朝から人の金でやりたい放題
追い出し辛くなってしまったので、とりあえず今夜だけ変な美少女にベッドを譲ることにした。
「ちえみですー!よろしくお願いしますー」
もはや永久に滞在するつもりのような顔をしているちえみに何か言おうとしたが、面倒くさくなって、あとはウイルスに任せ、俺は寝袋を押し入れから引きずり出して寝る。
翌朝。
いい匂いで起きる。
「よーし!いい調子よ!全てのお料理の道は目玉焼きとお味噌汁から始まるの!」
狭いキッチンからウイルスの声が聞こえる。フラフラと見に行くと、Tシャツの上に俺の男物のエプロンを着たちえみが、壁に立てかけられたスマホからウイルスに指示されながら、必死に料理を作っていた。
「何やってんだよ……」
「あっ、起きたー?ご飯も炊けてるわよー!」
確かに炊飯器から湯気がでているが、そんなことより
「米も食材も無かったと思うけどな」
ちえみが真っ赤な顔で必至に目玉焼きをやきながら
「AIさんがお金使っても良いって言ってくれましたー。おサイフは向こうの机にありますー」
「……」
リビングの机の上のサイフを見ると、小銭すら入っていない。俺も馬鹿ではないのでこの意味はわかる。
キッチンに戻り、スマホに向けて
「てめえ……俺の電子マネーも勝手に使っただろ……」
動画の女は満面の笑みで
「うんっ!全ての現金と合わせて一万くらい。サイフが軽くなって良いでしょ?」
「……どこで買ってきたんだよ」
近所に早朝から開いているスーパーや量販店はない。
「ふっふっふー知りたい?」
ウイルスが勿体ぶったので放置して、俺はリビングでテレビをつける。ニュースはとくに面白そうな話題もない。朝から人の金でやりたい放題のポンコツコンビはムカつくが、社畜の俺は今日も出社せねばならんのだ。立ちあがり、クローゼットの前に行き、スーツに着替え始める。
着替え終えたので、ウイルスがうるさいスマホを手提げカバンにぶち込んで、さっさと家から出ようとすると、駆け寄ってきたちえみが
「食べていってくださいー」
腕を掴んで涙目で引き留めてくる。
ちえみと机を囲んで、ご飯、みそ汁、目玉焼きの朝食を食べる。ちえみは自らは食べずにニコニコと俺を見つめていた。
「おいしいですかー?」
「……悪くない」
正直に言うと、ちえみは真っ赤になって俯いてしまった。カバンの中でウイルスがわめいているのでスマホを出すと
「ご飯食べたら歯磨きとトイレ!はよ!」
「……分かった分かった」
母親か。いや母親でもここまでウザくなかったな……。
三十分後。
どうにか俺はバスに乗って会社に向かっていた。ちえみは家に置いてきた。自称AIのウイルスによると、パソコンからちえみをサポートするとのことだったので、パソコンをつけてきた。
酷い朝だったが、バスはいつも通り、会社もいつも通りで次第に心の平穏を取り戻していった。自称AIのウイルスはちえみの相手で忙しいのか一度も話しかけてこなかった。
夕方、バスに乗ってマンションに戻る。扉を開けると、食事のいい匂いがしてきた。ドタドタとエプロン姿のちえみが玄関まで駆けてきて
「あなたー今日もー大変だったわねー」
美少女フェイスでニッコリ笑ってくる。お前を嫁にする予定はない。と思っていると
「……」
首を傾げて両手を差し出してきたので、カバンを渡すとクルッと後ろを向いてリビングへとドタドタとまた駆けていった。背骨の浮き出した痩せた背中と尻が丸出しで、裸エプロンだったのかと、ようやく気付く。