深紅のピアス
贈り物は、静かに形を変え、命を食む果実へと熟れていく。
和美は、良樹との結婚を目前に控えていた。
式の準備に追われる日々の中、ふと顔を上げた彼女の前に、美和子が立っていた。
静かな笑みを浮かべ、小さな箱を差し出す。
「これ、あげます。幸せになってね」
箱の中には、2センチほどの、亀の甲羅を思わせる茶色い装飾品が静かに収まっていた。
耳につけると、ルビーのように赤く輝くのだという。和美は礼を述べ、その日のうちに右の耳たぶに針を通した。最初はただの硬い塊だった。
しかし夜が更けるにつれ、それはゆっくりと形を変え始めた。
干からびた甲羅のような表面が湿り気を帯び、やがてブドウの粒のように丸く、柔らかく膨らんでいく。
赤く充血したそれは、和美の鼓動に合わせて微かに脈打ち、まるで彼女の体温を、生命を、静かに吸い取っているかのようだった。
数日後、和美は突然の高熱に倒れた。
原因不明の熱病。医師も首を傾げるばかりで、彼女の体は急速に衰えていった。
意識が遠のく直前、和美は耳元に残る異様な重みを感じた。膨らんだ装飾品は、今や熟しきった果実のように赤く光り、静かに、執拗に、何かを奪い続けていた。
和美は死んだ。だが、何故か、その顔は満足げに微笑んでいた。
葬儀の後、良樹は美和子の腕の中にいた。
美和子が和美に贈った「ピアス」は、アフリカの呪術師が用いる特別なものだった。
亀の甲羅のように干からびたそれは、アルガス・ブルンプティと呼ばれるダニである。
吸血すれば身を膨らませ、ルビーのように赤く輝く。最長二十七年生き、絶食状態でも八年は生き延びるという、異様な生命力を持つ存在。
その体内に潜むものが、吸血の瞬間に宿主の体内へ入り込み、静かに、確実に、命を奪っていく。
美和子は、ただ静かに良樹の肩に頭を預けた。奪われたものを、取り戻しただけだった。
だが、美和子は首を傾げた。
ピアスは二つあったはず。和美が付けていたのは片方だけだった。
もう一つはどこへ消えたのか。
その疑問も、甘い生活のなかに埋もれ、忘れかけた頃のことだった。
ある夜、寝室の薄暗がりのなかで、美和子は隣に眠る良樹の耳元に、見慣れた「それ」を見つけた。
良樹の耳たぶに、深く、深く、針が突き刺さっている。
冷たい戦慄が美和子の背筋を駆け上がった。
和美は死の淵で、あのピアスの悍ましい正体に気づいていたのだ。そして、それを贈った美和子の底暗い殺意をも、すべて理解していた。
和美は微笑んでいた。自分が死んだ後、良樹を美和子に決して渡さぬよう、もう一つのピアスを彼の耳へと遺したのだ。
良樹の耳元で、茶色く干からびていた塊が、今、じわりと湿り気を帯び始める。
ドクン、と。
良樹の鼓動に合わせ、それはルビーのように妖しく、赤く膨らみ始めていた――
読んで頂き有り難う御座います。




