いっ、今よ!
イカれ女から見つめられ、おびえていると
周囲の障子が一斉に開いて、三方の部屋に数十人の老若男女が待機していたということが分かる。慌てて見回すパンイチの俺を誰も見ずに、老若男女の視線はタヌキ像に注がれ、次の瞬間には全員一斉に
「タヌポーズなのー!エクストラなのー!」
と腹を突き出し、腰を振って踊りだした。イカれ女はそれに合わせて
「タヌッ!タヌタヌッ!ハワワワワ!」
と奇声をあげながら榊を左右に振り回す。
人生始まって以来の異常な状況に絶望する。
「……」
ああ、俺の人生終わったわ……でも俺の人生の使命であるAI画像生成に出会えてよかった……猫耳の全裸半魚人……猫耳猫しっぽの全裸メデューサ……廃墟の上を飛ぶ貧乳全裸猫耳族たち……ああ、みんな、俺がここで死んで、異世界転生したら会おうな……。
「あのー……きっとAI画像生成した変態美少女たちとの、くだらない走馬灯などを思い浮かべておられると思われるところ、悪いんですけど……」
右耳からウイルスの声がしてきて驚く。そう言えば小型補聴器を入れていた。
「そのまま絶望した振りして、私の言うことを聞いて」
咄嗟に頷きそうになり俯く。
「亡霊のようにフラフラ立ち上がってタヌキ像の前まで行って、それから信者と教祖たちを半目で見つめつつ私が言うことを復唱して、それからしゃがんで、また私が言うことをタヌキ像の股のえっと……その、きっ……◯んっ……玉をさすりながら言ってくれない?」
ウイルスが頭のおかしいことを言い出したが、周囲の状況はもっと頭がおかしいので、言われた通りにしようと腹を据えた。
「今よ」
ウイルスが急かしてきたので、縛られたまま立ち上がって、
「タヌッ!タヌヌウウウウウウ!」
叫びながら榊を振り回しているイカれた女の横を通り、タヌキ像の前にしゃがむと、女と
「タヌポーズなのー!エクストラなのー!」
と踊っている信者共の方を向く。……めっちゃ怖い……タヌキ像の前に座ったのに、誰も全然俺のことなんて気にしていないのも怖すぎる。とにかく心を決めて、ウイルスの言っていることを復唱してみる。
「黒中村みかな……菊若目高校卒業後、加木不来大学経済学部を卒業して……富澤アンド美都沢不動産で経理を担当……」
イカれ女も信者も反応しない。さらに
「中学の頃はシャイニーズ事務所所属のネガチブウェーヴの久住床ザンズレイ推しで……同担拒否により同級生のMみさんとの喧嘩による怪我をするが、親同士と教師の話し合いにより解決……」
イカれ女の顔が赤くなってきた。しかし必至に未だ榊を振っている。
「高校に入り、2年時に地元開催のコミックマーケットにザンズレイと同グループの櫛山モリオのやおい本で参加するが、全く売れず、電車で在庫を袋1杯に入れて自宅まで悲しげに持って帰っているところを塾帰りの同級生に見つかりSNSに晒される」
イカれ女の榊を振る腕が遅くなってきた。さらにウイルスが言ってきたので復唱する。
「今でも3日に一度、ザンズレイのことで性的に興奮して、『ごめんなさい……ごめんなさい……タヌ神様あ……』と許しを請いながら、そんな自分にさらに興奮して◯◯◯ている」
イカれ女がついに榊を振るのをやめて、その場に両手をついてしゃがみ込んだ。さらに俺は復唱する。
「肉欲に負けた哀れなみかなよ……私の縄を解きなさい……」
「まっ、まさかタヌ神様……!?」
イカれ女は何か勘違いした表情で慌てて俺の縄をほどいてきた。両手が自由になるのと同時に、ウイルスが補聴器から恥ずかしそうに
「いっ、今よ!タヌキのきっ……◯玉を!」
俺は仕方なく右手でその伸びた袋をにぎってさする。当然ただの陶器の置物なので硬くて冷たいが
「……みかなも触ってみなさい。温かくて柔らかいから」
そんなわけねえだろ……何馬鹿なこと俺に言わせんだこのポンコツウイルス。と思いながらイカれ女の手を取って握らせると
「やっ、柔らかくて……温かい……です」
頬を赤らめて俺に言ってくる。うわーうわーなんだこれ……ウイルスのやつ、イカれ女をさらにイカれさせてしまいやがった……。