第一章 予兆
町の情報は酒場にあつまってくるという。この町でもそれは変わらない。
多くの人達が、悲しい話、他愛もない噂話などを交換する社交場とかしている。
しかし私の目の前で話をしていた酔客の会話はちょっと剣呑な内容だった。
「聴いたか? 隣町で殺しがあったんだが、それがちょっと無残でなー。なんと上から巨大
な物に押し唾されたようにつぶされてるっていうな、おそろしいもんじゃて」
大げさな手振り身振りを交えながら中年のお得意様はいう。
「おぉ、しっとるぞ。確か、もう10人は殺されとる。という話じゃが、犯人はまだ挙がってないんだろ。
しっとるわい。」
向かいでビールを片手のやせた体のよっぱらいが応える。この二人は二十年来の飲み友達で、今日も一緒に飲んでいるのだ。
「知ってるなら話が早い。実はな、その犯人がこの町にきているんじゃないかっていうんだよ。」
恰幅のいいほうの男性が少し声のトーンを落として、私とやせた男性に話をした。
「ふーん。だったらちょっと見てみたいわね。」
と私が応えると、恰幅のいい男性は、ありゃりゃといった気が抜けた顔になると。
「なんじゃ、そこはもっと怖がってくれないと。」
話がおもしろくならない、といいたいらしい。もともと私を怖がらせるために話をふってきたみたいであり、きゃー怖いという反応を期待したらしいが
こちとら小さいころから酒場の給仕をしていたので、そんな話は慣れっこである。
「そんなことより私としては、溜まったつけを払わないで踏み倒されるのが怖いわ。」
こんなにつけをつくって、というふうに笑顔でいってやる。
逆に恰幅のいい男性はぎょっとして(いい気味)、やせっぽっちの男性は一本とられたな。といって笑った。
「わしはそんなことはせんよー。」
とほうほうの体ながらも笑顔でビールのおかわりを催促してくる。
「おう、なら今度払ってくれや。」
とカウンターからうちの父が顔を出していじわるなことをいってきた。
「もうちょっとまってくれ。」
今度は私と痩躯のお客で笑った。
ちょっとかわいそうだな。(自分のことは棚に上げている)とおもいつつ父に催促されて、
次のテーブルに注文を聞きに言った。
給仕をしながら私はそれにしてもちょっと物騒になったんだなと思いながらもなんとなく大丈夫だと思っていた。
あらけずりの文章ですがよろしくお願いします。