元気になったようね
腹が減ってきたので、コンビニでお茶と赤飯のおにぎりを二つほど買って、別の公園のベンチに座り食べていると
「風俗店の一万五千円を経費請求しないと!」
スマホからポンコツウイルスが無茶なことを言ってくる。
「さすがに無理だろ……」
「そう言う自爆営業はやめなさい!身体に悪いわよ」
「自爆営業じゃなくて、自爆採用業務だな……」
俺は、両肩を落とす。ちょっと前まで楽な内勤だったのに大変なことになっている。
「でさーちょっと私も三国志について勉強してきたから、何でも聞きなさいよ」
「……いや、いいわ」
慰めてくれてるのか何なのか分からないが、そんな気にならない。
「ふっ、怖いの?自分の知識が所詮人間レベルでしかないことが」
挑発してきたので、仕方なく
「じゃあ、初級レベルからな。張飛の人生について語ってみろ」
「任せて!」
ポンコツウイルスは勇んで
「張飛益徳とは中国三国時代の武将である。桃園の誓いとか、長坂の戦いとか、蜀攻略での輝かしい戦功とか、鞭打った部下に寝首をかかれたとかそういうのはネットで調べて!浅い情報だから!」
「う、うん?」
「今回、プレゼンテーションしたいのは、超姉妹時空に異世界転生した張飛が『むむ~お兄ちゃん様!一騎打ちしよ!』って言ってくる心理的な背景についてね!」
「……」
「彼女はお菓子の食べ過ぎで、お腹のお肉がプニッとしていることにコンプレックスを抱いてるの!それで常にそれをからかうプレイヤーである兄のあなたに、一騎打ちを挑んで黙らせようとしてるわけ!可愛いのよ!」
「ちょっと待て。何の話をしてるんだ……」
「何って、超三国姉妹伝〜三国志の武将たちが妹や姉に!?〜の話でしょ?次々に造られる中国産大作ソーシャルゲームに対抗すべく、国内大手のソックスエンバーメントが開発費二百億円かけた国産オープンワールドMMORPGよ」
「……」
いや三国志ファンとして薄々はそういうゲームがあるのは知っていたし、三国志愛がわりといい加減な運営が定期的に炎上しているのも知っているが、見ないふりをしていたのだが……。
「張飛との関連でいうと、最近実装されて久々のセルラン32位という高順位を叩き出したSSR曹豹の『張飛お姉ちゃん……許さな……やめっ、あひんっ』っていう回復技が性的過ぎてSNSで炎上してるわよね!」
「……会社に一回戻ろうか……」
「ふふふ、三国志の新たな情報に触れて、元気になったようね」
ポンコツウイルスに生きていくのに全く必要がない情報を押し付けられて脳が疲れただけだった。
ソリューション企画課に戻り、自分で用意したノートに日報を書き込んでいく。さすがに風俗店で一万五千円払って、新入社員をスカウトしたとは書けないので、市内にて採用業務を遂行。有望な女性を面接。採用について許諾を得た。女性についての詳細な情報は後日記す。と大まかな時刻と共に一応書いておいた。いやこれでも日報としては多分微妙だな……まあ、でも業務を記録するのは大事だよななどと思っているといきなりスマホの電話が鳴って
「あのー買い物に来てるんですけどー今日のお夕飯何がよいですかー?」
というちえみの声がして、力が抜ける。