第100話 アグーの最後
「いや、いやー!!」
嫌がる私を気にせずアグーは私を掴んで持ち上げる。
「お前、使えそうだな。ブハハ!!」
アグーはそう言って笑った。
「聞け!勇者ども!!この小娘の命が惜しくば止まれ!」
私を高く持ち上げ、戦場に私を晒す。
「アリアお嬢様!!」「そんなアリアお嬢様が!?」「止まれ!止まれ!!」
そう、ここに突撃してきている兵はすべてハードル伯爵の私兵である。
ハードル伯爵の令嬢が人質に取られた。ここに止まらない兵はいない。
「ブハハ!面白いくらいに止まりおったわ!!やはり貴族の娘であったか!」
「そんな…みんな、ごめんなさい。」
私は自分の情けなさに涙が溢れ出てくる。
「お前も愚かだよな。もしもお前が勇者達と足並みを揃えてここにきていたら、俺もやばかったかもしれん。だが、お前は愚かだった!見てみろ!お前のせいでどんどん死んでいくぞ!!」
止まったルーカス様率いるハードル私兵団は窮地に立たされていた。
敵に囲まれ、1人また1人と血を流して倒れていく。
「私のせいだ。私がここに来なければ、こんなことにはならなかった。」
「違うな、お前がここにきたことが問題なのではない。お前は人の言うことを聞かなすぎたのだ。勇者やその周りのやつらはお前にずっと言っていたぞ?「戻れ」と。お前はそれをすべて無視してここまできた。その戦犯とも言える愚かな行動が今!お前の仲間を殺している!ブハハ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」
私は泣きながら謝るしかなかった。
本当は私のことは気にしないで!と叫びたかった。でも、私にはできなかった。
改めてみる戦場。そこかしこに転がる死体。
とても痛そうな傷を負っている味方の兵や敵兵。
むせ返る血の香り。恐ろしい怒号。
そして、少し力を入れれば私などペシャンコにできてしまう私を掴んで持ち上げている強靭な手。
そのすべてが恐ろしかった。
死にたくない。こんなところで死にたくないよ!
「助けて…スケさん!!」
—だから言ったじゃないか。アリアにはまだ早いって—
私の呼びかけにスケさんが答えた。
そして少し私から魔力が抜けて、召喚陣が出来上がる。
「なんだ!?」
—うちの子から手を離しな—
スケさんは召喚陣から飛び出してアグーの目を一瞬のうちに切りつけた。
「うわぁ!いってぇ!」
アグーは驚いて私を離し、顔を手で覆う。
—いつまで寝ているんだお前たち。立ち上がれ—
スケさんがそう呼びかけるとワイルドビックボアとマローダーベアーが意識を取り戻し立ち上がった。
—アリア、一度勇者のところまで下がるぞ—
スケさんはそういうとワイルドビッグボアに跨った。
私も近づいてきたマローダーベアーに乗る。
「スケさん、私…。」
—それが戦争だ。お前のミスで人が死ぬ。だが、ミスをしているのはお前だけではない—
「どう言うこと?」
—終わればわかる。ほら、俺たちがこちらで掻き乱しているからルーカスやロンたちが勢いを増してきたぞ?—
私たちがルーカス様たちのところに敵を倒しながら向かっているとルーカス様とロンが敵の隙をつき、再度突撃を開始していた。
「アリアお嬢様!!ご無事でしょうか!?」
真っ先に合流できたのはロンだった。
顔を真っ青にして尋ねてくる。
「え、えぇ、大丈夫です。本当にごめんなさい。」
私は素直に謝った。
「いえ、いいのです。以前の俺ならば、お嬢様のあの猛進にも着いていけたと思うのですが…鍛錬不足ですね。鈍っていたようです。俺が着いていけないばかりに危険な目に合わせてしまい申し訳ありません。」
「いえ、私が勝手ばかりしたからです。ごめんなさい。」
「アリアちゃん大丈夫だった!?怪我はない!?」「大丈夫か!?」
アリルとルーカスも敵を突破してこちらと合流できた。
「はい、私のせいでとんでもないことに…ごめんなさい。」
「それはあとだ。今はこいつに集中しないと!」
ルーカスがそう言って剣を構える。
「スケルトンめ、よくもやってくれたな。」
アグーが追ってきてこちらに迫って来ていた。
—よし、勇者よ。任せたぞ!—
「えっ!?一緒に戦わないの?」
ルーカスは驚いてスケさんを見る。
—俺はただのスケルトンだ。そんな力はない—
「ただのスケルトンねぇ?」
アリルさんがジト目でスケさんを見る。
—俺たちがオーク兵を請け負ってやる。勇者はアグーに集中しろ!—
「皆、勇者に敵兵を近づけるな!」
ロンも部下達に命令してオーク兵と戦い始めた。
「やっと剣を合わせられるな、アグー!!ここで終わりだ!」
「ふんっ、勇者め!!なんと目障りなやつだ。ここでお前を殺し、俺はオーク達を救う!」
ルーカスとアグーの戦いは激闘を極めた。
アグーの巨大な斧は勇者を何度も吹き飛ばし、強力なアグーの拳はルーカスの至る所の骨を折った。
しかし、勇者は諦めない。
ルーカスは吹き飛ばされる度に立ち上がり、殴られる度に歯を食いしばって剣を振るった。
そして勇者の剣がオークの英雄の胸に突き刺さり、オークの英雄アグーは膝をついてた。
「見事だ、勇者ルーカス…」
「はぁ、はぁ、最後に言い残すことはあるか!」
「勇者、お前は俺と一緒だ。俺はオークの英雄。俺はオークのみんなを救いたかった。お前は勇者なのだろ?ならばいつか俺と同じようにどんなに頑張ってもダメな時があるだろう。忘れぬことだな。このオーク軍の最後を。自分が倒れたらどうなるのかを。」
「やめろ!!アグー様!!」「やめてくれ!勇者!!」「嘘だ!アグー様が負けるなんて!!」
オーク兵が膝をつきあとは殺されるだけのアグーを見て涙を流す。
「お前にもお前の正義があったのだろう。だが、俺にも俺の正義がある。お前のことは忘れない。」
ルーカスはそう言うとアグーの首を切り落とした。
アグーとルーカスの違いは種族だけだったのかも知れませんね。
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