序章
人は争い続けなければならないのか
「来い、死にたい奴から相手をしてやるっ!」
血塗れの一征は、己に向かって雲霞のごとく押し寄せてくるトライポッドを睨みつけ、怒鳴りつけた。
敵戦艦の護衛戦闘機が、前からも後ろからもやってくる。放たれる雨あられの殺人光線とも言うべき光の束をかいくぐり、愛機は穴だらけになり、その破片が腕にも胴にも突き刺さり、細かい破片のいくつかは肉体を切り裂くように飛び散り、もはや全身が血に濡れていた。
それでも一征は目を見開き、敵戦艦に向かって機首を向け続ける。体力の限界などとうに超えている。今の自分は気力と根性だけで飛行しているようなようなものだ。
もう敵を何機墜としたかも分からない。
遥か真下の大地では巨大な火柱がそこらかしこで盛大に立ち昇っているのが分かる。
「コチラ、―――大隊、敵ノ拠点ヲ占拠セリッ!」
スピーカーが鳴った。
直後、後方で凄まじい爆発音が響く。勝利へとまた一歩近づくことを知らせる爆音。
一征は目に流れた血を拭い、舌なめずりをして敵戦艦へ突っ込んでいく。
「俺を墜としてみろ、腰抜け共っ!」
中空を滑り、迫ってきた敵機に機銃弾を浴びせ、胴体を盛大に爆砕させる。
「かかってこい、俺を墜とさないとお前らの艦は無くなるぞっ!」
目の前を逃げる敵機に、一征は自ら襲いかかり、食い破る。
何十、何百機来ようが、関係ない。
ただ目に映る敵機を叩き墜とし、敵艦の喉元に喰らいつき、食い破る。やることはそれだけだ。
まるで最高の獲物を捕らえる瞬間の鷹のように、一征はただ目の前だけを見続けていた。