第5章 否定耐性の完全覚醒
【レベル情報】
マルス:72
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遺跡は、
地の底に口を開けていた。
苔に覆われた石段が、
闇へと続く。
古代遺跡調査。
中級から上級へ移行する、
境界依頼。
マルスは、
一人で立っていた。
昇格試験を終え、
等級は既に銀級。
だが。
パーティーには、
属さない。
属する理由が、
なかった。
松明に火を点け、
降りていく。
足音が、
虚空に響く。
壁には、
意味不明の紋様。
魔力が、
微かに流れている。
嫌な予感が、
する。
奥へ進むほど、
空気が重い。
床に、
黒い染み。
血ではない。
何かが、
削り取られた痕。
「……存在、
消失?」
言葉に出して、
自分で寒気がした。
次の瞬間。
空間が、
歪んだ。
人型の影が、
浮かび上がる。
白い仮面。
黒い法衣。
《虚無祭司》。
概念干渉型魔獣。
記録上、
遭遇=死亡。
マルスは、
矢を番える。
引き金を引く。
放つ。
矢は、
途中で消えた。
「……っ」
消えた。
当たって、
消えたのではない。
存在しなかったかのように。
虚無祭司が、
手を掲げる。
黒い輪が、
広がる。
マルスは、
直感で後退。
遅かった。
視界が、
白くなる。
体が、
軽くなる。
――消える。
そう思った。
だが。
何も、
起きない。
マルスは、
立っている。
床も、
壁も、
自分も。
「……?」
胸の奥が、
灼けるように熱い。
見えない何かが、
体表を覆う。
虚無祭司が、
首を傾げる。
再度、
輪を放つ。
マルスは、
歩く。
黒い輪の中を。
何も、
感じない。
攻撃が、
触れていない。
否。
触れているが、
成立していない。
頭の中に、
文字が浮かぶ。
――――――
スキル変化完了
「耐性上昇」→「否定耐性」
――――――
理解が、
追いつかない。
だが。
今は、
戦う。
マルスは、
弓を引く。
矢に、
魔力を込める。
虚無祭司の仮面。
放つ。
矢は、
消えない。
仮面を、
砕いた。
悲鳴。
空間が、
歪む。
虚無祭司が、
崩れる。
床に落ちる前に、
黒い砂となって消えた。
遺跡に、
静寂。
マルスは、
その場に座り込む。
息が、
荒い。
カードが、
淡く光る。
――――――
名前:マルス
レベル:72
スキル:否定耐性
――――――
「……否定?」
攻撃を、
拒絶する。
存在を消す。
概念を壊す。
そういうものを、
受け付けない。
意味が、
わからない。
だが。
生きている。
それだけで、
十分だ。
遺跡を出る。
地上の光が、
眩しい。
マルスは、
空を見上げる。
自分は、
何処へ向かうのか。
まだ、
答えはない。
だが。
戻れない場所が、
あることだけは、
わかっていた。




