アルルートですか?
ミミズの魔物にはちょっとHPをとられたが、どうにか一人で倒すことができた。
私が今できることは魔物を倒して前に進むこと。
私達は出口と逸れた2人を探すべく行動を開始。アルフレッドの片足の支えに私が肩を貸して、唯一続いている道を歩く。最初、肩を貸すと言った時にはアルフレッドはかなり嫌がり自分で歩けると拒否されたが、それでは私の気が済まないと言うと渋々了解してもらった。
「重いだろ?」
「全然、もっと寄り掛かっても大丈夫!」
勇者体力は、素晴らしい。力もかなりあるようで、肩を貸しても平気で歩ける。私は少し嬉しい気分だったがアルフレッドはハァとため息を漏らした。
「…………情けない」
「へ?」
私はアルフレッドを見る。けれど、彼は少し俯いて沈んだ顔で前を向いていた。
「かっこよく助け出すはずだったのに……。」
「いや。すっごくかっこよかったですよ!!」
ごめん。恐くて全くアルフレッドの勇姿は見てないけど。多分、颯爽と急斜面を駆け降りてくれたんだよね。大丈夫。スチル開くくらいのかっこよさだったんだと思うよっ。
アルフレッドを明るい声で褒めるも、彼は暗いまま。
「結果がこれじゃあね。本末転倒だ。」
「いやいや。仕方ないですよ。あんな高さから落ちてるんですから。それだけで済んだだけでも凄いです。」
めちゃ落ち込んでる?なぜ。足怪我したから?肩かしたのがまずかった???
私は頭を巡らせるが男性心理など解るわけない。いや、乙女ゲームだから、女目線の男性心理か?
乙女ゲーム!!!
私はオロオロとあたりを見回すが特に変わったところはない。けど、この展開、まずい気がする。攻略対象者が弱みを見せるのは、乙女ゲームでは佳境に入った頃。主人公の言葉に癒されると一気に甘い恋愛モードに突入する。
いやいや、ルートも選択してないしそんなことないか。警戒するあまり、また過剰反応した。
私は自分の思考に活を入れる。話題を変えたほうがいいかと考えていると、アルフレッドがボソリと口を開いた。
「…………俺は、騎士に向いていないのかもしれない。」
へ??そこまで深刻な話?これで過去話とかトラウマとか出てきたら、本当に乙女ゲームのイベントみたいじゃないか………。
「ア………アル?」
私は動揺のあまり声が震える。覗き込むように見るが自分の世界に入ってしまっているようだ。
「俺の家は代々騎士を生業にしていた。俺も小さい頃から剣の修業や心得の勉強をしてきて、騎士になることが当然だと思ってた。」
いやぁぁぁぁ~~~。がっつり入ってますよね。イベントォォ………。
私は心の中で叫ぶ。話しを止めたい、反らしたい。この場でコケたら終わるだろうか?だが、そんなこと許されない雰囲気がビシビシ伝わって来る。これはもう、どこかでやってくる選択肢に備えるしかない。私は注意深くアルフレッドの話しに耳を傾けた。
「国家騎士団になれたときには、とても誇らしかった。騎士として目指していた場所だったから。けど、実際には権力や金銭、色に溺れた烏合の衆だった。」
ええ~。この国、大丈夫?……ん?ま、よくあることか。元の世界でもよく汚職とか報道してるもんな。
「それでも、自分だけは染まらずに誠実にと職務を全うしていた。はずだった。なのに、王子の一言で退団さ。」
やっぱこの国、大丈夫か?王子までオカシイとか……。まともな奴の首切ってどうすんだよ。
「その後は、特にどこに身を置くとこもなく目的もなく過ごしていた。そんなとき、勇者さまのパーティーメンバーに選ばれた。」
ほぉ。アルって、フリーター騎士か。確かに仕事持ってたら、こんな放浪旅なんてできんわなぁ。RPGってそういうとこ触れないもんな。
「やっと、仕えるべき主に出会えたと思った。なのに。こんな、失態で役立たずになって……、さらに足手まといなど……。俺は騎士として、失格だ………。」
…………。来た。
私はゴクリと息を飲む。ここが………分岐点。キッと空中に目をやる。
エ?………ない。え?ええ??え~~~。
目をさ迷わせても何もない。
選択肢が……、選択肢が……、ないぃぃ。どういう事?また、システムの嫌がらせか?………くそっ。そうだとしても追求できないっ!!
アルフレッドは深く俯いて前髪に目元が隠れて表情がわからないが、深刻な状況だ。私は張り詰めた重苦しい空気を自分で言葉で打開するしかなかった。
えっと。アルは騎士として役立ちたいんだよな。騎士……。だいたい、騎士っていってもよくわかんないよなぁ。元の世界で縁なんてなかったし。ん~、お話によく出てくる感じだと姫を守るって感じ??
お?姫!そっか、姫だ。か弱く『あなたが頼りなの』とかすがればよい??
って、おい、恋愛モード選んでどうする、私。
そもそも、姫じゃないし、私は勇者だし……。そう勇者!!!
私はバシッとアルフレッドを支えるために背中に回していた手で大きく背中を叩く。すると、彼は驚いたようにこちらを見た。私はにかっと明るくアルフレッドに笑いかける。
「私にはそんなに気負わなくていいよ。」
「…?」
「私って弱いから危なっかしいんだろうけど、これでも勇者として皆と対等なつもりだから、弱ってる時くらい頼ってよ。主とか騎士とかじゃなくて……そう!戦友なんだからさ!!」
どうだっ。友情感たっぷりの回答だろ!!
私はしてやったりと心の中で自信満々だ。アルフレッドはしばらく固まっていたが、納得したのかクスリと破顔する。
「戦友………。そうだな。戦友。」
アルフレッドは私の言葉を気に入ったのか繰り返すと、ギュッと私の肩に置いていた手で強く彼に引き寄せられた。そして、彼は私の髪に顔をうずめて、体を今以上に預けてくる。
うおっ。……やはり、私に遠慮してたんだな。……うん。なかなかに重いけど、頼れって言ったし。………がんばろ。
何とかアルフレッドの機嫌を取り戻し友情モードに引き入れた私は、ズルズルとしなだれ掛かるアルフレッドを引き連れながら先に進むのだった。
ーーーーーーー
あなたを守りたい。
それが俺の願いだった。
小さい頃から騎士として教育を受け、念願の国家騎士団に入ったがその実情は酷かった。そして、王子に理不尽に退団させられたが特に未練など無かった。俺の求めていたものはそこには無かったからだ。その後は目的も目標もなく剣術を磨くだけの日々だった。
そして、その日がやってきた。勇者のパーティーメンバーに選ばれ、その場に行くと、いきなり異世界に飛ばされ慌て怯えるアスナを見つけた。必死に訴えて来る姿ははかなくて、見上げてくる目は子犬のようにうるんで、勢いで掴んだ手首は細く頼りなげだった。守りたい。自分の中でずっと燻っていた感情が溢れた。そうして、俺は追い求めていたものを見つけた。………はずだった。
けれど、アスナは柔な性格では無かった。異世界の生活には直ぐに順応するし、エロ魔法使いどもとも仲良くなるし、システムに対して罵声を飛ばし一蹴する。勇者として剣術もそこそこできるようになり、魔物を一人で躊躇いもなく倒せるほど成長した。まだまだ戦闘は未熟だし、苦手や嫌いなものも多々あるが、俺を頼りがいがあると言いながら全面的に頼ってくることはない。さらに、今は俺が助けられ、守られてる。
俺の思いは届かない。
ついに俺は愚痴ってしまった。いらない過去までべらべらと。アスナは静かに聞いてくれ、答えをくれたがそれは俺の求めるものではなかった。
戦友?………違う、その答えじゃない。
そう思うのにもう一つの記憶が俺の胸を締め付ける。
戦友!そうだよ。いつも君の側にいた………。俺が……わかる?
実は、俺達にはもう一つ記憶がある。それは彼女と元の世界で共に過ごしていた頃の記憶。
明日奈との出会いは彼女が中3の時だった。それからは、外出時はいつも一緒で、共に勉強し、遊んだ。高校受験という戦争を乗り越えてからは、戦友と呼ばれるようになって以前にも増して大切にされた。俺はいつも明日奈を見守っていた。苦しんでいても、悲しんでいても、それしかできなかったから。
ゲームの世界で騎士として明日奈に再会して、やっと実際に苦難から守ってあげられるんだと思っていた。でも、明日奈は自分で壁を乗り越えていく力を持っていて、自ら考え行動できること。守られるだけのただの人形じゃないことを…………知っている。
騎士など必要ない………。騎士の俺はいらない。…………でも、俺は明日奈の戦友………。
気負わなくていいよ。と、明日奈の言葉がよぎる。
俺は………騎士に………守りたいという思いに……縛られていた?
そう実感するとぽろぽろと虚勢を張っていた心の殻が剥がれていく。
俺は明日奈に何を気取っていたのだろう。弱さも脆さも見せればいい。
俺は明日奈の前を歩く必要なんてない。戦友として元の世界の頃と同じように横に並んで歩けばいい。
そここそが俺の定位置なのだから。
あぁ。明日奈。俺はいつか俺の正体を、愛しい理由を打ち明けられるのだろうか。まだ、全てをさらけ出す勇気はないが、もっと素直になっていいんだよな……?
俺は明日奈を抱きしめそうになるのをかろうじて止めた。バランスの取れない今の状況では、倒して怪我を追わせかねない。赤くなる顔を明日奈の髪に埋めて隠し、細いのに強いその体に甘えるようにさらに身を預けた。




