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【後日談】手を握ろう









2回戦突入を断られたクロウくんが、しょぼん、と肩を落として。

けどその割に、優しくあたしのお腹を撫でてくれてたから、きっと不満があるわけじゃないんだろうけど。


そんな彼が可愛く思えて仕方なくなっちゃったのは、一体いつからだろう?







「・・・ぁあ熱っ」

ぼんやり考えながらカップに口を付けたら、唇にビリビリと痛みが走る。

淹れたてのお茶は、湯気を立てていた。

びっくりして呆けたあたしの目の前に、クロウくんが戻ってきた。

「もー、何やってんの・・・」

頭をタオルで乱暴に、わしゃわしゃと拭いてる彼が苦笑を浮かべてる。


花びら舞い散る王子様ベッドの寝心地は、素晴らしく最高だった。身体的にも精神的にもいろいろあって疲れてたから、泥のようにぐっすり。

まあ、起きたら思い出したみたいにお腹がじくじく痛みだしたんだけどさ・・・。

クロウくんは「ゴロゴロしてていいよ」なんて言ってくれたけど、その台詞を真に受けたら、彼が犬からオオカミに変身する瞬間を目の当たりにするような気もして。

結果、あたしはカピカピじんじんする体を綺麗にするべく、シャワーをお借りすることになったんだけど・・・。

さすがスケールの大きなお持ち帰り、そして気合いの入ったおもてなし。シャワーから戻ったら、テーブルの上に軽食が用意されてて驚いた。

・・・お風呂上がりは、瓶に入ったコーヒー牛乳とかでいいんですけども。果物の盛り合わせとか、ここはホストクラブか何かですか。

ぽかんと口を開けて唖然とするあたしを、クロウくんは楽しそうにソファに座らせて、自分もシャワーを浴びに行った。

そうして取り残されたあたしは、少し呆然とした後にポットに手を伸ばしたわけだ。

・・・クロウくんと一緒にいるようになってから、順応性には自信がついたよ。



お茶の熱さで我に返ったあたしは、同時に目に飛び込んできた光景に仰け反った。

見ちゃいけないものが・・・っ。

「ふっ、服はどうした・・・!」

びっくりしてカップを落とさなかったあたし、偉い!

てゆうか、いちいち高級過ぎて怖いよ!

こんな立派なお家の物を壊したら、外交問題とかに発展するかも知れないもんな。取り扱い注意だ。気をつけなくちゃ。

怪しかった手元に神経を集中してたあたしは、半裸のクロウくんが、わしわし髪を拭いてたタオルを首から下げて笑ってることに気づいた。

「アイリちゃん、動揺しすぎ!

 もっとスゴイこと、いっぱいしたじゃん!」

・・・腹を抱えて笑うとは何だ、失礼な!

板チョコみたいな腹筋に手を当ててゲラゲラ笑ってるクロウくんを睨みつける。

すると、おかげで羞恥心がどこかに吹き飛んだらしい。

あたしは思いっきり息を吸い込んだ。

「いいから服!」




服を着て戻ってきたクロウくんが隣に座って、ぷぷ、と思い出し笑いを浮かべてる。

でもサンドイッチに伸ばした手には品があって、優雅だ。

・・・そういえば、いつも食事時に思ってたんだよね。クロウくん、がつがつ食べるクセに仕草が綺麗っていうか。そのへんがアンバランスっていうか。


何を思い出して笑ってるのか、ってところには目を瞑って、あたしは口を開いた。

「クロウくん・・・ほんとに王子様なんだね」

ついて出た言葉は、素直な気持ち。

お客様のことも呪いのことも万事解決して冷静になった頭は、クロウくんと大人の階段を上った今になって、そんなことを考えてる。

王城の一角にある高級感しかない部屋で、自分がこうしてお茶を啜ってる不思議。それに一生縁がないと思ってたシュチュエーションに放り込まれて、戸惑ってる。

・・・だからまだどこか、物語の中に迷い込んでる感があるんだよね。

どこか他人事っていうか、これが現実であることが信じられないんだ。


クロウくんは、そんなふうに考えてるあたしを一瞥すると、サンドイッチを物色してた手を引っ込めた。

「んー・・・そうだねぇ・・・」

ぽつりと呟いて、彼は苦笑いを浮かべる。

なんでそんなカオしてるんだろ。

聞こうとしたら、クロウくんが背もたれに体重を預けて言った。

「アイリちゃんが嫌なら、別にいいよ」

「え・・・?」

・・・なんか嫌な予感。

思わず口を閉じたあたしを見て、彼が困ったように笑う。

「ああごめん、言葉が足りなかったね」

手をぱたぱたさせる姿が、場違いにコミカルだ。

「俺、ずっと、自分の生まれは捨てられないって思ってたんだけど。

 ・・・オウジサマ、辞めても生きていけるかな、って」

「え・・・?!」

まさかの台詞に、あたしは目を見開いた。

・・・このコ、何言ってんの。

突拍子のない言葉に固まったあたしを、クロウくんは声に出さずに笑った。

「15歳の時から、医師団でそれなりに働いてたんだけど。

 どんだけ頑張っても、嗜む程度の労働しかさせてもらえなくてさ・・・」

“させてもらえない”ってことは、クロウくんはもっと働きたかった、ってことだ。

言葉の奥にあるものを探りながら、あたしは相槌を打つ。

もっと、彼の言葉が聞きたかった。



「医師団のお偉いさん達は、王族の専属医を務めてるんだけどね。

 その人たちには、当然のように第一妃の息がかかってて・・・。

 俺は医師団に入ってからずーっと、腫れものに触るみたいに扱われてた。

 ・・・医者として力をつけたら、きっと“誰か”が困るんだろうね。

 

 だから、さ。

 貧民街で無償の医療行為をするグループを作ったんだ。

 奉仕活動を制限したら自分の評判が落ちるから、第一妃も反対はしなかった。

 そうやって現場を見ながら、下っ端医師として勉強をしてきたわけ。

 

 結果、奉仕活動をしてるクローネル王子殿下は庶民派で良い人。

 たまに家出するけど、実は街中に潜んで国民の生活を見てるんじゃないか・・・

 なんて、とっても好意的に見てもらえるようになったんだよね。

 ・・・で、ジュジュが専属医に指名してくれて、今に至る・・・みたいな」



「ま、好意的、ってのは新聞に書かれてるのを真に受けただけだけど」・・・なんて。

苦笑混じりに言って、彼は小首を傾げた。

なんだか他人事みたいに話してるけど・・・。

強がってるのか、それとも彼が言った通り、諦めてるのか。


あたしは、窺うようにクロウくんを見つめて、口を開いた。

「あのね。嫌だったら、教えてくれなくていいんだけど・・・」

「うん」

こわごわ前置いたあたしに、彼はひとつ頷く。

そのカオは不快そうでもないし、目つきも柔らかいままだ。

嫌なわけじゃない、と受け取らせてもらうことにして、あたしは続けた。

「・・・第一妃は、どうしてクロウくんを目の敵にするの・・・?

 自分の子どもだけを可愛がるにしたって、クロウくんの他にも・・・」

クロウくんは、あたしの質問に困ったような笑みを浮かべる。

「んー・・・あの人がほんとに嫌いなのは、俺じゃなくて第三妃なんだよ」

「第三妃・・・は、クロウくんのお母さんだよね、たしか・・・」


あたしは頭の中に、クロウくんちの家系図を広げた。

国王と、第一妃。間に生まれた息子は2人・・・皇太子と、騎士団長。

それから、第二妃には3番目の王子とジュジュ王女がいて・・・。

・・・で、第三妃との間に、クロウくんが生まれたんだったか。


彼は頷いて、口を開く。

「そう。

 あの人は、母さんのことが憎くて憎くて、忘れられないんだと思う」

肩を竦めた彼の手がおもむろに伸びてきて、あたしの手に触れる。

撫でるでもなく、掴むでもなく。

指先が強張るのを見つけて、あたしはクロウくんの手を握った。


そういえば、いつだったかクロウくんの寝顔を見た時に思ったんだよね。

呪いに苦しんでるクロウくんのために、あたしが出来ることは何だろう・・・って考えた結果、甘やかすことくらいか、なんて。


思い出して手にぎゅっと力を入れれば、彼の手が弾かれたみたいにあたしの手を握り返して。

その瞬間オレンジ色の髪が小さく揺れたのを見たあたしは、ゆっくり息を吸いこんだ。

「・・・クロウくんのお母さんは、どんな人だったの?」


あたしの言葉に、彼は小首を傾げてから言った。

「んー・・・どんなって、普通の人だよ。

 息子の俺が言うのもなんだけどさ、生まれも見た目も、全部普通。

 ・・・って、俺も一緒に暮らしてたのは8歳の時までだけどさ・・・」

「どういうこと?」

そのひと言に、あたしは首を捻る。

すると彼は、小さく息をついて言った。

「そのまんま。

 俺が8歳の時に母親と引き離されて、それ以来王城暮らしをしてるってだけ」

引き離されて、ってことは、死別しちゃった、ってこととは違うはずだ。

あたしは頭をフル回転させながら尋ねた。

「その間、お母さんはどこに・・・?」

「アイリちゃんも、知ってる場所だよ」

繋いだ手の甲を指先で撫でながら言ったクロウくんが、あたしを見つめてる。

これはあれか。当てて見せろ、ってことか。

・・・身分の高い人が、住んでそうな場所・・・。

心の中でぶつぶつ呟いて、あたしはやがて一か所だけ心当たりを見つけた。

「もしかして、あそこ?

 森で野宿した時の・・・」

名前が出てこない。

唸ったあたしに、彼は頷いて言った。

「そうそう。森ノ宮ね。

 ・・・俺、森ノ宮で育ったんだ。

 生まれて1年くらいして、王城から追い出されたみたいでさ・・・」

自分のことを首を捻りながら話すのは、なんか変だ。

「みたい、って・・・。

 お母さんから何にも聞いてないの?」

思わず口を挟んだら、クロウくんは肩を竦めた。

「全然。王城に戻りたい、とも言ってなかったし。

 大体母さん、あのオジサンのことも第一妃のことも悪く言わなかったし。

 ああでも、生んだのが王子だったから追い出された、って小耳に・・・」

・・・いろいろ気になるワードが飛び出したけど・・・。

あたしは何から尋ねようかと考えを巡らせて、口を開く。

そして言葉を発しようとしたら、それよりも早く彼の方が話し始めた。

「オジサンが母さんにベタ惚れだったらしくてさ。

 それだけでも第一妃は気に入らないのに、子ども、しかも男の子が生まれて。

 その上オジサンが可愛がっちゃったから、焦ったんだろうね。

 俺が皇太子の王位継承の邪魔になるかも。だから母さんごとポイ、って。

 ・・・っていうのは、仲良くなった侍女から聞き出した話」

「そ、なんだ・・・」

話の内容がドロドロしてて、どんな相槌を打てばいいのか分からない。

本人はあっけらかんとしてるけど、まるでドラマみたいな家庭事情だな。

顔を強張らせるあたしに、クロウくんは空いてる方の手をぱたぱたさせた。


「いやいや、アイリちゃんがそんなショック受けるようなことでもないからね?

 ともかく俺は、歓迎された王子様じゃないわけ。

 だから母子セットで森ノ宮で軟禁生活をしてたんだけど・・・。

 8歳の時に、オジサンが病気で生死の境を彷徨ったんだ。

 それで、俺にも王族の教育を受けさせようってことになったみたい。

 もちろん選択権なんかないからさ、泣く泣く母さんと引き離されて・・・。

 で、まあ、その後もいろいろあって・・・今に至るわけですよ」


最後の方がぼんやりしてたけど、とりあえずクロウくんの半生については大体把握出来た。

・・・把握して、その壮絶な内容に絶句しちゃったけど・・・。

何も言えない自分がもどかしくて、つい手に力が入る。

すると彼は、ちょっとだけ笑って言った。

「でもさ、ほんとにいろいろあったけど。

 必死にしがみついてたんだよね、俺、自分が王子様でいることに」

「クロウくん・・・?」

笑顔がやけにスッキリしてて、なんだか不安になる。

訝しげに呟いたあたしを見て、彼は小首を傾げた。

「いくら家出してみても、もう母さんはいないし。

 頼れる親戚がいるのかどうかも分からないし・・・って。

 でももう、王子様でいなくてもいいかな、と思うんだよね。

 第一妃に目の敵にされても頑張ってきたけど、別にもういいかも、って。

 今なら、負けたわけじゃない、って思えそうっていうか・・・」

そこまで聞いて、あたしはなんとなくクロウくんの言いたいことが分かった気がした。


あたしなんかには想像出来ないような経験をして、辛くても、きっと歯を食いしばって頑張ってきたんだね。8歳の時に放り込まれた環境の中で、なんとかやってきたんだ。

・・・もう、もうもうもう。なんて健気なわんこなの。

ここ数日の間に、腹黒かったりオオカミだったり、ちょっと衝撃的な事実が晒されたりしてたけど。でもやっぱりクロウくんは、可愛いわんこだ。

どうしよう、撫で回したい。


心の中で気持ちを整理したあたしは、何も言わずにクロウくんの頭を抱きこんだ。

「わっ・・・?!」

びっくりしてるクロウくんをそのままに、ぎゅむむ、と力を込める。

撫で回したい衝動ごと、ぎゅむむ。

いっそのこと窒息しちゃうくらい、思いっきり抱きしめられる力があればいいのに。

そんなことを考えて、腕を解く。

すると恨みがましそうな目で、クロウくんがあたしを見つめてることに気づいた。

「もぉぉ・・・アイリちゃん・・・」

・・・あ。やり過ぎた?

一瞬反省したあたしの肩に、彼は、こつん、と頭を預けてくる。

思いの外クロウくんの頭は重くて、あたしの背中が傾いていくのが分かる。

ふざけて、とかじゃない。彼はほんとに、あたしの肩に体重を預けてるらしい。

「ちょ・・・っとと・・・」

ずしっとくる重さに戸惑ったあたしは、崩したバランスを持ち直して、クロウくんの頭を手で押さえた。

・・・うん。これで大丈夫。

すると、はふ、と息を吐く気配がした。


あたしの目線からは、クロウくんの表情は見えない。

オレンジ色の髪を撫でて、あたしに体重を預けてる彼に尋ねた。

「ごめん、苦しかった?」

「・・・、ううん・・・」

くぐもった声が一瞬息を詰めて、肩のあたりで響く。

「あのさ、」

あたしは思いついて、静かにしてる彼に言った。

「今度、クロウくんのお母さんの肖像画か何か、見たいなぁ・・・」

どんな人だったのか知りたい。

どこが似てるのか見てみたい。

「そんなことしたら、俺、」

クロウくんの声が、ちょっとだけ沈む。

ぽろっと零れた台詞は、とっても素直だった。

「寂しくなって泣いちゃう」

もしかして王子様ベッドでの一件のせいで、あたしの体の中にクロウくんの一部が入り込んじゃったんだろうか。

彼がどんな気持ちでそう言ったのかも分からないクセに、鼻の先がつんとする。

でもあたしがここで泣くのは、違う気がした。

あたしは、萎れたクロウくんの髪を撫でて、口を開く。

「うん、いいよ。泣いちゃえば。

 ・・・あたし、クロウくんに甘えられるの嫌いじゃないし」

ちょっと笑って言ったら、ぱっ、と切れのいい動きで彼の頭が離れていった。

そのカオは、なんだか泣き笑いみたいで可笑しい。でも、可愛い。

ナデナデしようと伸ばした手が、彼に捕まる。

泣き笑ってたカオが、瞬く間に不敵な雰囲気を纏っていく。

・・・なんでだ。わんこがオオカミに見える。



内心小首を傾げた刹那、肩を押されてあっさりバランスを失った。

ぽふ、と背中から落ちる。

「えっとー・・・なんだろ、これ」

言葉を投げかける間にも、クロウくんが捕まえたあたしの手を絡めとる。

指まで組んで、がっちり。抜け出すことを、許さないみたいに。

「うん?

 お言葉に甘えようと思って」

「お言葉・・・」

思い当たる節のないあたしは、ただ言葉を繰り返すだけ。

すると彼は、にしし、と悪戯っ子な笑みを浮かべて、あたしの耳元に口を寄せた。

声を発する直前の気配に、背中がそわそわする。

・・・この感じ、昨日のアレを思い出しちゃうんですけど!

思わず身を捩ろうとしたら、絡めた手がしっかり固定された。

「嫌いじゃないんでしょ?」

「なっ何が?!」

間髪入れずに聞き返すけど、クロウくんはそれには答えてくれないらしい。

喉の奥で笑って、あたしの耳の裏を舐めた。こともあろうに、べろん、っと。

「ひゃ、うぅっ」

あれか。やっぱりオオカミが犬の着ぐるみ着てただけか!

声を上げたあたしを見て、彼が目を細める。

・・・心の中で絶叫したの、クロウくんには聴こえてないはずなのに!

「なんで舌舐めずりしてんの?!」

ゆっくりゆっくり、クロウくんの顔が近づいてくる。

さっきまで、なんだか泣きだしそうな雰囲気だったのに。この変わり身の早さは一体なんなんだ!

詰りたい気持ちよりも、自分がこれからどうなるのかが見えちゃって声にならない。

実際体験した今なら分かる。

もう、きっと逃げられない。

彼は、慄いて瞬きすら出来ないあたしに言った。

「アイリちゃんに甘えようと思って」

「あま・・・?!」

「泣いちゃいそうだから、慰めて~」

言葉と一緒に、器用な指がボタンに触れる。

シャワーを浴びてしっとりした手のひらが、するん、と勝手知ったる感じで服の中に入り込んできた。

その手が何をしようとしてるのかなんか、もう分かり切ってる。

「ままままって!分かった!

 泣いちゃったら慰める!」

慌てて制止しようとするけど、クロウくんの手は生き物みたいに動いてて。

「えーん、えーん」

「こらー!」

嘘泣きすんなー!

喚いたそばから、首の後ろで結んでたはずの下着の紐が、びよーん、と伸びる。

そしてそれを、あろうことか彼は口に咥えたのだった。


・・・あとのことは、推して知るべし。








「母さんの肖像画かぁ・・・」

ぽつりと零れた台詞に、あたしは静かに耳を傾ける。

ちなみにクロウくん、思いっきり甘えたお詫びに、あたしをマッサージ中である。

背中から腰にかけて丁寧に揉みほぐす手の動きに、目を閉じてうっとりしちゃう。

うん。苦しゅうない。

「どこやったかな。

 子どもの時に見て、それっきりだけど・・・」

ああ、気持ちいいなぁ。

あたし、殿様気分だ。

「む、ふにゅぅぅ・・・」

「え?

 ああ、アイリちゃんほら、よだれよだれ・・・っ」

「じゅる。ほぁぁ・・・」

ほんと、クロウくんてマッサージ上手・・・。

なんか自分でも、起きてるのか寝てるのか分からなくなってきちゃった。

そうだ。お母さんの肖像画、探そうよ。クロウくん。

「いこ、くろくん・・・」

「ん?なんて?」

訝しげな声に、あたしの頬がふにゃりと緩む。

「ねー・・・」

「ああもう、そんな無防備なカオしちゃって・・・」

クロウくん、何か言ってる。

ごめんね、何て言ってるのか全然分かんないけど。





あたしの大事なクロウくん。

しょんぼりしたカオが可愛い、さみしんぼで甘えんぼなわんこ。

今度はあたしが、きみの探しものを手伝ってあげる。

一緒なら、きっとすぐ見つけられると思うんだ。









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