やっちゃいましょう
プラ袋を提げて戻ってきたちえみと自宅マンションに帰る。疲れたのでシャワー浴びて寝るかと言うと、スマホからポンコツウイルスが
「ちっ、ちえみちゃん!お風呂入れて一緒に入りなさい!今よ!」
恥ずかしそうに言ってきた。
「そうですねーお湯張ってきますー」
ちえみは買ってきたものを玄関に置くと風呂場にドタドタと走っていった。
「いや一緒に入らんし」
と言いながら奥へ行ってジャケットやパンツを脱いで室内用のジャージに着替え、寝る前に酒でも飲むかと冷蔵庫を開けると、食材で満ちていた。
「……」
ポンコツウイルスがちえみを使って、昼間勝手に買い込んだようだ。……あいつはもったいぶっていたが、たぶんネット通販だな……。俺の金をなんだと思ってるんだよ……とりあえずビール飲むか。
テレビをつけて、ツマミにたくわんをかじりながらビールを飲んでいると、ちえみが横に座ってきたので
「なんか飲まないの?」
「じゃあー野菜ジュース飲みますねー」
しばらく夜のバラエティを二人で眺めていると、机の端に置いたスマホからウイルスが
「いいわねーすっかり夫婦ねー」
スマホを手にとって黙ってスリープモードにしてから
「……毎日、バスに乗ってどこ行ってたんだ?」
「毎日じゃなくてたまにですよー?」
「そうか」
ちえみはしばらく黙ってから
「……作業所ですー。親がー宗教の本作る作業所の人と知り合いでーカバーに折り目つけるお仕事してましたー」
「……カメラは?」
アナログカメラを持っていた。
「あれはーおじいちゃんの形見でーこのマンションのー侵入経路を調べるためにー」
「……?」
よくわからなくなってきた。
「えっと、つまりアナログカメラ持っていたときは、うちのマンションの周りを撮影した後に、マンションより遠くのバス停まで行って、俺が乗っているバスにわざわざ乗って来てたってこと?」
ちえみは頷いて
「はいーバレないようにーしてましたねー」
確かにバレてはいない。考えたくはないが、この子は泥棒の才能に満ちあふれているようだ。
「アナログカメラってフィルムの現像とか大変って聞くけど」
ちえみは事も無げに
「作業所のですねー詳しいお兄ちゃんがーパンツ見せたらー喜んでやってくれるんですー」
「……そうっすか……」
聞けば聞くほどすごい環境だな。スリープにしていたスマホがいきなりついて、動画の女が憤慨した表情で
「スマホも服も下着もアナログカメラもそのスケベ野郎に売ったのよね!もう特定できてるわ!」
「ああ……家から追い出されて金が無いからか……」
ちえみは毅然とした表情で
「もういりませんー!ここに来られたのでー」
そこで「ピピー」という風呂が沸いた確認音が聞こえてきた。
先にちえみに入ってもらうことにして、俺はビールをチビチビ飲みながら考える。ちえみの親は追い出したので探していない。作業所も親繋がりなら探しはしないだろう。しかしちえみが私物を売ったという男は気になる。フィルムを現像していたなら、うちのことも知っているはずだ。そこから厄介事に巻き込まれたくはない。
考えているとスマホからウイルスが
「やっちゃいましょう!しばきあげてちえみちゃんのものを取り返すの!」
「うーん……そいつは余計なことしそうか?」
動画の女は大げさに嫌そうな表情で
「今もちえみちゃんの私物を舐めてます!」
ほんとかよ。なんか演技臭いな……まるで何かを誤魔化そうとしているような……ああ、分かった。
「きめえな。で、話は変わるがオークションに出す服はどうすんだ?」
いきなりスマホの画面が真っ黒になった。にげたらしい。ポンコツなので、検索結果の分析もいい加減で、今更あれがゴミの山だと分かったのだろう。
ちえみが出てきたので、俺も風呂に入ってからリビングに戻るとバスタオルを痩せた身体に巻きつけただけのちえみが、投げキッスをしてきて
「あなたー。一緒に寝るわよー」
さらにウインクしてきた。
「……ちょっと待ってててくれ」
俺はスマホをビニールでグルグル巻きにした後に、パソコンと共にダンボールを被せた。これでウイルスが余計なことは吹き込めないだろう。そして
「下着とか部屋着着て、ベッドで寝てくれ」
とちえみに告げ、リビングの電気を消すと寝袋に入ってさっさと寝た。