第136話 英雄
クーリッヒは大いに沸いていた。
キュアからの報酬が約束通り支払われたからだ。
最初は依頼人を置いて逃げ帰ってしまったため、冒険者たちは報酬が支払われないと思っていたが、いざ冒険者ギルドに帰るとキュアはすでにクーリッヒに帰還しており依頼は達成されていたのだ。
正直なぞである。キュアに着いていたのは白銀ともともと連れていた護衛だけである。白銀に関しては戻ってきて、あの化け物の足止めに戻ってきてくれた。今、白銀が生きているかすらあやしい。つまり、キュアのもっている戦力は連れてきた護衛のみだ。それだけの戦力であれほど深い階層からクーリッヒに帰還できるのであろうか?
「酒はまだかー?いくらでも持ってこい!!金ならあるぞー!わっはは!」
「キュア様バンザーイ!」
「冒険者最高だ!わっはは!」
そんな疑問はもうどうでもいいかのように冒険者ギルドの中にある酒場では、もらった報酬で酒を飲む冒険者たちで大盛り上がりだ。
中にはフロントラインの冒険者たちもいる。下級の冒険者は参加はしていないが、膨大な報奨金が入り、下級の冒険者にもボーナスが入ったのだろう。
「すごい活気だな。」
俺は冒険者ギルドにきてその活気と熱気を浴びる。
「あっ!白銀!!帰ってきてたのか!!」
冒険者ギルドにいたルーファとリーナ、アリが俺を見て立ち上がってこちらに駆け寄ってくる。
「ジン、大丈夫だった?」
リーナがそう言って心配そうに近づいてくる。
「あぁ、大丈夫だ。」
「おぉ!白銀だ!!英雄が帰ってきたぞ!!」
「英雄だ!!俺たちの英雄だ!!」「俺たちは白銀のお陰で生きているんだ!」「ありがとう!ありがとう!!」
ギルド全体が俺の登場に沸いた。
それはそうだろう。白銀は化け物のような龍に一歩も引かずに立ち塞がり、身を挺して他の冒険者を地上に返した真の英雄なのだから。
「冒険者 ジン。報酬の件で話がある。奥の部屋に来い。」
ギルドの奥から騒ぎを聞きつけた冒険者ギルド長のキバが現れては白銀を見てそう言って奥の部屋に戻っていった。
俺たちは奥の部屋に着いていく。
「白銀、ご苦労だった。話は聞いている。化け物みたいな龍とたった1人で対峙して他の冒険者を命懸けで逃したそうだな。」
キバはギルド長用の椅子に座りながらそう言った。
「あぁ、まぁな。死ぬかと思ったよ。全力で戦ったが、全くあの龍の相手にならなかった。命からがら逃げたよ。」
実際にこの身体では歯が立たなかったしな。
「そうか。白銀が無事帰還できて俺も安心したよ。さて、その功績を讃えギルドは白銀、お前をS級冒険者に無条件で引き上げようと思う。ギルドとしては、お前がこの迷宮都市クーリッヒの筆頭の冒険者としてこれからも活躍して欲しい。どうだ?リーナはもともとA級冒険者だが、後ろのお二人の仲間もA級冒険者に無条件で引き上げ、クローバーをS級チームとして認定しようと思っている。」
キバはそう言うとニヤリと笑う。
「「「えぇ!!?」」」
俺の後ろから三人の驚きの声が上がる。
それはそうだろう。俺の今の冒険者ランクはDランクだ。
俺を一気に最上位のS級に引き上げ、ルーファとアリの2人をA級に引き上げる。
これは本当に破格の条件だ。異例中の異例だろう。
ふむ、これは俺たちにメリットしかない提案だな。
「まぁ…俺たちのランクを上げてくれるなら、ありがたくあげてもらおうかな。でも、いいのか?自分で言うのはなんだが、俺は昇格しても後ろのこの2人はなんもしてないぞ?」
俺はそう言ってルーファとアリを見る。
ルーファとアリが余計なことを言うなとキッと俺を睨みつける。
「まぁ、S級のチームとして認定するにはS級冒険者が1人以上、A級冒険者が3人以上というルールがある。2人の素性は冒険者ギルドも総力をあげて調べさせてもらっている。2人ともA級冒険者に匹敵するという冒険者ギルドの判断だ。俺だけの判断ではなく、冒険者ギルドの判断だ。問題ない。」
ん?ルーファはわかる。こいつはエルフの王族であり、希少な精霊術師であり、その中でも天才と言ってもいい。
だけど、アリもか?アリもA級冒険者に匹敵するというのか?
アリは確か初めて会った時、村で狩人をしていたと言っていたが…
俺はアリを見る。というかルーファもリーナもアリを見た。
アリは地面を見て俯いている。
「ん?なんだ、お前たちもしかしてそいつの素性を知らないのか?…まぁ、俺から言うことでもないか。それはパーティー内で話し合ってくれ。では、お前らはこれからクーリッヒを代表する冒険者だ。S級チーム クローバーの活躍をこれからも期待する!」
キバは立ち上がってニカっと笑うとそう言った。
俺は最高峰の冒険者。S級冒険者となった。
D級からS級の飛び級。それは白銀のことを知らない冒険者から見たらガセだと思うだろう。あり得ないと。
しかし、クーリッヒの住民にその事実を疑う者は居ない。
それは、白銀の名声が迷宮都市クーリッヒに響き渡っているからだ。
それは、白銀に命を救われたものが多くいるからだ。
それは、白銀の姿を見て憧れたものがいるからだ。
偉業を成し、多くの者から讃えられ、憧れる者。人はその者のことをなんと呼ぶのか。
白銀はギルドマスターのいる部屋を出てギルドのホールに戻る。
「帰ってきたぞ!S級チーム クローバーだ!!」
「最強の冒険者だ!」「新たなS級冒険者だ!!」「S級冒険者 白銀のジン!!」
出てきた俺を見るなりギルド中にいる者達全員が俺達を讃える。
俺たちがギルドの奥に行った後に他の職員からギルド内で俺たちのランクを上げると発表があったのだろう。
「「クーリッヒの英雄 白銀に乾杯!!」」
どこから現れたのか、アルドとアイリスが酒を掲げてそう言うとギルド内が更なる熱気で溢れた。
人は冒険者ジンを英雄と呼んで讃えるのだ。
世界に更なる恐怖を与える蟻を地上に解き放つ許可を与えた張本人である彼を。
「あははっ!!これからだ、これからもっと世界は面白くなっていく!あぁ、楽しい!面白い!楽しそうだ!面白そうだ!」
ジンは笑う。
世界に混乱を与える彼をなにも知らない人々は彼の偉業を讃えるのだ。
世界に更なる死をばら撒く彼に命を救われたと人々は感謝するのだ。
これから起こる世界の波乱を楽しみで仕方ない彼を人々は英雄と言うのだ。
ジンは思う。
面白くて仕方がない。滑稽で仕方がない。楽しみで仕方ないと。
悪役ムーブ大好きです笑
「面白い!」「続き読みたい!」「最後まで見たい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!一言でも感想お待ちしております!!




