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第144話 アリルの交渉

「ねぇ、ジン。この二王の戦争、貴方なら止められる?」

アリルはさっきとは打って変わって真剣な表情でそう言った。


こいつこれが目的で俺を飯に誘ったな?

アリルの質問は冒険者ジンに対してではない。

ラストダンジョンの主人である俺への問いかけだろう。


「どう思う?」

俺はフルフェイスをとって素顔を露わにして、ニヤッと笑いながらそう言った。


「できるわ、貴方ならできるはず。そうでしょう?」


「当たり前だ。バーバルもルーも俺からしたら子虫に等しい。踏み潰して終わりだ。」


「ねぇ、お願いジン。このままでは多くの血が流れるわ。力を貸してくれない?」

アリルは俺に祈るように手を合わせ、俺を真っ直ぐ見つめる。


「なぁ、アリルは樹液に群がる虫を見たことがあるか?」


「えっ?えぇ、あるけど…」

アリルはポカンとした顔をして答える。


「お前はそれを見てなにを思う?」


「なにをって?なにも思わないかな。」

アリルは首を傾げでそう言った。


「そうだよなぁ。なにも思わないだろう?だって自分はその樹液はほしくないんだ。大切なものではないんだ。どの虫が樹液を吸えなくても、どの虫が樹液を吸えるとしても別にどうでもいいだろ?」


アリルの頬に冷や汗が垂れる。

アリルはここでようやくわかった。


ここで言う虫は私たちだと。


「お前はその虫たちが争わないように手を出して虫同士を離したりするのか?しないよな?むしろ逆だろう?…戦って蜜を奪い合っている姿を楽しみたいと思うだろ?」

俺はそう言って笑みを浮かべてワインを一口飲む。


ゴクリ…

アリルは唾を飲み込む。

今になってようやく実感が湧いたのだ。

目の前にいる存在は我々よりも何次元も高位の存在なのだと。文字通り彼にとっては私たちは小虫に等しいのだと。


「まぁ、そう言うことだ。俺を頼るのは諦めな。」


「貴方は、私たちをただの虫だというのですね。でも、不思議ですね。なんで貴方は…ジンは虫に混ざっているのですか?会話をしてくれるのですか?それはジンが周りにいる人を大切だと思ってるからじゃないんですか?」



「ふふ、あはは!面白い虫がいたら捕まえるだろ?綺麗な虫がいたら触るだろ?そう言うことだよ。」


「ふふ、私はそうじゃ無いと思うよ。私に対するジンの対応は虫なんかじゃなかった。ちゃんと人として扱ってくれていた。ううん、女の子として扱ってくれてると思ってるよ。」

アリルは目を逸らさず真っ直ぐに、だが少し不安げに俺を見ながらそう言った。

まるでそうでしょ?と問いかけているかのように。確かめるように。


「例えそうだとしても、俺が二王の戦いを止める理由はない。」


「じゃあ、せめてアドバイスをちょうだい。お願いジン。」


「そうだなぁ。では、一つだけ俺が予想していることを教えようか?」


「なに!?教えて!」

アリルは前のめりになって耳を傾ける。


「お前たちが想像する数倍の血が流れる壮絶な戦いが起きる。血を血で洗い、国々は滅び、難民で溢れ、すべての人々は絶望する。そしてその先には…」

俺はその先の未来を思い浮かべて笑みをこぼす。


「そんな…私たちはその未来を止められないの?」


「今の勇者程度が頑張ったところで今の世界はなにも変わらない。力が足りない。圧倒的に力がな。」


「私たちだって力をつけました。魔王だって倒した。私たちは世界を変える力を持ってるわ。」


「そうだな。だが、違う。お前らじゃ無い。この世界を決定的に変えるのは勇者じゃ無い。必要なのは魔王を倒す力では無い。」


「魔王を倒す力では無い?じゃあ、野放しにしろってこと?」


「あはは!まぁ、お前たちもいずれわかるさ。いや、出会うさ。」


「出会う?」


「さぁ、腹は膨れた。今日は疲れただろ?宿に帰ってゆっくり休め。」


「…街を少し回ろうよ。ジンとゆっくり会える時間なんてないんだしさ。」


「…まぁ、いいぞ。」


少しアリルと街を散策してから俺たちは帰路についた。

さぁ、勇者達は誰と出会うのでしょうか?


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