第1章 追放と最底辺の始まり
【レベル情報】
マルス:16
リード:380
ティファー:210
ルート:195
ニール:202
その言葉は、
まるで刃のように静かに突き刺さった。
「マルス。
お前は、ここまでだ」
焚き火の爆ぜる音が、
妙に大きく聞こえた。
夜の森の奥で、
白夜の羅針盤は円を作って座っている。
いつもの陣形。
いつもの休憩。
いつもと同じ光景のはずだった。
違っていたのは、
皆の視線だけだった。
誰も、
俺の目を見ない。
「……どういう意味だよ」
声が震えた。
震えていると悟られないよう、
必死で喉に力を込める。
リードは腕を組み、
焚き火越しにこちらを見る。
「そのままの意味だ。
パーティーから抜けてもらう」
胸の奥で、
何かが音を立てて崩れた。
「理由を……聞いてもいいか」
沈黙が落ちる。
最初に口を開いたのは、
剣士のルートだった。
「正直に言う。
お前は足手まといだ」
遠慮も、
躊躇もない。
「火力がない。
決定打もない。
スキルは耐性上昇?
防御寄りすぎだろ」
ニールが小さく頷く。
「後衛なのに、
決定力が低いのは致命的」
ティファーは、
俯いたままだ。
その沈黙が、
何よりも重かった。
「俺は……
ちゃんと支援してきたはずだ」
必死に言葉を探す。
「索敵も、
牽制も、
引き付けも――」
「全部、代わりがいる」
リードが言い切った。
「それに比べて、
お前は伸びが遅すぎる」
伸びが遅い。
その言葉が、
胸に深く突き刺さる。
「俺たちは勇者パーティーだ。
もっと上を目指す」
リードの声は、
迷いがなかった。
「悪いが、
お前を連れていく余裕はない」
世界が、
急に遠くなる。
焚き火の音も、
風の音も、
仲間の息遣いも。
すべてが、
膜一枚隔てた向こう側になる。
言い返そうとした。
怒鳴ろうとした。
泣き叫びたかった。
でも――
口が、
開かなかった。
否定されたのは、
役割じゃない。
存在そのものだ。
「……わかった」
それだけが、
やっとの言葉だった。
リードは小さく頷く。
「装備のうち、
個人所有分は持っていけ」
まるで、
事務的な処理だった。
マルスは立ち上がり、
弓と矢筒だけを背負う。
誰も、
止めなかった。
誰も、
声をかけなかった。
ティファーだけが、
一瞬こちらを見た。
だが、
何も言わない。
その視線が、
何よりも痛かった。
マルスは背を向け、
闇の中へ歩き出す。
一歩。
二歩。
三歩。
振り返らなかった。
振り返った瞬間、
すべてが壊れる気がしたから。
――――――――――
夜明け。
小さな街、
エルドリック。
石造りの門が、
朝日に照らされている。
マルスは、
ふらつく足で門をくぐった。
眠っていない。
歩き続けた。
止まったら、
心が折れる気がしたから。
街の中心に、
冒険者ギルドはあった。
木製の扉の前で、
足が止まる。
ここに来れば、
すべてが決まる。
パーティーを失った冒険者が、
どういう扱いを受けるのか。
わかっていた。
それでも、
進むしかない。
扉を押す。
ぎい、と低い音。
酒と汗と鉄の匂い。
朝から人は多い。
依頼を探す者。
報告をする者。
雑談する者。
誰も、
マルスに興味を持たない。
それが、
逆にありがたかった。
受付カウンターへ向かう。
そこには、
若い女性が立っていた。
淡い栗色の髪。
少し緊張したような表情。
「い、いらっしゃいませ。
冒険者ギルドへようこそ」
声が少し上ずっている。
「再登録を……
お願いします」
「再登録、ですね」
女性は一瞬だけ、
マルスの顔を見る。
責めるでもなく、
哀れむでもなく。
ただ、
仕事として。
「カードをお預かりします」
差し出す手が、
わずかに震える。
カードが光る。
表示。
――――――
名前:マルス
レベル:16
等級:パーティー所属
――――――
女性は小さく息を吸う。
「……ソロ登録になります。
等級は、灰等級からです」
「はい」
覚悟していた。
「それと……」
女性は、
少しだけ声を落とす。
「ソロは、
危険です」
「わかっています」
それでも、
行くしかない。
女性は、
小さく微笑んだ。
「私はポリーです。
困ったことがあれば、
声をかけてください」
その一言が、
胸に染みた。
登録完了の刻印が押される。
新しいカード。
――――――
名前:マルス
レベル:16
等級:灰等級
――――――
最底辺。
それでも。
ここからだ。
マルスはカードを握りしめる。
強くなる。
誰にも、
否定されない存在になる。
静かに、
そう誓った。




