正座
変な女は素直に床に正座したので、その横にスマホを縦置きして時計に立てかけて並べた。画面に映る唖然とした表情の動画の女に
「ウイルスも正座!」
とビシッと指を指すと
「……うう……するわよお……私、ウイルスじゃなくてAIだってえ」
うなだれながら画面内で正座した。
「そのキャップを脱げ!室内で帽子はいらん!」
変な女は頷いて、スッとベースボールキャップを脱ぐと、正座したまま真面目な表情でこちらを見つめてきたが、ショートカットで愛らしい両目は大きく目鼻立ちも整っていて……控えめに言っても美少女だった。
しばらく見つめ合ったあと、気を取り直して
「……お前ら!まずはそこの女!不法侵入は犯罪だろ!どうやって入ってきた!?」
変な女改め、変な美少女はニヘラと笑って
「へへー毎日ベランダまでよじ登っててー今日はたまたま鍵があいてたんでー」
「……」
やべえこいつ……美少女なのにナチュラル犯罪者だ……美少女なのに……。しばらく固まってから今度は立てかけてあるスマホに向け
「おい自称AIのウイルス!」
動画の女が頷いたので
「こんな犯罪者と愛し合うことはできない!相手をちゃんと見ろ!」
動画の女は言いにくそうに
「あ、あのね?法律っていうのは人類が作った未完成なもので……私AIだから、あんまり気にする必要ないかなって……」
「お前は自称AIだから関係ないかもしれんが、俺は人類だから人類が作った法は守らんといけんだろ!みんなが好き放題やってたらこの女みたいなのばかりの社会になるぞ!」
変な美少女はスマホの隣で真顔でウンウンと頷いている。動画の女は心底凹んだ表情で
「ごめんてえ……どうしたら許してくれる?脱いだらいい?」
「脱ぎますよー!」
変な美少女が両目を輝かせて言ってきた。俺は首を横に振り
「自称AIのウイルスは二度と俺に関わるな。あと女は警察に自首しろ。自首したくないなら、一回だけ見逃してやるから、お前も二度と俺に関わるな」
「いや」「いやですー」
「……」
両者とも堂々と拒否しやがった。
理屈が通じないとんでもない馬鹿とポンコツに関わってしまった絶望感でうなだれていると、玄関の扉が叩かれる。出るとお隣のお爺さんが立っていて顔をしかめて
「わりいけど、寝れんわ」
「……すいません……静かにします……」
俺が謝ると、すぐに立ち去って行った。リビングに戻り、正座している変な美少女とスマホの画面の動画の女に
「お前らのせいで怒られたじゃねえか。とりあえず女は家に帰れ。二度と来んなよ」
変な美少女は困った表情で
「あのー家追い出されちゃってえー昨日からー公園で寝泊まりしてるんですー」
「なんで追い出されたんだよ」
「私ー実はーもう21なんですけどーいじめでー中学から学校いってなくてーニートでー家事も下手でー家族に叩かれててー」
いきなり変な女はTシャツを肩までめくると痣だらけの痩せた身体を見せてくる。下に何も着ていないので色々と見えてはいけないものも見えたが、それより痣が痛々しい。
「あのーだからーここで飼ってもらえませんかー?なんでもしますからー」
「……」
常識を学べなかったのか。
「リアル美少女育成ゲームよ!あっ、成人してるから女性育成ゲームか!」
ポンコツウイルスがうるさいが、とりあえずTシャツを着るように言って、俺は大きくため息をついた。