わんこと笹
炎が、小さくなってきた。
体がふるりと震えて、体温が下がったことを訴える。
あたしを抱えたまま、クロウくんが拾い集めて置いておいた木の枝を放り投げた。
「呪われてるんだ」という衝撃の告白は、あたしにとって現実味がなかった。
ただ驚いただけで、それが一体彼にどんな影響を及ぼしてるかなんて、全然想像がつかない。
かといって、信じない、なんて選択肢は存在しなかった。
クロウくんが、とっても心細そうなカオをしてたから。
「・・・あたし、」
彼を振り返ったまま、囁く。
言葉を選ばなくちゃ、と思うのに、言葉が浮かばないから選べもしない。
「呪いって、初めてで・・・」
結局思ったことをそのまま言っただけのあたしを、彼は静かに見下ろして。
「そっか」
小さく、呟いた。
「アイリちゃんの世界には、こういうのはなかったんだね。
・・・だから、俺と平気で一緒にいられるんだ・・・」
無表情で、なんだか後ろ向きな雰囲気だ。
いつもの人懐っこい、わんこなクロウくんはどこ行っちゃったんだろう。
こういう時こそ、擦り寄って甘えればいいのに。
そういうの、得意分野なんじゃなかったか。
「この世界の人間じゃないと、模様が見えないのかな」
ふと浮かんだ疑問を呟けば、彼が肩を竦めた。
「さあ・・・考えたことなかったな・・・」
「どんな呪いなの?
もしかして、命に関わる・・・?」
あたしが知ってる呪いは、丑の刻参りくらいのものだ。
それだって、自分の目で見たわけじゃない。知ってるだけだ。
だから、彼の背負ったものがどれほどのものなのか、全然想像がつかない。
控えめに尋ねると、彼は首を振った。
「俺にもよく・・・。
ただ、人によって見える模様が違うらしい、ってことだけ。
あとは、ほとんど何も分からない」
「解く方法、ないの・・・?」
「分かってたら、もうやってるよ・・・。
でも、それを王都で調べようと思ってる」
あたしは頷いて、手を伸ばす。
「・・・痛くない?」
稲妻の模様を、指で辿る。
触ってみて、初めて知った。
かくんかくん、と引かれた線が、時折滲むように伸び縮みしてる。
この距離で顔をじっと見つめることなんてなかったから、全然気づかなかった。
そっと線をなぞっていた指が、掴まれる。
彼の手は、冷たかった。
「あ、ごめん。
触っちゃダメだった・・・?」
謝ったあたしを、クロウくんは小さく笑った。
「そうじゃないよ。
・・・アイリちゃんまで呪われちゃったら困るでしょ」
「・・・呪いって、感染するもんなの?」
あたしが常識知らずなだけで、実は空気感染しちゃうとか?
そんなことを考えて、小首を傾げる。
すると彼は、また笑った。
「さぁ・・・どうだろ」
「そこは否定して」
がっくり肩を落として、言葉を零す。
寄りかかった背中は、クロウくんの体温で満たされていた。
ぱちん、と炎が爆ぜる音が遠くで聞こえた。
体が、びくん、と跳ねて目が覚める。
「・・・う・・・ん?」
ぼやけた視界が不快で瞬きをする。
ピントが少しずつ合っていって、目の前に炎が見えてきた。
「起こしちゃった・・・?」
抑えた声が、背中越しに伝わってきた。
そのひと言でやっと、あたしは自分が居眠りしていたことに気づく。
お腹に回った腕が、あたしを抱え直してくれる。
「ごめ・・・ねちゃった・・・」
沈みそうになる意識を、体を起こし目を擦って呼び起こす。
すると、大きな手がおでこに当てられた。
じわぁ、と熱が瞼に伝わって、重くなる。
頭の中が朦朧として、唇が緩んでしまう。
ああ、睡魔に負けちゃうよ。
「あ、だめ、それ、」
「紛らわしい声出さないの」
苦笑混じりの言葉と同時に、おでこを押された。
やんわりした力加減で、でも絶対に抗えない何かを伴って。
ぽすん、と背中から沈んで、頭がクロウくんの肩に着地する。
目に入ってきたのは、たぶん彼の顎。
ぼんやりと目に入るものを眺めていると、睡魔が大群になって襲ってきた。
瞬きをするつもりが、全然瞼が開かない。
「・・・アイリちゃんは寝ないと、明日もたないよ」
「ん・・・じゃ、したでねる・・・」
「下はダメ。虫が上がってきたら困るでしょ。
アイリちゃん足出してるんだから、刺されちゃうかも知れないよ。
ほら、羽虫が寄って来ないように俺がちゃんと起きてるから。休んでて」
もっともなことを言う彼に、言い返せない。
あたしは、口をきくのも億劫になって体の力を抜いた。
「は、ふ・・・」
欠伸で開く口を押さえるのも忘れて、まどろみに身を任せる。
「おやすみ、アイリちゃん」
「・・・くろ・・・ん・・・」
寝ちゃってごめんね。
起きててくれて、ありがとう。
あたしが乗っかってて、足痛くない?
さっき言ってた「怖い」ってどういう意味?
誰にかけられた呪いなの?
王都に着いたら、お別れなの?
・・・でもあたし、仕事が・・・。
言葉にならないものが渦巻く意識が、ずぶずぶと闇に飲まれていった。
堕ちる一瞬手前まで聞いていたのは、安心できる鼓動の音。
そのせいなのか、あたしはクロウくんに揺り起こされるまで目が覚めなかった。
「アイリちゃーん」
ゆさゆさ。
肩が揺すられて、頭の中も一緒に揺れる。
「んー・・・ぁふ・・・」
起きてるよ、と言いたいとこだけど、欠伸が先に出た。
思わず口を押さえる。
そこへ、くすくす笑う声が耳に入ってきた。
「・・・起きてる?」
耳慣れたわんこの声に、ふにゃり、と勝手に笑みが浮かぶ。
「うん・・・おはよ」
目覚めは驚くほど、すっきりしてた。
首を巡らせて、枝の隙間から覗く空を見上げる。
まだ薄暗い。星は見えないけど、明るい空じゃない。
夜明け前の静けさと、澄んだ空気が首元を通り抜けて行く。
深呼吸すれば、濡れている草の匂いがした。
だんだんと自分の体に、真新しい酸素が充満していく気がする。
頭の中がスッキリしていって、まるでミントの葉を口に含んだような、不思議な感じ。
ゆっくり瞬きをして、囀る鳥の声を聴く。
仲間同士で呼び合っているのか、あちらとこちらで、交互に鳴いていた。
「・・・体、痛くない?」
目が覚めてから、ちょっとの間ぼーっとしてたらしい。
あたしはクロウくんの声に我に返って、森の一部になりそうだった意識をそこから剥がす。
「ん、だいじょぶ」
振り返ると、穏やかな表情の彼がいた。
起き抜けの距離感としては間違ってるような気がしないでもないけど、野宿中だったし、夜は怖かったし。
年頃女子としての恥じらいを頭の片隅に追いやって、あたしは手を伸ばす。
昨日の夜触った、顔の模様じゃなくて。
2日連続の寝不足で濃くなった、目元のクマをなぞった。
「あたしばっかり、ごめんね。
クロウくんの話も、中途半端にしちゃったし・・・」
「気にしないで」
ふ、と彼が息を吐く。
そのカオは、なんだかちょっと困っているようにも見える。
くっきり濃くなったクマをなぞっていた手が、掴まれた。
・・・この場面、昨夜もあったな。
記憶に気を取られている間に、あたしの手はクロウくんの頬を撫でていた。
いや、彼があたしの手で、自分の頬を撫でていた。
すべすべ、つやつや。
何食べたら、こんなにキメの整った肌になるんだろう。
・・・異世界の美容体験、パッケージに追加出来ないかな・・・。
頭が勝手に仕事モードになりかけた時、クロウくんが口を開いた。
「アイリちゃんの手だ~」
夜明け前の森深くで、一体何をしてるんだろう。
あたしの手に頬ずりしてる彼は、ほんとに犬みたいで可愛いんだけど。
「俺もそれなりに休めたし。
アイリちゃんは傍にいてくれるし。
今日も1日頑張れそうだしね!」
ものすっごいクマ付けて、そんなこと言ってるクロウくん。
昨夜、打ち明け話をした時の彼とは別人みたいに明るい。
これが空元気なのかどうか、あたしには分からないけど。
・・・とりあえず、元気ではあるみたいだ。
クロウくんが火の始末をして、荷物を纏めて。
その間に、あたしは木に隠れるようにして、着替えを済ませる。
“出口の街”でひと悶着あったから、違う色の服を着た方がいい、らしい。
結わいていた髪は、あっさり解かれた。
印象を変えておいて、損することはないだろうから、だそうだ。
ちなみにホクロも、ちゃんと付けた。
・・・着脱可能、ってことに気づいたクロウくんは、ホクロの位置で悩まずに済んだらしい。
時間は金なり。ちゃっちゃと済んで、なによりだ。
そんなこんなで、あたし達は無事に“入り口の街”に辿りついた。
街の入り口に立っていた騎士からは、呼び止められることもなかった。
細々とした変装が、功を奏したんだろうか。
「やったね」と囁いたクロウくんに微笑み返して、ミカンを街の出口にある預り所まで連れて行って。
甘え鳴きをするミカンを撫で回して、赤い実をいくつかあげて、街に引き返して。
「あー・・・」
ばふん、と大きなベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「・・・何にもしてないのに、なんかすっごい疲れた・・・」
天井には、くるくる回るプロペラみたいなものがある。
たまたま目についたそれを眺めて、目が回りそうになったあたしは、勢いをつけて体を起こした。
すると、荷物を整理するクロウくんの背中が目に入る。
・・・よく動く人だな。
「クロウくんも、ちょっと休んだら?」
心配になって声をかければ、彼が振り返る。
「うん、でも服はかけとかないと。
着た時に皺になっちゃうから・・・」
そう言いながら、彼はてきぱきと服をハンガーにかけていく。
細かいことをサボらない人らしい。
大体今ハンガーにかけてるのだって、あたしの服だよね。
気にかけてくれて嬉しいけど、あたしだったら椅子の背もたれに掛けちゃうよ。
動き回るクロウくんの背中を眺めながら、心の中で呟いた。
「・・・でもさ、アイリちゃん」
今度は自分の荷物をごそごそやりつつ、彼が言う。
あたしは何も気に留めずに返事をした。
「なにー?」
振り返った彼の顔は、若干赤いような気がしないでもない。
・・・やっぱり疲れてるんじゃないか。
ちょっぴり心配になったあたしをよそに、彼は視線を右へ左へ彷徨わせてから、言った。
「ほんとに良かったの?
その、一緒の部屋で・・・」
勇気を出して紡いだらしい言葉に、乙女の恥じらい的な何かを感じて、あたしは絶句した。
“入り口の街”を通過して、次の街で宿をとっても良かったんだけど。
クロウくんをゆっくり休ませるために、この街で一泊しようと、あたしが提案したのだ。
まだ昼過ぎだから、選べるくらいには部屋が空いてたんだけど・・・。
あたしが言ったのだ。「部屋、一緒でもいいよ」と。
・・・って、そういう意味じゃなくて。
昨夜の、心細そうなクロウくんを見ちゃったから。
“要の街”でも・・・まあ、キッカケはあたしの過失だったとしても・・・くっついて寝てたみたいだし。昨日も、「くっついてたい」って言ってたし。
隣の部屋で、わんこなクロウくんが啜り泣きでもしてたら・・・と思ったら、居た堪れなくて。
2人っきりで野宿して、あんだけくっついて・・・ここまできたら、一緒の部屋に寝泊まりするくらい大したことじゃない気がしてきたんだ。
ベッドもちゃんと2つあるし。着替えはトイレでするから平気だし。
そういう、あたしなりの気遣いのもと、同室が実現したわけなんだけど・・・。
だから、そうやって顔を赤らめられると、困るんですよクロウくん。
「じゃあ別にしてもらいに行ってくる」
絶対わざと、あたしを困らせようとしてるんだ。
そう判断して、ベッドから下りる。
すると、慌てたクロウくんが駆け寄ってきた。
「ああああ嘘です!一緒がいいですー!」
こんなに必死になるなんて、よっぽど寂しがり屋さんなんだな。わんこくん。
今日泊るのは大きな宿だから、シャワーじゃなくて浴場がある。
王都側から森に入る人が多いからなのか、“出口の街”よりも煌びやかで都会的な街。
だから、王都の人達にウケが良さそうなものが、揃ってる。
例えばジャグジーとか。ハーブ風呂とか。ちょっとオシャレな健康ランドみたいだ。
久しぶりの湯船を堪能したあたしは、さっぱりした体に軽いだるさを覚えつつ、濡れた髪を纏めて浴場を出た。
備え付けのサンダルが、カランコロン、と小気味良い音を響かせる。
食堂の前にさしかかった途端に、美味しそうな匂いに反応して、お腹が鳴った。
そういえば、昨日の夜も今日の朝も、携帯食しか口にしてないんだった。
思い出して、空腹感が増す。
あたしは急ぎ足で、クロウくんの待つ部屋に向かった。
きっと彼の方が、お腹が空いてるに決まってる。あたしよりもずっと、体が大きいんだから。
階段を上って、廊下の突き当たり。
宿のおじさんが、「角部屋空いてます」って通してくれた部屋だ。
引き攣った営業スマイルは、“臭いものには蓋を”って、匂わせてたけど。
思い出して、息を吐く。
その刹那。
「林!」
唐突に呼び止められて、心臓が飛び跳ねた。
「林だよな・・・?!」
背後から、しかも近くから、あたしを呼ぶ声。
硬直した体が、言うことを聞いてくれない。
振り返りたいけど、振り返りたくない。
嬉しさと怖さと、おかしな緊張が全身を駆け巡った。
声も出せないあたしに苛立ったんだろう、その人は、目の前にやって来る。
幸い眼球だけは動いてくれて、あたしはその人の顔を見ることが出来た。
「・・・やっぱり・・・!」
ほっとしたような、でも苛立ちの方が大きいような表情で、その人はあたしの両肩を掴む。
「やっと見つけた・・・良かった、無事で・・・!」
瞳を覗きこんで押し殺した声に、あたしは息を吹き返した。
「ご無沙汰、してました・・・先輩」
きっちり線を引く。
鬼門が異世界まで追いかけてくるなんて、ほんと、勘弁して欲しい。
無難な挨拶に、先輩は大きく息を吐き出した。
「お前な、もうちょっとあるだろ。
・・・来てくれてありがとう、とか。感動的なやつ」
呆れ混じりに、再会のやり直しをリクエストされた。
「ありがとうございました。
係の人手不足解消にひと役買っていただいた、ってことで合ってます?」
超事務的なものの見方をしたら、今度は声を荒げられた。
分かってる。
ちょっと熱くなりやすいんだ、この人。
だから新人教育にも熱心で、熱心すぎていろんな勘違いを生み出した。
「・・・確かに、お前の捜索に割り当てられる人員がいなくて、こうなったけど!
でも俺は、」
かちゃ、ぎー・・・。
控えめに軋んだ音と一緒に、わんこが顔を覗かせた。
「あ、やっぱりアイリちゃんの声だった」
あたしと目が合って、にっこり微笑むクロウくん。
おもむろに部屋から出てきた彼は、あたしの両肩に置かれた手を、べりっと剥がす。
そして、丁寧に肩からゴミを落とすように、ささっと何かを払う仕草をした。
「・・・遅いから心配したんだよ」
絶句した先輩を完全に無視して、彼はあたしの頬を撫でる。
・・・あ。
頬を撫でられて気づいたあたしは、我に返って口を開いた。
「ごめん、ホクロ・・・お風呂入る前に取るの忘れちゃって。
・・・顔洗ったら、流れちゃったんだ」
「ん、へーき。まだあるから。
食事の前に、新しいの付けようね」
「うん」
あたしが頷くと、彼が先輩に目を遣った。
「このおにーさん、もしかしてアイリちゃんの会社の人?」
そのひと言が、にこやかな笑みからは想像が出来ないくらいの冷気を放つ。
先輩が、ふるりと肩を震わせた。
「え、っと・・・笹川先輩っていって・・・1年目の時、同じ職場だったんだ。
いろいろ教わって、お世話になった人なの」
「ふぅん・・・そっか。
俺、クロウと言います。よろしく」
おざなりな挨拶に、先輩も困惑した表情を浮かべたまま固まっている。
「え、っと・・・?」
あたしは、視線を交わしつつも全く会話をしない2人に、戸惑っていた。
先輩は何かに驚いて黙りこくってるし、クロウくんは敵意むき出しの視線を投げて。
・・・いくら初対面だからって、あたしの知り合いなのは分かってるんだから、もうちょっと穏やかに自己紹介しても良いと思うんだけど・・・。
そんなことを考えていたら、クロウくんが、あたしの髪に触れて顔をしかめた。
「アイリちゃん、これじゃ体が冷えちゃうよ。
おいで、ちゃんと乾かそう」
そう言って、彼はあたしの肩を抱いて一歩を踏み出す。
「え、ちょっ・・・?!」
急な動きに驚いて、思わず声が出る。
すると、前に進んだはずのあたしの体が、ぐいっと引き戻された。
「・・・お前、」
引力の発生源に顔を向けると、そこには怖い顔をした先輩が。
・・・あたし、今までそんな顔して怒られるようなこと、なかったですよね?!
条件反射で息を飲む。
「耳の後ろ、赤くなってるぞ」
掴まれた手首に、物凄い圧がかかってる。
千切れる、千切れます先輩。
「・・・見つかっちゃったか」
すっとぼけた声で言ったクロウくんが、先輩を振り返って笑みを浮かべる。
先輩が、苦虫を噛み潰したみたいなカオで、唸るように呟いた。
「よりにもよって、異世界の虫がついてんのかよ・・・」
虫刺されか。大げさな。
じゃあ虫に怒ってるのか。あたしじゃなくて。
「あ、もしかして昨日かな?」
気持ちが軽くなったあたしは、手首の痛みから気を逸らしてクロウくんを見上げた。
「ごめん。
・・・我慢、してたんだけど」
そういえば野宿の間、クロウくんは、下から上がってくる虫に刺されないように、あたしを抱きかかえてくれて。
なおかつ羽虫が寄って来ないように起きてる、って言ってたんだ。
声を落として若干しょんぼりした彼に、あたしは首を振る。
こんなにくっきりクマ付けて、寝ずの番なんて無理だよね。
そりゃ居眠りだってするわ。
「気にしないで。
クロウくんが夜通し頑張ってくれてたの、ちゃんと分かってるし・・・。
まずは、あたしが我慢するべきだったんだよね」
あたし達の会話を聞いて、言葉を失ったらしい先輩の手から力が抜ける。
小首を傾げて見つめれば、クロウくんが頬を赤らめて視線を逸らした。
その後、一瞬置いて我に返った先輩とひと言ふた言交わして、部屋に戻って。
クロウくんが、髪を乾かしてホクロを付けてくれたんだけど・・・。
にやにやしてて、なんか気味悪くて。
試しに頬を、びよーん、と引っ張ってみたけど、やっぱりにやにやしてた。
でも頬を引っ張って遊んでる、あたしの手首が赤くなってるのに気づいて、血相変えて医者鞄を取りに走ってた。
・・・普段どんなでも、医者は医者であるらしい。




