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【後日談】夜と朝の間に

幕間的な内容です。主に王子様ベッドでのあれこれについて。

苦手な方は回れ右の上、次回更新までお待ちくださいませ。よろしくお願いいたします。















そういえば、たまにお世話になる栄養ドリンクに書いてあったっけ。

肉体疲労時の栄養補給に、とか。そんな感じのこと。

連勤続きで気だるい時に、気合いを入れるつもりで飲んだりしてたけど・・・あたし、疲労をなめてたかも。

ほんとは今の体の状態のことを“疲労困憊”と呼ぶんだな。

・・・なんて思いつつ、あたしは小さく息をついた。




肩から下がだるくて重くて、自分の体なのにそうじゃない感覚。

思い出した途端にお腹がじくじく痛んで、思わず体をくの字にして丸まる。

すると、ふいに背後の塊が動いた。

「だいじょぶ・・・?」

鼻に抜けるような寝起きの声は、別に初めて聞くわけじゃない。

一緒に旅した数日間、よく聞いてたんだから。

なのに今、あたしの心臓は少しおかしなリズムを刻んでる。

悪いことして見つかって、ひやっとするような。

心臓が定位置から思いっきりずれちゃったような、そんな感じ。


背後から伸びた手が探すように彷徨ってから、あたしのお腹を擦り始めた。

同時に、ぴと、と背中にくっついてきた温もりのおかげで、体全体がじんわりほぐれていく気がした。

くの字になってた体が、勝手に緩んでいく。

意思に反して、自分の体が勝手にクロウくん相手に力を抜いたことが癪で。

「・・・だいじょばない」

ぽつりと呟いたら、背後の温もりが笑った。

同時に、あたしのお腹に当てられた手が、ゆっくり動く。

「ごめん」

全然悪気のない声だ。

あたしは大きな手を、ぺしっと叩いた。

「そんな気持ち、ないくせに」

「うん、ごめん」

堪え切れなかったのか、クロウくんがクスクス笑い出す。

何が楽しいんだか、さっぱり分からん。

むすっ、として小さく息を吐きだしたら、彼は身じろぎして擦り寄ってきた。

そして、耳元に生暖かい吐息がかかる。

「だって、嬉しくって。

 ・・・びっくりするくらい良かったし」

その発言のすべてが、あたしの中をぐちゃぐちゃにかき乱した。

あたし今、インフルエンザで寝込んでる時並に発熱してるに違いない。

熱い。

「・・・もももももうっ、やーめーてー!」

恥ずかしいやら悔しいやら、思わず彼の手をばしばし叩いてやった。

その途端、お腹に鈍い痛みが走る。

「いっ・・・」

一瞬ナイフで刺されたのかと思うような痛みに、咄嗟に息を止めた。

・・・いや、刺されたようなもんだったか。あれは。

「ああごめっ・・・」

慌てたクロウくんが、大きな手であたしのお腹を擦る。






クロウくんが、何もしないわけがなかった。


まあその、あたしも別にこうなるのが嫌だったわけじゃない。それなりに恋愛をしたい、それなりの大人だもん。

合コンで捕獲してその場で味見しちゃうような、そんな桑原先輩みたいな肉食性はないから、ちょっと押しの強い男の人の方が合うとは思ってたし。

けど・・・いざとなったら怖気づいちゃって。

だから、シてみたいけど腰が引けて、でも、切々と口説かれ続けて。

もともと拒絶するつもりなんかないあたしは、すぐに陥落してしまったわけだ。



「まさかアイリちゃんがハジメテだったなんて思わなくて・・・。

 だから、なんかすごく興奮してしまいました。反省してマス」

「ああもうその言葉責め、どうにかならないかなクロウくん・・・!」

あたしのお腹をナデナデしながら言ったクロウくんに、顔から火が出そうになりながら言葉をぶつける。

すると彼は少し唸って、あたしの背中に頭をこつん、と寄せた。

・・・ああ、これ。前にも似たようなことあった気がする。

記憶を手繰り寄せようとしていたら、ふと、彼が吐息を零した。

「・・・だって、ほんとに嬉しかったんだもん・・・」

余計なものが削ぎ落とされて、言葉の純度が増した気がする。

少なくとも今、あたしの耳にはクロウくんの本心が聴こえてきてるんだと思う。

「あたしが初めてだったことが?」

確認したくて、つい、意地悪なことを言ってみたり。

そうしたらやっぱり、彼は一瞬言葉に詰まって、それからちょっと語気を強めた。

「そうじゃなくて~・・・」

・・・うん。それが聞きたかったんだ。

心の中で相槌を打ったあたしの耳に、言葉の続きが入ってくる。

「好きな人と、ひとつになれたんだって思ったらさ。

 ・・・って言ったら、呆れるかなぁ。

 ああ、アイリちゃんは、ちゃんとここにいるんだな・・・って。

 俺のこと全部受け入れてくれてるんだなぁ・・・とか」

・・・なんかもうそれ、恋愛マンガの台詞みたいだね。あとちょっと、卑猥じゃないかな。大丈夫かそれ。いろいろ心配。

頭の中でつらつらと呟いたクセに、あたしは小さく噴き出した。

だって、そんな可愛いことも恥ずかしいことも、けろっと言えちゃうクロウくんのことが、あたしは好きなのだ。

撫で回したい。きっと嫌がるけど。

「そんなこと、考えてたんだ」

ぽつりと言えば、彼が大きくため息をつく。

息がかかって、肌がちりりと焼けた。

「考えてました。

 だから・・・こうしてるのも、嬉しくてしょうがないんだってば」

言いながら、クロウくんの鼻先があたしのうなじを掠めていく。

熱い吐息がかかって、彼が口を開いたんだと分かった。

「アイリちゃん、こんな俺のことは嫌いになる・・・?」

唇が音を立てて、次の瞬間に抓られたような痛みが走る。

びっくりして身を竦ませたら、それごと後ろから抱き寄せられた。

・・・こんなふうにされて平常心を保てるような、デキた女子じゃないんですけど。

思わず声を上げれば、彼が小さく笑う。

「ねえ、嫌いになっちゃった・・・?」

笑みを含んだ声なのに、どこか寂しい。

彼の一部と混ざり合ったからなのか、あたしはなんとなく、そう直感した。

クロウくんの顔が見えないのが心配で、あたしは彼の手を捕まえて指を絡める。

そして、わずかに息を飲んだ彼に向けて、そっと囁いた。

・・・こんなこと言えるの、きっと今だけだ。

「・・・まさか。

 昨日よりも、大好き」


言っとくけど、2回戦にもつれこもうなんて、調子に乗ったことする仔は嫌いです。








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