1. レトロ部隊
螺旋紀5xxx81年。
崩壊した荒廃の地が続く上では、人とは違う亜種と呼ばれる‘‘ デリート・ノイズ ‘‘が徘徊する時代。
人々はいつしか、住むことを追われて無残にも血肉のみが散乱した。
希望など無い絶望の時代。
生まれ落ちた命には、逃亡か死の二択のみが強制される。そんな時代で、今までの日々を、平穏だった平和な時代を取り戻すべくして立ち上がった者達が居た。
その者達の名を『望観者』と呼ばれた――――――。
▬▬――――▪▪▪▪▪▪ッ!
砂嵐混じりの雑音が、インカムを通して聞こえてくる。
直後、また別のノイズが走り出す。その中で、声がとぎれとぎれに聞こえてくるのだった。
▪▪▪ッ――――して▪▪▮―くッ――――▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪ぃ――――――ッ!
インカムを通して聞こえる音よりも、今目の前で起きている戦場の音が大きくて冷静に聞くことが難しい状況下で、腰に巻いたベルトから伸びるコネクターの線を引っ張り、背中に背負う機会のピンを外す。
すると、長方形の機械の真下からは、青白い線で発光しながら柄を握りしめて、落下する中等の剣を前に構えて取り出した。
瓦礫の影に姿勢を低くして隠れながら、周囲を確認する。
そこで、ようやくインカムからの音が雑音混じりではあるものの、聞き取れるようになっていた。
しかし、足早にこちらの気配に気づいたのか瓦礫の背後から、急接近で地面を鋭い爪で刺しながら詰め寄って来る音が聞こえてくる。
直後、陰った。
上を見上げると、瓦礫を跳ね上げて四足の黒色の灰色の金属でできた爪が、突き刺そうと振りかぶる‘‘ デリート・ノイズ ‘‘の姿。
▪▪▪▪▪てますッ!―――▬▬▬▪▪亜種の接近確認、すぐ後ろです!!
遅れて注意の無線。
しかし、すでに目の前には対象である亜種が殺しにかかる。
握った剣を、避けるように下から上へと刃を大振りに振るう。
すると、すれ違った亜種の足を斜めに切断すると、後に続いた低い正四面体を中心に頭部から尾部に掛けて刃で斬り貫く。
亜種が地面に着地すると、反動で体が崩れて切れ目から漏れた光が大きくなり爆ぜた。
「ぁ――――ッぶな!」
思わず零れた言葉に、インカムから応答入る。
すみませんテイラー!無線状況が、電波の影響で――――
「良いわ、倒せたんだから。今回のは一つの課題として考えとく程度にして―――――。それよりも、他に接近してる亜種いる?」
えっと、今確認します!
瓦礫の横に立つと、煙が上空に登っている様子が見える。
他にも、銃弾戦であろうか。激しく音を鳴らしながら、爆発させている様子もある。
それら全ては、見る限り同じ部隊の仲間達だった。
テイラー。
「聞こえてる」
亜種の接近情報ですが、周辺探索機器によっても反応なしです。さっきのが最後の一体だったのかもしれませんね!
「了解。他の仲間達は?」
今、南西で銃撃戦を起こしたらしいですけど観測なしです。それに、奥の南では爆発が数度繰り返し起きた様ですが、欠員ゼロです!
欠員ゼロ。
その言葉を聞いて内心安堵した。
「オッケー。では、『レトロ部隊』は直ちに退避を」
了解です!今から無線にて退く様に伝令しますね!
「うん。頼んだわ」
そのインカムから通した無線を最後に、その場を離れると丘を下った先に置かれた汚れだらけで、装甲を外側に備え付けられた車へと乗る。
そこでは先に運転席に先客が座っていた。
「やっほ。おかえりぃー」
彼女は『レトロ部隊』の一人『リリー』。陽気な表情で、引き締まった身体をラインで浮き出るような、へそ出しワイシャツの上には胸を強調させるようなベルトが掛けられて猫のチャームが付いた上着。太い太腿を抑えるようなショートパンツに黒いタイツが席の下から見え隠れする。
「通信から随分早いお帰りだったわね」
「逃げながら倒して来たから大丈夫なのよー」
「……………………連れて来て、ないわよ、、、ね?」
不安がりながら周囲を見るもリリーは、すかさず答える。
「だ、大丈夫だって!ちゃんと倒して来たんだから!」
「なら良いんだけど。後は、サンディね」
残りの仲間の名前を口にした時。
リリーは指をさす。
「あぁ!アレ!サンディじゃない?」
「え?」
リリーに言われた先を見ると、確かにサンディの姿だった。
クリーム色の髪を靡かせる小柄な体。後方を振り返りながら銃を向けて亜種を撃ち倒している。
「あれヤバいんじゃないの!?サンディったら、押されてるよ!?」
「すぐに出してッ」
「了解ー!」
ゴーサインで、リリーは車を走らせる。
勢いに乗せて、凸凹な岩だらけの地面を走りながらサンディの元へと向かう。
状況教えてくれませんか!なにやらサンディさんのマーク部分だけ―――
「不利的よ。けど、目の前だから大丈夫ッ」
そう言って取り出したのは、後部座席にある円筒の銃を構える。
「ちょちょちょい!中から撃たないでしょ!?外に顔出してだよねぇ?!ねぇ!!??」
「それじゃ間に合わないわッ」
「じゃぁ停めるから!車壊れるから待ってぇ!!」
「待てない。サンディの危機―――――――ッ!」
「ちょェェェェェェェ!!!!!?????」
叫ぶリリーの横で、正面に向けて構える。
そのまま引き金を引くと、筒は後ろにズレて中で何かを圧縮する音が聞こえてくる。
「超圧縮真空弾なんて威力馬鹿なのにぃぃぃ!!!!」
「―――――発射」
声と共に、後方に下がった筒が前に勢いよく戻る。と、同時に中から摩擦で光った白い圧縮空気が窓を破ってサンディの後方にいる亜種へと被爆する。
「ぅきゃ!!??」
サンディの小さな声に、吹き飛ばされながら割れた窓へと入り込む。
「見事なホールインワンね……………………」
「回収終了。リリー、すぐに出して」
「あいあいさァ!」
リリーは、全力でアクセルペダルを踏み込むと一気に右へとハンドルを限界まで回す。
砂ぼこりを巻き上げながら、砂に滑るタイヤで勢いよく反対方向に車体を向けてリリーは車を走らせる。
車を出してから一時間弱。
荒廃した大地の中に、少数の木々が見える。
補正されていない道を走り続けると、先には大きな川が円状に流れており鉄橋の上を通る。
奥に小さく壁が見えるも、更に奥には天よりも高く聳える塔が建っている。
車内で安堵したように息を吐いたリリー。
「んはぁ~………。ようやく着いたわね~。やっぱり、姿形が変わっても此処に来ると変な安心感あるわよね~」
「まぁ、元々東京の都心部だったわけだしね。生まれ故郷には変わりないわ」
「そうだけどさ~……………………そうなんだけどさぁ~。やっぱり、前の方が好きじゃん?実際私の故郷県外だしって、サンディ大丈夫なわけ?おい、お~い」
運転しながらリリーは後部座席をミラーで確認するとサンディは、車に乗ってから横になったっきり項垂れている。
「敵にやられた?なら、早急に」
「いやいや。ただの車酔いでしょうが」
「あら、そう」
淡々とした会話をしながら車を走らせる。
橋を渡っていると荒廃した世界と打って変わって、一気に生きた大地が現れて乾いた空気も変わる。
レンガの積まれた壁に黒鉄の柵。正門を潜ると、街並みは昔なじみの洋風レンガ造りの家が建ち並んでいた。
今では見慣れてはいるが、此処は東京だ。
イタリアのような街並みの東京に、中央には近未来のような塔。世界観が混合しているような世界だと言いたくなる。けれど、今の日本がこの姿になってしまったのは事実。
リリーの運転で、街の中を走り正門近くの管理棟へ停車させると、降りた。
テイラーは、後部座席からサンディを抱えて下車すると、近くに軍服を着た男性が歩き寄って来る。
背丈は170弱だろうか、細身であり黒髪で前髪が目元を隠すかどうかの長さに、手入れされていない髭をさすりながら、死んだ魚のような目で『トリス』は欠伸をしていた。
「ふぁ~ぁ……………………。おかえり」
言葉を聞くと、リリーは見てすぐに溜息をする。テイラーは腰に手を置いて怪訝な表情。
サンディに関しては、テイラーの肩を借りて項垂れていた。
「なんだよその顔~。上司が来たんだから、景気の良い挨拶くらいくれても――――ふあ~ぁ……………………」
「また夜更かしですか」
「いっつも気だるそうで、こっちも気だるくなるのよ!上司なら上司らしくしなさいっての!」
間髪入れず責められる。
「いいじゃないか。全くよぅ、俺は君たちの監督役なんだから」
「監督役なら、真っ当に生きなさい」
「否定強ッ!?って、まぁ怪我無いのは何よりだな。とりま、依頼報告は済ませとくんだぞ~?後々って考えてると、俺みたいに課題を残すことになるんだから。じゃ~な~」
そう言うと、トリスは振り返り背で手を振りながら歩き去っていく。
その姿を見た後、再度二人は顔を見合わせて溜息をつくのだった。




