表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第1章:右も左も知らない世界で①持ち物ゼロ、異世界スタート

「……さっきの、叫んだのは失敗だったかもしれん」


まわりを見渡しながら、そっと声に出して反省する。


転生だ! 異世界だ! とテンション高くなっていたのは確かだけど、いくらなんでも知らない世界で大声はまずかったかもしれない。野生動物がいたら? 魔物とか? そもそもこの世界の治安ってどうなんだ?


……いや、そもそも人間がいるのかどうかすら怪しいわけで。


「とりあえず、落ち着け俺」


ひと呼吸おいて、もう一度周囲を見渡す。草原。森。遠くに山の稜線。鳥の鳴き声。風は穏やかで、空は馬鹿みたいに青い。夜ではないようだな。でも、体内時計は深夜三時くらいを主張してる。帰宅の途中だったしな。そういえば、少し腹も減ってきた気がする。……そりゃそうだ。帰宅途中だったんだから。


世界は不思議なほど穏やかだった。穏やかすぎて、逆に音が鮮明に聞こえる。


この静けさが逆に安心感をくれる。どこかに何かが潜んでいる気配はない。少なくとも、今すぐに命を奪われそうな気配は、感じられなかった。そう思った瞬間、全身の力がふっと抜けた。


転生直後の興奮もようやく落ち着いてきた。スーツじゃない服の着心地も悪くないし、体のどこにも痛みはない。むしろ今、自分が生きてるって感覚が、やたらとくっきりしている。


そういえば、持ち物はどうなってる?

慌てて、衣服の合わせ目や腰まわりを探ってみたけど、ポケットなんて洒落たもんはなかった。


……何もない。財布も、スマホも、社員証も。

持っていたものは何ひとつ無い。スーツのポケットに入れてたものだしなぁ。スーツ着てないんだから、当たり前といえば、当たり前か。カバンは……と周囲を見渡したが、通勤カバンは勿論、手荷物らしきものもない。マジか!


さらに、顔に違和感を覚えて気づく。


「……あ、メガネもないじゃん……」


ここ数年、四六時中くっついていた相棒だったのに、一緒に転生してくれなかったらしい。


でも、視界がぼやけるとか、目が悪い感じはないってことは、視力回復したのかな? 転生の仕様? ご褒美?

これは、ちょっと嬉しいかも。


地面にしゃがんで草に手を伸ばしてみる。ざらりとした感触。手のひらに触れた草はしっかりとした葉脈があり、根もちゃんと張ってる。その当たり前の手触りに、なんだか少し感動した。作り物じゃない。ちゃんとした“自然”だ。


「なんというか……ちゃんと、“現実”なんだな、ここ」


そんな当たり前のことに、少しだけ安心する。


「さて、と」


独り言をつぶやいて立ち上がる。


とりあえず、このままじっとしていても仕方ない。


何をするにもまずは自分の状況を把握しなきゃいけない。 そもそも、ここはどこなんだ。俺の住んでた日本じゃないのは確かだ。 見覚えのあるものが何もない。人の気配もなければ、文字のひとつも見当たらない。 風景はきれいでのどかだけど、あまりにも情報がなさすぎる。


日差しはそれなりに強いけど、湿度は低くて風が気持ちいい。服の袖をめくると、うっすらと陽が当たっているのがわかる。日焼けとかも普通にするのかな、この世界。


少し離れたところに、なだらかな丘が見える。ここより少し高くなってるっぽい。


「あそこに登れば、何か見えるかもしれないな」


見晴らしのいい場所からなら、村とか、人の気配とか、何か手がかりになるものが見えるかもしれない。


目的地が決まったことで、ほんの少し背筋が伸びた。


「よーし、じゃあまずは……生き延びる、から、始めようか」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ