中ボス登場
私達はどぎまぎしながら歩いていたため、私もアルフレッドにいたってもそいつに全く気付かなかった。そう、あの声の主の間合いに入ってしまうまで………。
私達はいきなり開けた空間に出た。入口は大きな山のような岩に塞がれていて、人がやっとすり抜けられるような隙間のような道の先。
「しま……っ……た。」
アルフレッドの顔が青ざめる。彼の目線を追うと岩影に巨大生物がいた。それは、赤い色で体に鱗があり、コウモリのような羽が背中に生えている。
「「ドラゴン。」」
創造上の生物がそこにいた。こちらの声に反応したのかドラゴンの頭が奥からぐいんと伸びてくる。とかげのような顔つきに大きな牙、ギロリとキツイ目に頭には2本の角。
「グオオオオオーーーッッッ!!!」
熱い息とともに大声で叫ばれる。そう、洞窟内で聞こえていた声の主は、このドラゴンだった。
「アスナっ!!」
アルフレッドは私を後ろに匿って、剣を構える。けれども、私は危機感より好奇心が勝っていた。だって、ドラゴンが実際に動いて、生きている。ファンタジー万歳!!
「アル。ドラゴンだよ~。実物だよ~。」
「アスナ。そんな悠長なことを言っている場合じゃない。4人でもドラゴン対戦はキツイのに、今は2人。戦闘回避もできない。更に気性の荒いといわれるレッドドラゴンだ。」
「でも~………??」
私は不意にドラゴンのゲージに目がいった。ドラゴンのゲージは私達や魔物なんかよりHP・MPともにかなり長かった。なのにHP残量は残り少し、MPに至ってはゼロだった。
「アル……ドラゴンのゲージが。」
「ゲージ………?!アスナ、これはラッキーだ。どうゆうわけかこいつはかなり弱ってる。これなら2・3撃で簡単に倒せるぞ。」
アルフレッドは活路を見出だせた事に喜ぶ。
一方、ドラゴンは私達に威嚇するのがやっとだったようで、グルルルッと唸りながら力無く上げていた頭を地面へと下ろす。そして、キツイと思ったルビーのような赤い瞳を少し細めてあきらめたようにこちらを眺めてきた。
私はフラフラとドラゴンに近づこうとして、アルフレッドに腕を捕まれ止められた。
「何をする気だ。」
「触れたい。」
「は?」
「触りたい、なでなでしてみたい。ぎゅうっとしてみたい。」
「相手は最恐のドラゴンだぞ。」
「でも、攻撃してこないなら。チャンスは今しか………。」
うるうると上目遣いでアルフレッドに懇願する。アルフレッドは少し眉を寄せて渋い顔をするが、掴んでいた手を離してくれた。
「危険だと判断したら、引き離す。」
「うん。わかった。」
私はにっこりと笑顔を返す。アルフレッドは剣を鞘に納めると、腕組みして壁に背を預けた。長期戦を覚悟してくれたようだ。
了解を得た私は、ドラゴンを怖がらせないようにゆっくりと近づいていく。ドラゴンの方も特に警戒はしていない。間近までくるとそっと額に手を伸ばして触れてみる。鱗のある肌はごつごつして、とかげが大きくなった感じだ。体温は高いのか触っている手の平が熱いが、除けるほどではない。
「あったかい………。」
すりっとドラゴンの鼻筋に寄り掛かった。すると、ビクッとドラゴンが小さく身じろいだ。
『汝は勇者であろう。なにをしてる……。』
私は頭の中に響く声に固まった。なにが起こったのか理解できない。
『我は、汝がもたれかかっている者だ。こうも安々と人間に触れられる日が来ようとは……。』
「え。ドラゴン……。ドラゴンの声なの??」
私はガバッと体を引き離し、恐る恐る呟く。ドラゴンの片目、大きな赤い瞳が私を捕らえた。
『そうだ。人間は我をそう呼ぶ。声は汝の頭に直接送り込んでいる。』
「はぁぁ、すごいっ。ドラゴンと会話………。あ、でもそんなことして大丈夫?HPあんまり無いのに。」
『このくらいなんのことはない。殺す相手の心配とは滑稽だな。』
殺す……。陶酔していた私は、ドラゴンから出た嫌な言葉に身震いする。そういえば、ドラゴンは魔物達とは違う気がする。
「あの……、あなたを倒すと、あなたはどうなるの?」
『…………。面白い事を聴く人間だな。汝らと同じ、命尽きれば死ぬ。』
「っ!」
ぞわわっと背筋が寒くなる。魔物は元に戻るだけだったから、ドラゴンもそうなのだと勝手に思っていた。まさか、殺すという現実にここでぶつかってしまうとは。
「あれ?そもそも勇者はどうしてドラゴンを殺さなきゃならないの?あなたは、魔王の手先?」
『ハハッ。我らが誰かに飼われるわけがなかろう。汝が魔王を倒すには我らの持つ龍玉が必要なのだ。龍玉は我が魔力の源。強大な力を宿す。その龍玉は我が死ぬ時のみ現れる。だから、殺さねば手に入らない。』
「そんなことのためだけに………。」
私はドラゴンに再び手を伸ばす。触れる体は暖かく、鼓動も呼吸も感じる。生きている。
大切な一つの命を奪ってまで手にする価値があるもの………?そんなものあるはず無いじゃない。
そんな龍玉、なくてもなんとかしてみせる!!だって私が主人公だっ!
乙女ゲームに逆らってるんだから、RPGにも逆らってやろうじゃないか。負けるか~システムぅ~。
私はぎゅっと拳を握りしめ、決意を固める。
「決めました。あなたとは戦いません。」
『はっ。何を企んでいる?』
「いや、私そんな頭良くないですよ。ただ、力を得るために命を奪うのは違うかなと思うわけで。」
『そういうシナリオだろう?』
「そこ。そこが一番嫌なんです。思い通りにされるのって悔しくありませんか?」
驚いたようにドラゴンは綺麗な赤い瞳を大きく見開いた。
『ゲーム世界でシステムに逆らうのか、……面白い。我も未来があればやってみたいものだが……もう気力も魔力も無い、惜しいな。』
「そうだった。どうしてこんなに弱ってるの?」
『………。ここは我の寝座だった。それが、ある時そこの大岩が落ちてきて、気づいた時には下敷きになっていたのだ。岩は魔力でかなり削ったが、ここまでで力が尽きた………。このまま死にゆくと諦めていたところに汝が、勇者が現れたというわけだ。』
この岩の下敷きって、これでかなり削ったって。
私はど~んと鎮座している岩を見上げる。岩というか、山だ。高い天井も突き抜けるほどだ。
「体がまだ、下敷きなの?」
『あぁ。下半身は潰されている。』
「見ても………いい??」
『好きに。我はもう動けぬ。』
私はドラゴンに了解を得て、体の裏へと移動する。アルフレッドには、まだ待ってと告げて。後ろに廻るとドラゴンの下半身には本当に岩が覆いかぶさっていて確認できない。それに体中が傷だらけだった。肌が赤い色だったから気付けなかったが血も滲んでいる、痛々しい有様だ。
観察ていると、天井からぱらぱらと小石や砂が落ちてきた。私やドラゴン、控えていたアルフレッドも反射的に上を見上げる。
「あ~。アル~。やっと見つけたよ~。アスナちゃんも一緒~??」
ロークののんきな声が高い天井から降ってきた。大岩と天井の僅かな隙間からフワリとロークとケインが下りてくる。アルフレッドを見つけただけのようで、岩影にいるドラゴンには2人とも気づいていない。
「げっ!」
「ぎゃっ!」
今、気づいたようだ。2人は短い悲鳴とともにドラゴンに目を見張る。
「攻撃しちゃ、ダメだから!!」
私は慌ててドラゴンの前に出て立ち塞がる。
「おまえ。また、変な事をしてるだろ。」
ケインが私の考えを見透かすように見てくる。
「いや、まだ何もしてない………。」
「伊達に長い付き合いやってねーぞ。白状しろ。」
ケインの言う長い付き合いとか意味不明だが、私を良く理解してるということだろう。まぁ、別に隠すことじゃないし、と私の考えを話す。
「このドラゴンさんを助けてあげられないかな……と考えてて。」
「ええ~??なんで~?2人が戦闘でHP削ってここまでになってるんじゃないの~?」
「俺とアスナが来たときにはもう弱ってたんだ。」
「そうなの。この大岩に潰されちゃったんだって。」
ロークとアルフレッドの会話に補足すると、3人から驚いた顔を向けられる。
「なんで、んなこと知ってんだ。」
「ほんと~、まるで聞いたかのような~。」
「まさか…………。」
「もちろん、ドラゴンさんと話したからですよ。」
私がしれっと放った言葉に、3人が暫し固まる。
「何かぶつぶつ言ってると思ったら………、そういうことですか。」
「へ~。ドラゴンって人と会話できるんだ~。知らなかったぁ~。」
アルフレッドとロークは、納得したように頷く。が、ケインが食ってかかる。
「おまらまで、なに流してんだ。要点が違うだろ。だいたい、なんで敵を助けんだよ。おまえも悪者に絆されてどうすんだ。」
「敵とか悪者なんて誰が決めるの?それに消えそうな命が目の前にあったら助けたいと思う。そうでしょう?そうだよねぇ??」
「……………。ちっ。わかったよ。好きにしな。で、どうやって助ける気だよ。」
ケインは私の返しに少し顔を歪ませて舌打ちするも、賛同してくれた。ので、作戦を発表する。
「ドラゴンさんを潰してる岩を壊して…………。」
「それは、無理かな~。あの岩大きすぎて私達では破壊できないよぉ~。」
「俺らが多少端を壊せてもドラゴンが抜け出せるまでとはいかないでしょうね。最悪、バランスが崩れて更に押し潰されることだって考えられます。やるなら一気に吹き飛ばすくらいの力じゃないと。」
「じゃあ、ケインの回復魔法で………。」
「おまえ、馬鹿か。ドラゴンのゲージは僕たちの何倍あると思ってんだ。だいたい魔法耐性の強いドラゴンに回復魔法が効くかどうかも怪しい。」
「え、マジで。…………八方塞がりじゃない。」
私の浅はかな作戦はさらりと否定され、頭を抱える。ドラゴンを倒せる力はあっても助ける力は無いって………そんな。
『勇者よ、もうよい。元から死は覚悟していた。今更、足掻く事はない。……最期に汝のような面白い人間に出会えて楽しかったよ。』
「!!」
ドラゴンの声に振り返ればもう息も絶え絶えで、赤い瞳も半分閉じかけていた。
「や。待って待って。いい案出すから。助けるから………。」
私はドラゴンの顔に駆け寄り手をあてる。体温はまだ暖かい。
『ありがとう……。勇者よ。』
ドラゴンの瞳が閉じていき、呼吸も小さくなっていく。
私はどうすることもできない非力さに、消える命にぼろぼろと涙を零すしかなかった。




