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理科の先生

作者: 月森優月

 こんなはずじゃなかった。

 離してよ。お願いだからその手を離してよ。汚れた手には触りたくないの。

「君、やっぱり可愛いね」

 何言ってんのこいつ。うっすらと笑みを浮かべて、ああ気持ち悪い。

「私と一緒に行こうよ」

「嫌っ!」

 私の手を掴んでいるそいつの手の甲を、胸ポケットに差していたボールペンで刺した。血が出る。しかしこいつは手を離そうとしない。

「知らなかったよ、こんなに元気がいいなんて」

「離してっ」

 そいつは私の言葉を無視して引っ張ってゆく。連れられてきたのは廃ビル。人っ子一人いない。私は恐怖を感じた。

「こんなことしてただじゃおかないから。学校に言ってやる!」

「威勢がいいねえ。でも、声震えてるよ?」

 声だけじゃない、足も震えていた。

「大丈夫だよ、君のお望み通りさつきちゃんのところへ連れて行ってあげるから」

 この廃ビルにさつきはいるというのか。拘束? 監禁? 何にせよ、事態は最悪だ。無理やり奥へ連れて行かれると、足かせをはめられているさつきがいた。

笑璃(えみり)ちゃん!」

 さつきは声を上げた。

「さつき……」

 良かった、生きていた。でも、どうやってさつきを連れてここから逃げればいい?

「さつきちゃん、笑璃ちゃんが来たから君はもうお・し・ま・い」

 するとさつきは声を荒げて、

「そんな、嫌です! 先生、私、先生のこと……」

「さつき! 目を覚ましなよ。こいつは他にも生徒を監禁しているんだよ!」

 私は大声で言った。

「笑璃ちゃん、何で知ってるの?」

 そいつはにやにや笑いながら訊いてきた。こいつの言葉で疑惑が確信に変わる。

「菜々子もてめえに告白すると言ったその日に消えた。犯人は、やっぱりてめえなんだ」

「ご名答。私は君に呼ばれて、てっきりさつきちゃんや菜々子ちゃんと同じく告白してくるもんだと思っていたけどね」

「誰がてめえなんかに」

 こいつに声をかけたのは、菜々子とさつきを連れてきてほしかったからだ。なのに、逆に私は連れて行かれてしまった。

「菜々子はどこ」

「そこの、ビニール袋の中だよ」

 そいつが指差した先には黒いビニール袋があった。全身に鳥肌が立つ。

「てめえ……まさか、菜々子を……」

「解剖したまでさ。私は理科の先生なんだから何ら問題ないだろう?」

「ふざけんなっ……!」

 私は握られていない方の手でそいつを殴った。しかしそいつはちょっとよろめいただけだった。力の差。

「止めて笑璃ちゃん、先生を殴らないで」

 さつき、いい加減目を覚ましてよ。こいつはさつきのことも殺そうとしてるに違いないんだよ……。割れた窓から入ってくる冷たい空気が吐く息を白くした。

「んじゃ、新しい材料も手に入ったことだしさつきちゃんの解剖を始めるか」

 そいつは私の手を離し、ポケットから折りたたみナイフを取り出すとさつきちゃんに走って近付いていった。

「嫌、先生、止めて!」

 さつきが泣き叫ぶ。

「さつき!」

 私はそいつの後を追った。しかしナイフはさつきに突き刺さろうとしていた。

「嫌あああ!」

 さつきが叫ぶ。




「「……なーんてね」」




 そいつとさつきが声を合わせてそう言った。そいつはナイフをさつきに手渡し、突如、かっと私の胸が熱くなる。

 さつきの持つナイフが、私の胸に突き刺さっていた。

「……え?」

 身体の力が抜けてゆく。私はその場に崩れ落ちた。

「作戦、大成功」

 さつきは笑っていた。

「先生、協力ありがとうございました。おかげで菜々子と笑璃ちゃんを殺せました」

「さつきちゃんとは利害関係にあったからね。君は二人を殺したくて、私は解剖をしたい」

 そしてそいつは私の身体からナイフを抜き、お腹を裂き始めた。腸を取り出すと、そいつは愛おしそうに腸にキスをした。そこで私の意識は途切れた。


最後まで読んで下さりありがとうございます!本当は甘い恋愛ものを書こうと思ったのですが、何故かホラーになってしまいました……。グロい描写を抑えながらも怖い作品が書けないかとチャレンジしてみました。では、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] コワス。 こんなことあったら………ってそうそうないか。ww 面白かったです。 執筆頑張って下さい!
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