終章、全てが終わって……
気がつくと私はベッドの上にいた。
あれ、私たしか……殺人事件の犯人を捜して、そしたら、追いかけられて鉢合わせした男の人には命を狙われて、おっぱいおしつけられて……。
支離滅裂すぎる。これってもしかして夢だったんじゃないかしら。
とりあえず、顔でも洗ったら、頭もはれるわ。
と体を起こそうとしたら、あ、あいたぁ!?
どうやら右腕の手首を痛めていたみたいで、激痛が走った。しかも結構いきおいよくベッドを叩いたからもう、うごけない。
涙目になりながら手元をみてみると、手のひらから手首、それから腕にかけて包帯が巻かれていた。
いつ怪我をしたのだろう。と思い返してみると、そうだあの真犯人に襲われているときだ。
ということは……
「夢じゃなかったんだ……。」
まだにわかには信じられないけど。
私は右腕を労わりながら服を着替え、(服は寝巻きに着替えさせられていた。あの女性が着替えさせてくれたんだと思いたい)
おそるおそる下を覗くと、ばっちっと父と目があった。
「お、おはよう。」
とりあえず何事もなく挨拶したけど、父は無表情なままで視線を私から椅子に向ける。
座れと催促されたみたいだ。どうしようかと悩んだけれど私は椅子に座った。
「他に言うことがあるんじゃないのか。」
それは静かに、しかし、嫌を言わせない強い言葉だった。
「……ごめ、ん、なさい……。」
謝ろうとしたら、言葉が切れ切れになっていた。あれ、なんでうまくしゃべれないとおもったら今度はしゃっくりが
そして今度は涙がもう止まらなくなっていた。
もう、みっともないくらい泣いていた、と思う。
気がついたときには父が私を慰めていた。そっと頭をなでてくれただけだったけど。
「もう、いいんだ。」
なんとか落ち着いた私に父はそういってくれた。
「なんで、おこらないの。」
「いや、だってそんな鼻声でわんわんなかれればなぁ。」
これが息子だったら一発殴ってたんだが、と付け足した。
「……普段、いっぱいチョップくらってる……。」
「あ、あれはスキンシップだろ。」
そうやって照れる父、こっちもなんだか笑えてきた。
「元気でたな。」
そういって私の頭をなでようとする。まったく、子ども扱いしないでほしい。
「子供あつかいしないでよ。」
「おう、それじゃ二階の宿舎を片付けてくれ。今すぐに。」
「あたしけが人よ! もうちょっといたわってよ。」
「あー。できる範囲でいいからな。」
なんか腑に落ちないような感じの父である。
それより、今なんていった?
「だからできる範囲で、だな……。」
「その手前!」
「もう上の二人は出て行った。と言ったんだ。」
なんでまた、とは考えなかった。色々とうとい私でも、もこの時点ではあの二人が来たのは今回の事件に関ることだったのは分かっていた。
「あいつは、『半日料金でいいだろ、まけろ』っていうからがっぽり一日分もらっておいたさ。」
がっはっはと笑って父。父からけちろうとはあの男性は大した人である。
「……そういえば、なんで分かったの……その悪い人じゃないって。」
じっさい父は眼力で割悪い人ではないと見破っていたのだろうが、まるで何もかも知っていたようだった。
「あ、あれな、あのでっかいのが着てたローブあるだろ。あれな教会関係の仕事で『そういった類の仕事』をする人間しか
きれないから害意がないって分かったんだわ。」
しっれと父が応えた。
「最初から教えといてよ! っていうかあのときに教えていたらこんなことにならなかったんでしょ!」
「ものをしらないお前が悪い。誰だってしっとるわいあんなこと。」
くっーー!!。それを言われると何も言い返せないのがつらい。
「ほらほら、ちゃっちゃときれいにしてくる。」
しっしとおっぱらうジェスチャーをして調理場にもどっていく父
私は階段を上っていこうとしてたちどまった。
「……ただいま。」
「うー。」
こっちを振り返らずに手だけを振って父は行ってしまった。
私はというと……素直に掃除をしていた。
自分でもまじめだなーとは思うけど。(時にはすっぽかすよ、時にはね)
でも今はちょっと考えたいことがあったからだ。
あの時、あの犯人が持っていたものは何なのか。なんであんなことができたのか。彼らが何者だったのか。
今となっては彼らはいない。聞くことはもうできないだろう。
何も知らない。ふいに父の言葉を思い出す。
「ものを知らないお前が悪い。」
確かに今まではそんなことは考えたこともなかった。
でも今は知りたい、何より、父に負けたままなのが悔しくてしかたがないのだ。
そう考えるたびに
「少し、話をしたかったなぁー。」
もしかしたら色々なことが聞けたのかも、って思うと少し惜しいな。
それに(あっちの男の人はともかく)悪い人ではなかったから、友達になれたかもしれない。
「また会えないかなぁ。」
たぶん会うことはもうないのだなとは思う。けどせめてありがとうは伝えたかったな。