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掲載日:2026/02/02

短編です

 今日は風が強い。

 満月に照らされて、夜なのに眩しいくらいだ。

 聞こえるのは風の音と、車が時々行き来する音だけ。深夜の町は静かだ。

 ベランダにキャンプ用の簡易折り畳み椅子を出してきて、ホットコーヒーをすすりつつ、星空を見る。満月のある日は、星はあまりよく見えないけど、満月も私にとっては星空観賞会の大事なキャストの一人だ。

 風が強いのは地上付近だけのようで、空の雲はゆっくりと移動していく。風が強い分、寒いけど、上着を着こんでいるから大丈夫。

 マグカップのホットコーヒーを飲み干して、ポットから追加する。この保温ポットは私が大学生時代から使っている、長年の相棒だ。ずっと一緒にいるけど、彼の保温力は衰えない。ありがたい存在。

 まだアツアツのままのコーヒーをすすりつつ、星を見る。

 星座はわからない。オリオン座と北斗七星程度ならわかるのだけど、他の星座はからっきし。でも見つめているだけでなんだか心がホッとするような気がする。

 ズズッ・・・・っはぁ・・・

 私の鼻をすする音と、真っ白な息を吐きだす音。今、聞こえるのはほとんどそれだけだ。

 まるで世界から音が消えてしまったかの様。

 ウゥゥゥゥゥー・・・ピーポーピーポー・・・救急車が通ります・・・

 うん、まぁ、まったく消えるわけがないんだけどね。遅くまでご苦労様です。

 はぁ、と息を吐けば、ホットコーヒーを飲んだことで温められた吐息と、外気温の差で真っ白な湯気が浮かぶ。すぐに風に吹かれて消えてしまうけど、そんな儚さも星空観賞会の醍醐味だ。

 少し体が震える。さすがに上着を着こんでいるとはいえ、寒い。もう少しだけ星を見たら今日はもう寝ようかな。

 明日は、上司に怒られないと良いなぁ。

 ジワリと目じりが熱くなる。あぁ、いかん、星が歪む。

 夜はどうも駄目だ、おセンチな気持ちになってしまう。今日の出来事だって、自分にも非があるし、上司だって、怒りたくて怒っているわけじゃない。そう思うことにする。

 本人に言えないのだから、私は黙っているしかない。ソレにどうせ私の気持ちを伝えたところで、上司に何か変化があるとは思えない。

 あぁ、また同じことを考えている。夕飯を食べながら同じことを考えたなぁ。まったく、思考がずっと堂々巡りだ。

 コーヒーをすすって、気持ちを切り替える。そろそろ部屋に戻ろうかな。

「あれ、まだ起きてたんだ」

 旦那が声をかけてきた。

「うん、今日は星が綺麗」

「ほんとだぁ。・・・あぁ~でも駄目だ、寒いや」

 寒がりの夫は、ベランダに出てこようとはしない。

「ね、今日は風が強いわ」

「風邪ひかない様にしないとねぇ」

 暖房の効いた部屋で星空を楽しむ旦那と、寒い外で星空を楽しむ私。

 風の音と、私の鼻をすする音、旦那の優しい声。

 世界にはいま、これしかない。

 優しい音だけの世界。

「・・・ふぅう、寒いっ」

 私もそろそろ、その音の中に混ぜてもらおう。

 椅子をたたんで、コーヒーを旦那に手渡した。

「ねぇ、今から映画観ない?」

「えぇ、寝不足になっちゃうよぉ?」

「いいじゃん、ちょっとだけ!」

「いつもちょっとで終わらないじゃないかぁ」

 文句を言いつつも、旦那は私の趣味に付き合って、ドンパチ物を見てくれる。

 私の世界に過激な音と旦那の悲鳴が響き渡る。

 静かな世界も好きだけど、過激な世界もなかなか楽しいものだ。さぁ、明日はどんな音があふれるだろう。


——音——

音ですねぇ~

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