恋するサキュバス
「……で、これはどういう状況かな」
寝起きだったが、目はきんきんに冴えている。
どれもこれも、今、目の前で正座させている女性のせいだ。
「えっと……」
言葉を探しているようだが、なかなか言わない。
なにせ、下半身をまさぐっているところで俺が目が覚め、その場で取り押さえて説教を始めているからだ。
「サキュバス、なんだな」
それには彼女はうなづく。
見た目は20歳より若干若いかと思う。
でも、夢魔だとすれば、だいたい人間の年齢に45倍すれば、実年齢に近いと聞く。
とすれば、軽く900歳になるわけだ。
「確か、IDがあるだろ。見せてよ」
「ほら」
彼女が見せたのは、運転免許と同じ大きさのカードだ。
写真、種族名、名前、許可されている行為が書かれている。
もっと細かいのを見ようと思うと、市役所とかに置いてある専用のリーダーで読みこむ必要があるため、ここではできない。
「あれ、大学生?」
ふと、名前の下に、大学名が書かれているのに気づいた。
「そう」
どうやらそうらしい。
しかも、俺の友人が通っているところだ。
「なるほどなぁ。そういうことか」
許可されている行為には、まだ何も書かれていない。
だけど、本能には逆らえず、俺に襲いかかってきたということらしい。
「…それで、どうしたものかな」
本当ならば違法行為だ。
警察へ連絡することが筋なのだろうが、あとで面倒になるかもしれない。
だから、俺は条件を付けることにした。
「よっしゃ、じゃあこうしよう。何かあれば、俺だけを襲え。いいな」
「それって……」
「ま、告白かな」
そう言って、彼女に通じるか自信はなかったが、一瞬キョトンとしてから、顔が晴れ晴れとした。
「ありがと!」
そう言って、彼女は抱きついた。
ふくよかな胸が、とても気持ちがいい。
次の問題は、彼女ができたからと言っても、相手が夢魔なら、間違いなく俺の方が先に死ぬと言うことだ。
「あ、それは問題ないよ」
心を読んだかのように、さらっと言ってくる。
「どういうことさ」
「貴方が死ぬ瞬間に、貴方の意識は私と一緒になるから。だから、肉体では死んだとしても、貴方は死なない。だから大丈夫」
「えっと、魂の融合的な?」
「そんな感じ」
さらに聞けば、俺の意識は彼女と共に生き続けるらしい。
彼女が死ぬまで。
それが決まりなのだとか。
嫌になれば、いつでも消え去ることもできるそうだから、問題が無いと言った。
「…さて、それは遠い未来だから、どう考えるかは分からんな」
俺は、問題を先送りにした。
今の問題は、新しく出来た夢魔の彼女の問題だからだ。
ただ、なんとかなる。それだけがはっきりしていた。