死ぬ気になればなんでもできる
うげっ。参った。
私とアルフレッドは大岩で隠れてある小さな横穴で、少しの休憩と共に作戦を練る。
このダンジョンはミミズの魔物の巣窟らしく、出会うのはこいつばかり。ここまでの間にも何度も遭遇してきた。1匹なら私一人で、2匹ならアルフレッドに少し手伝って貰う、3匹以上は逃げるの手法でやり過ごしてきた。残す体力はアルフレッドが4分の1程度、私は半分ほどである。私の方が多いって?そりゃあ彼に負担が行っているからです。私なりに頑張っているつもりだがやはり見てられないのだろう。怪我を推してフォローしてくれる。本当に申し訳ない限りです。
で、今、私達はそのミミズ魔物がうじゃうじゃいる場所にたどり着いてしまった。3匹以上は逃げる、だが、それも数が少ない場合であって見えるだけでも敵は5?6?もっと?いる。そして道はその先にしかない。
「何匹いる?」
「5匹以上。前と後ろが似ているから判別がつかない。」
「そう……か。」
私は岩から顔を覗かせ魔物を見ながらアルフレッドに現状報告する。彼は地面に腰を下ろし、くじいた足を気にしていた。
「痛みます?」
「いや、このままでも魔物をいなせるか推し量っていただけで。」
「無理ですよ。そんなの。」
私はアルフレッドの前に膝をついた。怪我をしてからのアルフレッドの動きはかなり悪い。通常時ならどうにかできるレベルの量なのかもしれないが今は絶対に無理だと私にもわかる。
「このまま、ここで体力回復を待ちましょう。」
「ここまで来たのにか?」
「無茶はしません。それが私のゲームスタイルです。」
私がRPGをする上で大切にしている事は、仲間も主人公も死なせない事。復活するから大丈夫だとしても、ゲームだからリセットできても嫌いだ。死ぬとへこむ。すっごくへこむ。しばらくゲームを放置してしまうしくらいに。リアルに死ぬとこなど見たくない。はっ!この世界はどうなるんだろう?死なずにいくつもりだが一応聞いておこうと口を開きかけて止まる。…………来る。
「グオォォォォォ。」
またしても、洞窟内に声が響く。しかし、それは前に聞いたものより音量は小さいのにかなり近くで聞こえた。声の主に近づいているのか?そんなことを考えているとパッとゲージが現れた。
「!!」
私の腕をアルフレッドが掴んで横穴の中に引き込まれた。そこはアルフレッドと私の体がなんとか納まるサイズ。アルフレッドと私が抱き合う姿勢で声を潜める。ズズッ、ズッと魔物たちの近づいてくる不穏な音がする。
「魔物に気付かれた?」
「いや。たぶん、さっきの声で奴らが移動して、俺達が戦闘範囲に入ってしまったんだ。」
「やり過ごせる……?」
「……難しいな。こちらを、探している……。」
戦闘モードになったことは魔物にもわかるらしい。範囲内に入った今、見つかるのは時間の問題だ。私達は絶対絶命の窮地に追いやられてしまった。
むむぅ。もっと魔物との距離を取っておけばよかったか………。どうしようか……。
ミミズ魔物は目は良くないから、ここにいれば見つかる時間は稼げる。けれど、アルフレッドの自然回復までは待ってはいられない。悩んでいるとアルフレッドがスッと私の顎を持って上を向かせる。
「アスナ。特殊スキルを使ってくれないか?」
………は?…………はぁ?……………はあぁぁぁ???!!
アルフレッドからの突然の提案に、私はぱくぱくと口を動かす。大声を出したいところだが魔物に気付かれるのでできなかった。体は横穴に入った時から固まっているので身じろぐこともできない。
「せ、戦友ですよね?!」
「戦友だよ。」
焦りながら、それでも小声で確認する。恋人モードにはなってないよね?の意。もちろんという態度のアルフレッド。
あれ?なんかキャラ変わった??
出会って2日ほどしかたってないのでこういうのもなんだが、アルフレッドの雰囲気があの落ち込み以降変わったような気がする。吹っ切れたというか……、ってそんなことどうでもいい。今はスキルの話だ。私は脱線しかけた思考を戻す。
「特殊スキルは使わないと言ってますよね。」
「弱ってたら、頼っていいとも言った。」
うっ、言ったけど、そういう意味じゃ。………なかった気が。だけど、頼れっていったし、……これも含まれる??
私の頭はぐるぐるしてくる。そして、冷静な考えができなくなっていく。
「どうする?」
どうする?どうする?選択権は私……。このままじゃ、2人とも死んじゃう。………死ぬORキス???な、なにこの究極の選択。や、死ぬくらいならキスの方が全然いい………って。そうよね。回復するだけ。他意はない。…………ははっ、私ってばいつも気にしすぎなのよねぇ。
などという私の楽天脳がおかしな変換をしていき、とても重大な決断を軽々しくしてしまう。私はこうして、特殊スキルを使う意を決してアルフレッドに目を合わせた。彼は穏やかに私の選択を待っている。
はっ!!私は自らアルにキスしようというのかっっ!!
決断したのに現実を目の前に突きつけられて、恥ずかしさに一気に顔が熱くなる。
「ふっ、かわいい。」
アルフレッドが蕩けるような顔と甘い声を向けてくる。私の表情で特殊スキルを使おうとしているのがバレたようだ。
ぎぇぇぇぇ~~~。
私はぐっとアルフレッドの頬を両手で押さえた。さっさと終わらせてこのいたたまれない状況を脱してやる。
「スキル、使うから……。目、閉じ………てっ。」
「ん。」
うろたえながらも言うと、アルフレッドは素直に目を閉じた。整った綺麗な顔に引き締まった唇。そこに私は唇を寄せる。
無だ。無。無。無心~~。
触れたかどうかくらいの軽いキスで、すぐに唇を離す。やったぞ!私は嬉々としてアルフレッドのゲージを見る。ゲージは満タンに……なってない。いや、ほんの少し増えただろうか。
あ、あ、ありえん。一回で全回復じゃないのか??まさか、キスしてる時間に比例して回復するんじゃ……。
ぶっ倒れたい。でも、1度決めたことやり遂げるしかない。幸い、アルフレッドはまだ目を閉じてくれている。私はもう一度唇を重ね、そのまま、今度はゲージを見上げる。すると、ゆっくりとゲージのメーターが増えていくのが見えた。
よかった………。回復してる……。
ゆっくりながらもアルフレッドのHPが半分まで回復する。私は緊張でがちがちだった体の力を少し抜いた。
「アスナ。」
くすぐったくなるような声で名前を呼ばれて、自然に目線を下ろす。すると、アルフレッドの目が……開いていた。間近で彼と目線が合う。薄れてきていたキスしているという事実を再認識する。ドクンッと心臓が跳ね上がった。
「ぁ……」
体が引けて唇が僅かに離れた。が、すぐにアルフレッドの手が私の後ろ頭に回され、唇が塞がれる。
「んっ」
私に起こった事がわからず反応が遅れた。そのため、緩んでいた唇にアルフレッドの舌が滑り込む。
っ!ア…………アルッ。アル、アル、アル、ア~ル~ゥ~~。
私はぐいぐいとアルフレッドの胸を押して離れようとするが、勇者力をもってしても男性の力には勝てなかった。ぎゅうっと抱き込まれてキスが更に深くなる。
「うっ………ん………っ。」
呼吸ごと奪われるようなキスは頭を麻痺させる。やっと、アルフレッドから唇が解放された時には呆然と彼を見つめることしかできなかった。
「ありがとう、アスナ。ほら、HP全回復だ。」
「え………あぁ………。」
見上げたアルフレッドの頭上のゲージは満タンだった。どうやら、ディープキスの方が回復が早いみたい……。ハッと頭がクリアになる。
私はアルフレッドと………ディープ……キス……。うあぁぁぁぁ~~。
恥ずかしさに頭が沸騰しそうだ。けれど、それをアルフレッドにぶつけるタイミングを私は完全に逸していた。アルフレッドはくじいた足が治っている事に感心している最中だ。
回復をしただけ、それだけ。それだけ………。アルも回復を急いだだけ……。
はあっと息を吐きだしながら心を落ち着ける。心が痛むのは気のせいだ。あれはキスじゃない。例えあれが私のファーストキスだったとしても………。
「では、魔物退治と行きますか。」
「ええ。壊滅します。」
許すまじ、てめーらのおかげで大事なものを失ったんだ。
私は差し出されたアルフレッドの手を取り2人で横穴を出る。このモヤモヤは魔物との戦いで晴らしてやる!!と、私はミミズ魔物との戦闘に入った。
魔物は全部で8匹いた。5匹をアルフレッドが、2匹を私が、1匹は逃げ出した。私が2匹も倒せたのは気が高ぶっていたからだろう。でも、感情に任せて戦うのはこれからはやめようと思う。「きさまらの所為で!!」などといらぬ事を口走りながら剣をふるってしまったからだ。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい。ちょっと………。冷静さを欠いていたようで。今度からは気をつけます。」
元の姿に戻ったミミズ達が掃けるのを見ながら、剣を消して乱れた息を整える。立ち尽くす私の左手にアルフレッドが手をつないできた。私は不思議そうに見上げる。が、彼はあえてこちらを見ないように正面を見据えていた。
「さっきは、………ごめん。はぐらかすような事をして………。」
「え。」
「その………。キスの後、あんな何でもないような態度をとってしまって……。傷付いた………よな。」
「……。」
傷付いた?いや、いっそ割り切れて助かったと思うが……。わざわざ話を戻してこなくってもいいのに。
私はじっとアルフレッドを見つづけるが、アルフレッドはやはりこちらを見ない。
「さっき魔物にキレてたのは、俺の所為………だろ?」
あ~。やっぱ失敗したな。いらないことを口走ったもんな。アルに気を使わせたか……。
「いや。あれは、単に私の八つ当たりで。私の中でキスが回復だってまだうまく割り切れなくて。アルが悪いわけじゃないですよ。」
私はばつが悪そうに解説する。自分が思ってる事を言うのは恥ずかしいが仕方ない。
「俺は………、キスしたつもりだ。」
握られていた手に更に力が込められ、アルフレッドの顔が一気に真っ赤になる。
「あんな形でアスナのファーストキスを貰ってしまったけど、後半のは……俺がしたのはキスとしてだから。」
!!!私がファーストだと、なぜ、知ってる?!それに、なに臆面もなくっ、キ、キスだったって………。
かぁぁっと私の顔も赤くなる。かなり割り切ったはずの気持ちが一気に逆戻りだ。アルフレッドの顔が見れなくなり私もあらぬ方を向く。
「………あの、俺もファーストキスだったんだが………。気持ち悪くなかった……か?……」
「え。………や、別に。」
そんな聞き方されたら、そう答えるしかないじゃないか。
私達はそのあと、暫く沈黙する。
「先に、進もう………か。」
「う……ん。」
アルフレッドの紡いだ言葉に私は首を縦に振る。そして、手をつないだまま、二人並んで歩き出す。
うっわぁ。純情なカップルの手繋ぎデートみたいになってるよぉ。今時、小学生でも無いわ。
………いつもなら、アルは前を歩くのに………。やっぱり変わった??
でも、この方が自然に感じるのはなぜだろう。アルといつもこうして歩いていたのだと……。




