攻略キャラは沢山いるほうが楽しい
「なっ、なんでしょうか……」
部屋の入り口に行き、映像付きチャイムのボタンを押して、恐る恐る返答すると、どう聞いてもボイスチェンジャーな低い声で、ガスマスクを被って黒いコートのフードを被った人物が
「ちえみがそこにいるのはわかっている」
と言ってきて、俺は漏らしそうになる。手に握っているスマホからウイルスが
「ちえみちゃんのもの買ったやつよ。常時監視してるからバレバレよ」
と言ってきて
「……変態が早くも家まで来たのか……いや監視してるなら先に教えろよ」
「私に考えがあるわ。部屋まであげてくれる?」
「通報のが早いんじゃないか?」
「それだと、あなたも事情聞かれて面倒よ」
「そっ、そうか。大丈夫なんだな?」
「任せて。静かにっていいなさい」
俺がチャイムに向け
「ロック開けるので、静かにうちまでどうぞ」
と言ってボタンを押すと、変態は無言で玄関ホールへ入っていった。
「部屋に入ってきたら、リビングに入れて、体操服、市内マンションの一室、ウニ、2023年7月某日、執行猶予5年、山奥の小屋、ワイパー液って言ってみて」
ウイルスが嬉しそうに言い放った怪しいワードを慌ててペンで紙にメモしていると
「ふっふっふ……なーんでも言う事聞くようになるわよ?あと裏の組織もほのめかすと完璧ね!」
「……何でも良いから、大人しく帰ってくれるならそれでいい」
俺は今日も出社日なのだ。変態や警察に関わってはいられない。
どう考えても、犯罪者的風体の変態が部屋まできたので部屋にあげる。身長は170センチ弱のやせ形だ。変態は無言でリビングの机周辺に座ると
「俺のちえみを返せ」
と恐ろしいボイスチェンジャー声で言ってきた。俺は大きく息を吐くと緊張を悟られないように、先ほどのメモをゆっくりと読み上げる。
目の前に座る変態が明らかに小刻みに震えだした。ここでダメ押しで
「うちの組織は、おまえのことよく知ってるからな?俺とちえみに手を出したらどうなるかわかっているな?」
ウイルスに言われた通り、架空の組織もほのめかすと、変態はがっくりとうなだれ
「ど、どうしたらいい……?」
と尋ねてきたので
「まずはコートとガスマスクを脱げ」
と言うと、小刻みに震えながら頷いてきた。
変態はまずはガスマスクを取ると、地黒で黒目の意外と可愛らしい顔だった。そして黒いコートを脱いで、ナイフやらノコギリやら巻きつけてあるスポーツブラとパンツのみ着た引き締まった身体をみた時に俺は理解する。髪型は男性のようなサイドを刈り上げた横分けだが
「女じゃねえか……」
変態はジャラジャラと刃物を机の上に並べてハスキーな声で
「……脱いだぞ……武器も外した」
とまだ震えながら言ってくる。俺のスマホがいきなりついて、聞いたことのないような低い男性の声が
「ふん、阿呆めが。おびき寄せられたのも知らないでこの家にきおったわい」
誰!?驚いて俺が画面を見ると、モーニングを着た恰幅の良い紳士がウインクしてきたのでウイルスが姿と声を変えただけというのはすぐ理解できた。
「ナカマ君、阿呆にわしを向けてくれ」
震えている変態女に俺がスマホを向けると
「おい、れいか、お前は、作業所の職員を辞職して、今日からここでメイドとして無償で働け。ちえみと彼とわし、そしてこのスマホに映るわしの娘の言うことは何でもきくように!」
「おい、待て……」
と俺が止めるまでもなく、変態女が震えながらうなだれて
「はい……おおせのままに……」
頭を深く下げてきた。
変態女はコートだけ着て、他は残すとうなだれながら出ていった。茫然としながら俺はスマホに
「おい、ポンコツウイルス……二人目の犯罪者は要らんぞ……」
いきなり紳士からいつもの女に画面の人物は変わると
「ふっふっふ……私は知っているのです!」
「何をだよ……」
「美少女ゲームの攻略キャラは沢山いるほうが楽しいと!」
「美少女ゲームじゃなくて、犯罪女コレクションじゃねえか……あいつも長い執行猶予つくほどの何かやったんだろ?」
「罪を憎んで人を憎まず!細けえことはいいんだよ!」
「……」
調子に乗っているウイルスに言い返す気力も残っていなかった俺は、変態女が置いていった物騒な刃物の刃先をガムテープでグルグル巻きにしてガスマスクと共に有料ゴミ袋に入れてから、寝袋に入ってそのまま寝た。