのを我なりに実践してみたいのだ。』

「そうか、残念。クレも同行できないんだって。」

「「「クレ?」」」

「うん、ドラゴンに名前つけたの。」


 3人の顔が険しくなる。ありゃ、やっぱ変な名前だったかしら。というか、敵視する目がクレに向いている。


 敵じゃなくなったよ。仲良くなったよ。アルも言ってたし、みんな分かってるよね?


 クレを見れば嘲笑うかのような表情を3人に向け浮かべている。あくどい顔してるよ。あれ?こいつら相性悪いのか。早急にクレと3人を引き離さねば。


「じ、じゃあ、これでお別れね。クレ。また、会いましょう。」

『あぁ。そうだな。また、会おう。………必ず。』


 私が声をかけるとクレは優しい顔になった。まだ、3人には気を許してないということか。


『では、出口を開いてやろう。端に退いていろ。』


 クレの伝言を3人にも伝えると、私たちは壁際に寄る。それを見て、クレはおもむろに壁の一つに大きく炎を吐き出す。火炎放射気のような炎が壁の土を焼いてトンネルを作った。先には外の景色が現れる。


『ここを出て真っすぐ森を抜けて行けばサウスの街だ。では、またな。アスナ。』


 クレはそう言い残し、自分の作ったトンネルを抜けて飛び立ってしまった。私たちは呆然とクレが去るのを見送った。


 やっぱ、パワー違い過ぎるでしょ。仲良くなれて本当よかった。


「あいつ、どう思う?」

「明らかにアスナちゃんに好意あるよね~。」

「あの顔は、俺たちより優位と主張してましたね。」


 3人がぼそぼそと会話していた。内容は聞き取れなかったが。ドラゴンのすごさについて語ってるんだろう。だよね。カッコイイよね。




 こうして、私たちはやっとダンジョンを抜け出した。外の空気は新鮮でいい。「出られてよかったね」と隣を歩くアルフレッドに話しかけると、「そうですね」と返ってくる。そこまではよかった………。


「2人きりの時、何かあったのか?」


 かなり低めの声でケインが後ろから声をかけてきた。振り向けばロークまでも冷ややかな目でこちらを見ている。


「手。」

「て?」


 私は自分の手を見て驚愕する。いつの間にかアルフレッドと手をつないで歩いていた。あまりにも自然な感じだったからいつ繋いだかもわからない。どちらからかも………。唯一、恋人繋ぎではなかっただけマシだろうか。かといっていきなり振りほどけば怪しさ倍増だよな。冷や汗をかきながら固まっていると、アルフレッドがニコリとケインたちに笑いかけた。


「戦友になったんです。俺たち。」

「そ、そうそう。」


 ブンブンと私も相槌を打つ。ナイス回答だアルフレッド。けれど、ケインはなおも食い下がってきてアルフレッドに詰め寄っていく。私はとばっちりを受けないように2人からそっと離れた。


「アスナちゃん。」

「!!」


 ロークに声をかけられてびっくりする。ロークがいるんだった。追求されたらどうしよう、とどぎまぎしていたら、ロークが左手を差し出してきた。見るとその手の中には綺麗な紫色の石のついたネックレスがあった。


「今日みたいに逸れてしまうといけないので、これをどうぞ。」

「これ、ロークがつけてるのと同じ石………?」

「ええ。この石から生成しました。これを身につけていれば、私が必ずあなたを見つけます。」

「迷子にならないようにかぁ。GPSみたいな機能ね。ありがとう。」 


 私が受けとろうとするとロークは手を閉じてしまった。不思議そうに見上げれば石と同じ紫の瞳が柔らかく揺らぐ。


「難しいので、つけててあげましょう。後ろを向いて。」


 言われた通りロークに背を向けると、ふわりとネックレスが首元に回されてうなじにロークの手の感触が伝わる。くすぐったいが我慢だ。


「………できましたよ。」

「あはっ。どうかな?似合う?」

「素敵です。」


 私はくれたロークに見せた後、アルフレッドたちに見せびらかしに行く。



「明日奈………。あなたの特別はもう決まってしまったのですか?」


 ロークは、はしゃぐ私たちを見ながら呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ