私を信じなさい
すでに夕食が並べられているリビングの机の横を抜け、俺はパソコンの前に行き
「おいウイルス、ちえみに変な格好させるんじゃねえ」
画面内に大写しになっている動画の女に抗議する。やつは何故か顔を真っ赤にして
「あっ、ああいうのが!まともな性欲の男性が喜ぶことだし!」
「……俺には全然効かねえし、無駄なことはやめろ。大体な、そんなに裸エプロンって一般的か?」
「がっ、画像生成でも!にっ、人気ワードの一つだし!」
「ほんとかよ」
焦りまくるウイルスに疑いの眼差しを向けていると
「あなたーお夕飯食べましょうー」
ちえみが後ろから声をかけてきて、不法侵入者のお前からあなたって言われる筋合いはねえ!と文句を言おうと振り返ると、美少女スマイルで微笑んできた。途端に力が抜けて
「……とりあえず飯食うか……」
と頷いてしまう。
リビングでご飯、コロッケ、サラダ、野菜スープの夕飯を食べながら、相変わらず裸エプロンのちえみに
「その格好、嫌ならやめてもいいんだぞ」
ちえみは首を横に振り
「私ーいろんな格好するのー好きですよー」
「……例えば?」
ちえみは長い黙考の後に
「体操服でもー制服でもーコスプレでもー何でも好きですねー」
「……あのウイルスに利用されないようにしろよ。ところで……」
「はいー」
「本当にどこか行くとこないのか?」
ちえみは驚いた表情で
「なっ、なんでそんなこと、言うんですか……」
「いや、あてがあるなら、ここに居てもしょうがないだろ?まだ21ならいくらでも人生やり直せるしな」
ちえみは涙目で俺を見つめ
「いまーじんせーやり直してますよー……」
と言ってきて、何とも言えなくなる。
夕飯を食べ終えて片づけ終えた後に、ちえみには下着と服はちゃんと着るように言うと
「……無いんですーTシャツとキャップしか、持ってきて無くてー」
「……買いに行くか……」
何でそんなスースーした格好で不法侵入を試みたのかは、きっと聞いても仕方ないと思う。ちえみなので。
というわけで、ちえみに、俺の一番丈が短いジャケットやチノパンなどを折って着せ、近くの古着屋にやってきた。何故古着かというとポンコツウイルスが
「ギリギリ二人生活していけそうもない貧相な収入と貯蓄のあなたのために!転売できる掘り出しものを探します!」
そう言い張ったためだ。全く期待していないがちえみが服を選んでいる間、ポンコツウイルスに言われるがまま、激安セールのワゴンから手に提げた買い物かごに放り込んでいく。
絶対にオークションで売れねえよこれ……というドテラやら、使い古しのハーフパンツ、煙草の臭いが染み付いた桃色ラメのジャンパー、謎の美少女アニメキャラの顔入りのニットキャップ、よれた金のサイフ、などの古着屋もよく引き取ったな……というもはやゴミの山を俺は袋いっぱいに持って帰る羽目になった。
帰り道で気付いたが、ジーンズとデニムジャケットという男子のような古着を選んで早くも着ているちえみは、よく似合っていた。
そして、ちえみの下着を一切買えて居ないことに、マンションに戻ってから気付き、
閉店間際の近所のスーパーまで二人で行き、ちえみに金を渡して、自分で買ってきて貰うことにする。
スーパー外のベンチに座ってスマホをいじりながら待っていると、動画の女が画面に割り込んできて
「あー楽しみねえ……有能な私のおかげであなたたちが億万長者になる瞬間が!」
たぶん古着っていうか、さっき金を払って引き取った衣類ゴミのことを言っているのだと思うが、なんの期待もしてないので無言でスワイプして動画の女を画面から消そうとすると、慌てて
「ちゃんと海外まで検索したから間違いないって!私を信じなさい!」
画面内からこっちに向け、ビシッと指をさしてきた。人の顔に指さしするのが失礼だという最低限の礼儀もインストールされてないらしい自称AIのポンコツウイルスに何を期待するんだよ……俺は大きくため息を吐く。