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そのいち

それは突然のことだった。


いつものように学校に行って、まあ半分くらいは授業を聞いて(もう半分は早く授業おわんないかなーって時計をチラチラ見てた)、部活をこれでもかってほどやってくたくたになりながらも私は帰路についていた。


もうすぐ始まる文化祭で演劇を行うため、カラコンなんてオシャレなものをつけながら帰る道は、なんだか気分を上昇させる。青い目って、実はちょっと憧れてたんだ。

本当は演技の最中だけつけてればいいんだけどね。慣れるためって言って、借りてきちゃった。


コンタクトをしたこともない自分にとってカラコンをすることは、最初かなり度胸のいることだったんだけど、慣れればなかなか楽しくなってくる。


視界が青くなるなんてことは勿論無いけど、なんか気分が上がるんだ。友達にも似合ってるって褒められるし。

家に持ち帰らなければならない重い宿題も、これのおかげで少し軽くなった感じ。



……う、調子に乗って宿題なんて嫌なこと思い出しちゃった。


まったく、学校ってなんで授業だけじゃなく宿題なんて出すんだろう。授業だけで私は精一杯なのに。

スラスラ解いていく頭のいい人が羨ましい。私もあんな風に解けるようになりたい。


学業が学生の本分とか聞くけどさ。

私はなんで学校に行ってるのかって聞かれたら迷わず「部活と友達のため!」って答える。


友達と話すのは楽しいし、部活も厳しいけど楽しい。

私が所属している部活は陸上部で、毎日走ってばっかなんてどこが楽しいんだなんていわれたこともあるけど、楽しいんだから仕方ない。

それを言ったらただボールを蹴るだけのサッカーのどこが楽しいんだとかそういう話になるし。

人の価値観はそれぞれってこと。


それに、私はこの陸上部……というより、走ることにはちょっとした自信もある。


なにせ高校はスポーツ推薦を狙っているのだから。勉強? 私には無理無理。

どう頑張っても並以下。

こればっかりは本当に努力してもどうしようもなくて、お母さんにも「あんたは頑張ってるだけにかわいそうだわ」なんていわれちゃったこともある。


それで喧嘩したこともあったけど、今となってはお母さんの理解があるからこそ、こうやって得意な走りに打ち込める。


努力すればなんでもなる、みたいな風潮がドラマでもマンガでもあるけど。

そうやって努力して出来るようになる人は元からの素質がある人なんだ。そう思う。

勿論努力が無駄だなんてことは思ってない、私だって努力してなきゃ勉強はもっと出来なくて今頃もっと馬鹿だった。

馬鹿が馬鹿なりに勉強してやっとこのレベルってこと。


出来の悪い頭を恨まなかったことがなかったわけじゃないし、頭がいいとか言われてる人を見るたびに羨ましいとは思う。

けど私には走りがある、これがある内は自分に自信を持っていられる。


だからその自信をさらに強固にする部活は本当に楽しくて、辞めたいと思ったことはなかった。

くたくたになったあとに入るお風呂も嫌いじゃない。

今日の入浴剤は何を使おうかなあ、晩御飯は何かなあ、なんて普段と変わらないことを考え歩いている私の足元に、「それ」は現れたんだ。





(みつけた)



「え、な、なに!?」


それはマンホールの上に足をついた時だった。

まるで待ち構えていたとばかりに、足元にあるマンホールが光りだす。そんなまさか!!

慌てて足を引こうとするけど、まるで接着剤でくっついちゃったみたいに足は動かない。


なんで!いつもなら思うように動く足なのに!


このままマンホールから水が吹き上げてきたらどうしよう、足がヘンになってしまったらどうしよう!!


光るマンホールなんて聞いたことがない、これは何かが起こる前触れじゃないの!?

それこそ、マンホールの中にある水が激流してきちゃうとか!

なら早く逃げなきゃいけないのに!



(みつけた、……どっちが?)

(どっちでもいいわ、どっちともつれてくればかたほうはあたり)

(そう、そうね)



靴を脱げば逃げられるんじゃないか、そう思って靴を脱ごうとしても、それは私の足とマンホールにぴったりとひっついてまるで石みたいに動かない。

何かの悪戯!? なにこれ本当になになにこんなの…!!


「いや、やだあ!」


耳奥で何か低い音が聞こえてくる。

それは水の音にも似ていて…このままじゃマズイって分かってるのに。なのにどうして動かないの私の足!

今から走ればきっと間に合う、マンホールから遠ざかることが出来るのに!



(それじゃあ、りょうほうつれていく)



音がだんだんと近くなる、このままでは本当にヤバイ。

分かっているはずなのに!


じわりと視界が歪む、泣いたって何の解決にもならないって知ってるのにそれでもなかった。

ざぷん、と水の音が背後で聞こえて、更にマンホールの光が激しくなる。


「誰か、助け…!」


眩しすぎるその光に眩暈を感じた瞬間、私の視界は真っ白になった。











鳥の鳴き声が聞こえる。何かが私の頬をくすぐる。光が凄く眩しい。

なんだろう……そう思って目を開ければ、見えたのは眩しいくらいの青空と凄く伸びている草みたいなものだった。

さっきから私のほっぺをくすぐっていたのはこれだったのか、と手で払う。


ていうか、なんでこんな所に私はいるんだろう。

息を吸えば、葉っぱ独特のにおいが肺の中に流れていくように感じる。


どこかの田舎みたいだ。空気が美味しい、都会のそれと全然違うのが私でも分かっちゃうほどだ。

車の音なんてしない、ただ風に草が揺れる音と鳥の鳴き声が聞こえるだけ。

こんな場所、近所にあったかな?


そもそも、私はどうやってここまで来たというんだろう。

さっきまで夜だったはずなのにすっかり日は高いし。

私、たしか学校から家に帰ろうとして、それから……


「マンホール!!!」


そうだ、マンホール!

慌てて上半身を起こして自分の足を見る。どこにも異常はない、……と思う。


ちなみに足の下にマンホールはない、あったのはどこにでもあるような土だ。

制服が汚れた……というのが頭の片隅を過ぎったけど今はそれどころじゃない、今は足の方が大切だ。


あの時まるで動かなかった足を抓ってみる、痛い。叩いてみる、痛い。


それなら、と恐る恐る立てば、何の問題もないように私の足はしっかりと私の考え通りに動く。

歩けるか、と足を動かしても問題はない。


走ってみる、思い通りに動く。動く、動く!


「……よかったぁ……!」


足が動かなくなったのかと思った。

安心して、制服が汚れるのも変わらず地面に座り込んで込み上げてくる涙を手の甲で拭いていれば、不意にあれだけ眩しかった視界に影が落ちる。


なんだろう、と思って顔を上げれば、そこには背が高い男の人の姿があった。


「────ハズレか」

「……え? あの」

「お前にとっては救いだっただろうがな」


なんだろうこの人。頭が可笑しな人なんだろうか。


黒目黒髪、ただし西洋人みたいなイケメン顔をした人は私の顔を見てそう呟いた。

明らかに不審者だ、イケメンなんだから女に不自由なんてしてないんだろうけどそれでも不審者は怖い。


「……ど、ちら様ですか」

「お前をここまで連れてきた、といえば分かるか」

「……マンホールから、助けてくれた人?」

「マンホール? お前のところではアレをそう呼ぶのか? まあお前の考えは間違いではないだろう。我があの強制しょうか」

「ありがとうございます!!」


この人が私を助けてくれたんだ! 不審者なんて思って申し訳なかった!


なんか言葉を遮っちゃったみたいだけど、それよりまずお礼を言いたくて私はイケメンさんの手を握り締めて(イケメンさんの手は私より大きかった、男の人だなあかっこいいなあ!)頭を下げた。


マンホールからここまでつれてきてくれたんだろう、なんか知らない場所だけど。……誘拐? そんなまさか。

誘拐だったらもっとこう手足とか縛ってあると思うし、やっぱり助けてくれたんだよ!

道の真ん中、マンホールの上で助けを求めていた私を助けてくれたいい人だ!


「私もう凄く混乱しててもうなんていうか、本当にありがとうございました!」

「は? お前、何か勘違い」

「あの、今日は家に帰らなくちゃいけないんで後日絶対にお礼をしますから、出来たら貴方の住んでいる家……えーと、住所を教えていただけませんか!? そんな高価なものはお礼できないわけですけれど!」

「礼? いや、礼をされるようなことは」

「いえいえ、なんか凄い怖くて怖くて仕方がなかったんです、だから助けてくれて本当にありがとうございました! あ、手、気安く握ってしまってごめんなさい!ちょっと興奮しちゃって」


慌てて手を離して、もう一度頭を下げる。


謙虚だなあこのイケメンさん!いい人だ!

ここが何処なのか分からないから場所を教えてもらって帰ろう!きっとお母さんもお父さんも心配してるし!

それに朝だし、親に連絡してないから早く帰らないと…!


「ここ、どこですか!?」

「魔族の国」

「……? まぞ、……ん? ごめんなさいもう一度言ってもらっていいですか?」

「魔族の国」

「……冗談、お好きなんですね」


やっぱりこの人危ない人なんじゃないの?

たらりと背中に汗が流れる、だって魔族の国っていう答えはちょっと普通じゃない。

ああ、いや、でも、私の足の恩人を相手にそんなことを考えてしまうのは……。


なら冗談? 冗談だよね?

泣いてた私をリラックスさせようとしてくれているだけ、だよね?


そう思いたい私を、しかし真面目な顔をしたイケメンさんは木っ端微塵にしてくれた。


「何故冗談を我が言う」

「…………」

「ここは魔族の国だ」

「た、助けてくれてありがとうございました! では、私はこれで!」

「いや待て、まだ話が」


この人は危ない人だ。


私はそのまま男の人から距離をとろうと後ずさりし、回れ右をして一気に走り出す。

部活一筋の私の足なら、男女の差もなんとか乗り切ってくれると信じて、体力温存も考えずに一気に加速!



しようとして、足を止めてしまった。


「……え?」


走るのに邪魔な草むらは、走り出してすぐに抜けられた。

けれど、その抜けた先にあったのは……



「…………は?」


空を飛ぶ私以上にでっかい怪物こうもり。

なんかうにょうにょとしていて、地面を移動している赤色の液体。

なんか牙みたいのが生えている、こうもり並にでっかくて紫だか黒だかが混じった毒々しい花。


作り物? いや、それにしてはリアルすぎる。

気持ちが悪い。コウモリも、液体も、花も!


見るに耐えなくて、口を覆って顔を反らす。けれど、反らしたところにも毒々しい花があって、


「なに、これ…」


ぐちゃり、と音をたてて、大きな花が、緑色の大きなハチを食べていた。

牙がハチのおなか辺りにあって、それが動くたびに、


「…………う、そ」


これは夢だ。まだ私は悪い夢を見ているんだ。

眩暈がして、意識が遠のいていくのを感じながら、私はそう願わずにはいられなかった。

リハビリ作品となります。何も考えずに、サラっと読める作品を目指して。

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