採用ね
「暮州海里、クリーレスカイ、アナグラムね。しかもひらがなのアナグラムだから、わざとわかりやすくしたのね」
ソリューション企画課に連れてきた女性に向けたスマホから、動画の女が話しかける。目の前のパイプ椅子に座った女性は会社員らしくスーツを着て髪も整えてあり、風俗店で出会った人物と同じとは到底思えない装いだ。
「世の中って情報量多いからね。わかりやすくしてあげないと」
そう言った女性は上品に微笑む。
「で、かいりちゃん、面接中なわけだけど、わが社で何ができるの?」
かいりと呼ばれた女性は
「要するに、来たるべき宇宙開発時代に、スペース物流運搬みたいなことするために、旧葵七門財閥が立ち上げた会社がここだよね。事業部長の名字が床川って、送り込まれた直系でしょ?」
「ふっふっふ……」
悪のウイルスが嬉しそうに笑い声を立てる。俺は新事実に驚きが隠せない。というか、自社のこともっと調べておけばよかった……。
かいりは微笑みながら
「まあ、会社の方針は単純だから、それに沿った企画くらいは立てられるよ。多少は工学の知識もあるし、資格が必要なら勉強しようか?」
悪のウイルスが
「前職風俗で中卒だけど、今さら昼職大丈夫?」
失礼なことを言ってしまって、俺が慌てて
「ごめん。ハラスメントだぞ」
頭を下げて謝るが、かいりは気にする様子もなく
「ずっとやる気なかっただけだよ。最少の労力で生活していくのに前の仕事が最適でさあ。今はやる気ある。あっ、そうそうアパートも解約してきたから、しばらくお兄さんの家泊めてよ」
「良いわよ!」
「おい……」
悪のウイルスが勝手に了承してさらに
「採用ね!さ、みんなで事業部長のとこ行きましょう!」
俺に促してくる。
事業部長の個人オフィスにノックをして
「どうぞ」
と言われたので入る。室内は無駄なものがなく整理整頓されていて、デスクでパソコンを打っていた事業部長がこちらを見ると
「既に聞いているよ。暮州君、ようこそわが社へ」
かいりは丁寧に頭を下げた。事業部長は俺を見てくると
「採用は君に一任しているから、次からは気にしないでいい。それよりも今日は君に張郃について聞きたい。魏の武将のね」
いつもの三国志問答が来たか。と思ったので頭をフル回転させて
「長生きですよね。曹操から見出され、数十年戦場を駆けて名声を欲しいままにし、最後は蜀であっさりやられた人生ですよね」
事業部長は微笑みながら
「時代の変わり目というものがある。それを跨ぎきれなかったという印象はないかね?」
「蜀でやられた時、司馬懿は少しホッとしたんじゃないですか?自分の才能を半分くらいしか認めていなかった曹操の影が、張郃にずっとチラついていたでしょうし」
「ふふふ。君はやはり面白い。もういいよ。採用業務を引続き続けてくれ給え」
廊下に出ると、かいりがポツリと
「事業部長、最近、お爺さんが亡くなってるね」
と言った。俺が
「あっ、香典とかいるかな」
と返すと、悪のウイルスがスマホから
「違うでしょ!」
なぜかツッコんできて、首を傾げた。




