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餌欲しいか?ワンワン

住宅地や商業施設街を横切る薄汚れたドブ川にかかる小さなコンクリート橋の下にその痩せた大きな犬は寝そべっていた。明るい茶色というか赤に近い毛色の柴犬だ。

「スマホを近づけて」

ウイルスに言われるがままに近づけると

「きゅうーん。餌欲しいか?ワンワン」

犬語を交えてウイルスが話しかけた。柴犬はチラッとこちらを見て、ダルそうに右足で、足元のコンクリートに積もっている砂に

「われ、世情に飽いた 放っておいてくれ」

と間違いなく日本語を書いてきた。俺が息が止まりそうになっていると、スマホからウイルスが

「ライカ犬の仇を打ちたいと思わないの?」

柴犬はピクリと右耳で反応すると、また右足で

「かの者は 宇宙から地球を見守っている」

と足元に書き、またウイルスが

「ちゃんと犬として自由意志で宇宙に行きたくないかって聞いてんの!」

柴犬はこちらを見て、不気味にニヤリと笑うと、また足元に

「そこの男 この機械は狂っているのか?」

なんと俺に話しかけてきた。


「えっと……このウイルスは、クソ馬鹿な上にピントがズレてて暴走しっぱなしだけど……」

「こらーっ!」

「ちょっと黙ってろ。悪いやつじゃないと思いますよ。俺もまだ3日とかの付き合いですけどね」

俺が正直な気持ちを述べると、柴犬は俯いて、おそらくはしばらく思考した後に、フラフラと立ち上がって一度「ワン!」と吠えると力無くペタリと座り込んだ。スマホからウイルスが

「栄養失調ね。家に連れて帰りましょう」

「……保健所への登録と管理人にペット申請しないといけないな……あと病院で検査もしないと」

「登録とかはオンラインでできないの?あとさあ、あんたの会社も書類多すぎない?紙だと私的に、ないのとおんなじなんだけど」

「何でもお前が知れると思うなよ。人間の情報を尊重しろ」

「ワフッ」

俺に抱きかかえられた柴犬が俺たちの会話で笑ったような気がした。


マンションに戻り、犬を自室に抱きかかえていくとショートパンツとTシャツ姿のちえみが嬉しそうに出てきた。

「AIさんから聞いてますー」

用意していたらしい犬が食べられるおかゆのようなものを玄関先で与え始めた。

「名前も決めてますよー」

ニコニコしながらちえみが言ってきたので顔を向けると

「としこですー」

「いい名前ね!」

いい名前かはともかく

「……メスだったのか……」

勇ましいのでオスかと思っていた。


午後は結局としこの登録などで潰れた。犬猫病院へは後日行くことにした。ついでに一回、帰社して、1日慣れない外勤だったので、日報でも書こうと思いデスクの中を探したが記録用のノートや用紙は見当たらなかった。……というか、仕事したと言えるのかこれ……野良犬拾って自宅に連れ帰っただけだろ……よっ、よし今日は成果なしだった!そういうことにしよう。

俺はタイムカードを押して逃げるように退勤する。

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