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第139話 ルーとムー

「我が師よ!バーバルが竜王ダイヤを殺し龍の国を征服しました!」

ルーの執務室に入ってきたメロがルーにそう報告した。


「そうか、ダイヤは逝ったか。」

ルーは感慨深そうにそういって空を仰ぐ。


「あいつらバカですよ。ダイヤが死んだら次は私たちに潰されるってわかっているのにダイヤを殺したんですから。さぁ、お望み通り潰してやりましょう!!我が師よ今こそ夜の国を滅ぼし、世界を征服する号令を!!」

メロは興奮気味でルーに詰め寄る。


「ふぉ、しかし、引っ掛かるのぉ。バーバルはそこまで愚かではない。それがわかっているからダイヤを攻めきれずにいたのじゃ。それなのに急に総攻撃を仕掛け、龍の国を落とした。…まるで、なにか我らと戦える手段や力を手に入れたみたいじゃないかの?」

ルーは目を細めてそう言った。


「どこかと同盟を組めたとかですか?でも、同盟を組んでくれる勢力なんてありませんし、組んだとしても我らと対抗できるとは思えません。」

メロは頭を傾げる。


「ふぉ、そうじゃな。しかし、なんらかの策を弄したのは間違いないじゃろう。」


「では、もう少し泳がせて探りますか?」


「いや、このままバーバルが侵略した龍の国を統治し、体制を整えるのを指を加えて待つのは下策。バーバルの用意した策がなんであろうと正面から破るのみ。一ヶ月後、大軍を夜の国へ差し向ける。」

ルーは立ち上がってそう言った。


「はい!」

メロは笑顔で返事をする。待ってましたと言わんばかりに。


「侵略した龍の国の民を虐げる悪王 バーバルを討つため我らは正義の軍を起す。大義名分も十分、反発する勢力もなし。」


「はい!我らが正義ですね!」


「さぁ、世界征服を始めよう。」

ルーはニヤリと笑ってそう言った。







メロはすぐに準備に取り掛かるためにルーの執務室を出ていった。


メロが出ていったあと、ルーは少し昔を思い出す。






ムー様、もうすぐ世界征服に踏み出します。


ムー様が目指し、ついに達成できなかった世界征服。

あの頃の強力な勢力達は今はなく、今や儂がこの世界で一番巨大な勢力となった。


ムー様がもしもこの時代を生きて居たならばあっという間に世界征服を成していたかもしれません。


ムー様が目指した平和な世界。









「お前がルーとか言う賢者か?」

湖の辺りで穏やかに暮らして居た儂の下に紫の柔らかそうな毛に覆われた牛の顔をもつ魔王ムーが訪ねてきた。


「ゲコッ、そうだ。お前は?」

ルーは眉を顰めてそう答える。


「俺は魔王ムーだ!俺はこれから世界に覇を唱える!賢者ルーよ、俺に仕えろ。俺が世界を統一する!」


「ゲコッ、狂人か?死にたくなければ失せろ。バカに付き合う気はない。」

ルーは杖を構えて魔力を高める。


「ふっはは!では、俺が勝ったらお前は俺のものだ!」


ムーは強かった。儂はあの頃も強かったが、ムーはそれ以上に強かった。

あの時代のまさに大魔王になるだけの相応しい強さを持っていた。

ムーの戦い方は幻術を使い、他者を洗脳し操る力を持って居た。

儂は幻術に翻弄され、当時の魔王ムーに負けた。


「ゲコッ…確かに強さは認めよう。だが、それだけでは世界を相手にはできない!不可能だ、この世界を征服するなんて。一体どれだけ戦い続ければいいと思っている!?」

ルーは膝をつき、肩で息をしながらそういった。


「あぁ、だから俺はお前がほしい。お前の知恵を俺に貸してほしい。どうすればいい?なにをすればいい?俺が世界を統一するには。賢者ルーよ俺を導いてはくれないか?」

ムーはそう言って頭を下げてルーに頼んだ。


「なぜ?なぜ貴様は世界を統一したいんだ?」

ルーは俯きながら答えた。


「全種族が仲良く暮らせる国を作りたい。種族関係なく笑い合い、助け合える世界を。流した血が報われるくらい優しい国を俺は作りたい。」

ムーは真剣な表情で真っ直ぐにルーを見つめてそう言った。


「ゲ、ゲコッ!ゲコゲコ!!なんて夢物語を。全種族が助け合う?笑い合う?それがどれだけ難しいと思っている?だが…面白い。本当にそれを目指しているのであればその泥舟に乗るのもやぶさかでは無い!戦乱の世の習いに従い、負けた私はお前に仕えよう。」 

ルーはそういって笑い、ムーに傘下に入ることを決めた。


「ふっはは!やはりお前に声をかけてよかった!賢者ルーよ、共に世界征服をしてくれ!そして最高の国を作ろう!」


あれから儂はムー様に忠誠を誓った。

ムー様の国を大きくし、他の勢力を蹴散らしていき、ムー様を他の魔王たちを従える大魔王にまでした。


そして、あの事件が起こった。





裏切りだ。






従えたはずの多種族の王たちが徒党を組み、軍を起こし大反乱を起こしたのだ。


その刃はムー様の喉元にまで迫った。


「なぜだ!?なぜ反乱を!?」

ムーはそう言って反乱を起こした多種族の王たちに問う。


「ふん!我らは自分の種族の国を取り戻す!」


「全種族平等の国?ふざけるな我が種族こそがもっと優れているのだ。同列に扱われるなど我慢ならん。」


「力で奪われたのだ、力で奪い返してなにが悪い?」


多種族の王たちが敵意をむけてそう言った。


「ゲコッ、貴様らふざけるな!!侵略したときに貴様らの首を飛ばしてもよかったんだぞ!我らはお前たちを迫害もせず温情を与え、今までの生活も保証していた!その報いがこれか!?この時代にここまでやってくれる王はムー様だけだ!貴様らもムー様の理想に賛成したのではなかったのか!?許さぬ、許さぬぞ!!」

そう、この反逆した王たちのなかには侵略ではなく、ムーの思想に賛成し、自ら降った王たちもいたのだ。


「ふん、どこかの庇護下に入り、国を守っていただけだ。」


「その庇護していたやつが落ち目になったら自分たちを守るために牙をむく。悲しきかな、この時代の定めかね。悪く思わないでおくれよ。ふはは。」





「俺は間違っていたのか?親切にすれば親切で返してくれるはずだ。優しくすれば優しくしてくれる。助ければ助けてくれる。そういう連鎖が種族の壁を越えてくれると信じていたんだ。」

ムーは絶望のあまり膝を折り、項垂れた。



「優しさが決して優しさで帰ってくるとは限らない。抱擁の手で抱きしめても、胸を剣で刺されることもある。そういうもんだろう?」

王の1人がそう言った。


「貴様らぁー!!!ぐぅ!?」

ルーは怒りのあまり杖を構え攻撃しようとする。


「アンチマジックエリア!賢者ルー、お前の対策をしていないわけないじゃないか。お前から魔法を取れば地上では無力だろ?」

魔法が得意の王の1人がルーに魔法を発動させず、王たちの部下にルーは殴り飛ばされ乱暴に捕らえられた。


「ムー様!私のことは気にせずお逃げください!貴方さえ生きてさえいれば、まだ再起の目はあります!!」


「逃がさないに決まっているだろう?」

王たちの連れてきた兵士たちがぞろぞろと現れてムーを囲む。


「あぁ、嘘だろう?嘘だと言ってくれ。俺の理想は、夢はここで終わるのか?上手くいっていたはずだ…みんなが、俺の民たちが待っているのだ、俺の作る理想郷を!まだ終わらない!終われない!!」

ムーはそう言って立ち上がる。


「ふん、往生際が悪い。お前はここで終わりなんだよ。ここにいる王たち、兵達は皆A級、中にはS級を超える猛者たちだ。流石のお前も俺たち全員を相手したら助からない。」


「進化の宝玉。」

ムーは一つの宝玉を取り出すとそう言って掲げた。


ムーの体が黒い霧に包まれた。

そしてムーの魔力が倍々に増えていく。


魔力の風が吹き荒れ、邪悪な気配が立ち込める。


黒い霧が晴れてでできたのは、もうムーではなかった。

フワフワだった紫の毛皮はトゲトゲしい黒い毛皮に変わり、牛の顔の頭にはさらに大きなツノが生えたいた。

眼光からは悪意が満ちて笑っている。


ムーが手を上げた。巨大なハサミが現れて1人の王を挟む。


「グゥアー!!」

挟まれた王は魔法の防壁を貼ったが全く抵抗なく防壁ごと切り裂かれて真っ二つになった。


ムー様はそれからさまざまなものを顕現して王たちを包囲している兵士たちを虐殺していった。


「ムー様!おやめください!正気にお戻りください!!」

ルーは必死に呼びかけたがムーには届いて居なかった。


そして全てを殺し終えたムー様は今度は城を吹き飛ばし空へと舞い上がった。


飛び上がった際に一つの宝石をルーの前に落としていった。





それからはただただ地獄であった。


ムーの力で地が割れ、天が割れた。

イカズチの雨が降り、空気は瘴気で汚染された。


自国をあっという間にムーは滅ぼし、さらに破壊を齎すために移動し始めたその時、虚空に死神が舞い降りた。


「ふむ、お前は終末の顕現の王 ムーと名付けよう。すべての種族のための王になろうとしたが、裏切りによってただ破壊の獣と化し、自国すら滅ぼした哀れな王よ。貴様は我が連れていく。」

死神はそう言ってムーに向かって鎌を一振りした。


ムーはもちろん反撃しようと巨大な剣を顕現したが、その剣ごと死神の鎌に刈り取られて消えてしまった。


そして死神も気づいたらいなくなって居た。


ルーは目の前にあるムー様の落とした宝玉を拾い上げた。







儂は昔の記憶から現在に意識を戻す。


ムー様を守れなかった儂が世界を統一して良いのだろうか?

儂が本当に世界を統一すべき者なのだろうか?


儂にムー様ほどの器はない。全種族を統治するなどまだ無理だと思ってしまっている儂では…


だが、ムー様はもういない。


儂がやるしか無いだろう。







大魔王ムーは今もダンジョンの奥底で絶望に打ちひしがれてひとりで漂っています。これからも…


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