第62話 物欲探知機を滅ぼせ!
紫電のオーラに囲まれた荒野の闘技場にて。
パニックを起こして逃げ惑う悪魔達をレナがバッサバッサと斬り捨てていく。
赤いファンシーなアーマーを纏う彼女の手には、不思議な剣が握られていた。
その刀身は虹色に輝き、何体もの悪魔を斬り捨てたというのに何の汚れもない。
斬られた悪魔達は雑魚悪魔アバターから脱出すること叶わず、黒い血を流しながら苦しみ続けている。
「剣聖の魂を切り裂く魔法!?」
「何だと!?」
「なぜ剣聖が蘇っている!?」
「サタン! 契約はどうした!?」
仲間の惨状に異常を察知したのは事情通の悪魔達だ。
彼らはたまらずといった様子でチャコを担当しているはずの精霊。今もどこかから見ているはずの存在に対して叫んだ。
「問答無用です!」
「へへっ! そういう事だぜ!」
しかし、チャコ達にそんなことは関係ない。
彼女達は目的である古い悪魔もとい物欲センサーの撃波に全力だ。
逃げ惑う悪魔達はチャコの操る黒光りするアーマーによって逃げ場を失い、次々とレナの持つ虹光剣の餌食になっていくが……。
「ええい! 多少の想定外で無様な姿を見せるな!」
「だが、相手は剣聖だぞ!? こんなアバターで戦える相手ではない!」
次なる獲物に食らいつかんと振るわれた虹光の剣は、巨大なランスに食い込んだ。
無骨な盾がそれを払えば、現れたのはワニ顔の悪魔。
ウロコに覆われた屈強な肉体が、キバの金装飾が施された鎧に包まれていく。
他の悪魔とは違い全力を出せる専用アバターだ!
「ならば私が前に出る! 剣聖を知らぬ者は魔神級の強者であると想定しろ! 対魔神級戦闘用意!」
「りょ、了解! 同調詠唱! 用意! 4×2!」
「「「【上位火炎術式】」」」
「「「【上位氷結術式】」」」
相手は腐っても古い悪魔。
ワニ顔の悪魔の一喝によって統制を取り戻し、チャコの展開するアーマー群に対応し始める。
一部の悪魔達はまるで一つの生物のように動き始め、強烈な火炎と吹雪の二重奏を繰り出した。
「おいおい、魔神級だなんて、か弱い乙女にひどいことを言うじゃねぇか。サレオス!」
「全くその通りなのです!」
レナは迫り来る氷炎の嵐に対して……軽口を叩きながら踏み込んだ!
剣の一振りで嵐を消し去り、激しい打ち合いを演じながら魔将の名を叫ぶ。
散発的に放たれる炎球や氷弾は、チャコの操るアーマーが術者ごと跳ね飛ばしていく。
か弱い乙女とは一体……。
「ふんっ、あの戦場に、か弱い乙女など一人も居なかった。そうであろう? 剣聖。突撃ばかりだった貴様が変装して不意打ちとは、いやらしい腹芸を身につけおって」
「違いねぇな。あたしも色々とあったんだよ。色々とな」
つばぜり合いしながらの昔語りに対してレナが苦い顔で返せば、アバターをオーバーヒートさせた雑魚悪魔達がバタバタと落ちてきた。
しかし、彼らの犠牲により術式は完成する。
「「【極位火炎術式】」」
「「【極位氷結術式】」」
「極級術式を無理矢理使ったのです!?」
「てめぇ! サレオス!」
「言ったはずだ――」
荒野は白く凍り付いてゆき、空からは灼熱の炎が降ってくる。
両極端な現象に多重閉鎖された空間は震え、音もなく瞬いた。
「対魔神《格上相手》の戦術を使うと」
――衝撃。
相反するエネルギーの炸裂は荒野を白く染め上げた。
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過剰な想像力が青い霧となり周辺を染め上げている。
所々から聞こえてくる苦悶の叫びが、雑魚悪魔達の存在を伝えてくる。
「退避できていない、か。ッチ、盾は使い物にならんな」
その場に一人立つのはワニ顔の悪魔サレオス。
会心の罠が不発に終わったことに舌打ちした彼は、ボロボロの盾を放り捨てた。
既に形を維持できなくなっていた盾は形を失い。青いモヤにほどけて想像力に還っていく。
両手持ちされたランスの一振りは突風を引き起こし、霧を吹き飛ばした。
青光が奔る!
現れたのは水晶の騎士。凍えるような青光の装甲を纏った騎士が、瞬間冷凍された大地を蹴散らしながら目にも止まらぬ速度で突っ込んできた。
「お返しだ!」
「ぐっ! 化け物め!」
辛うじて受けたサレオスは、水晶の騎士に押し込まれていく。
クリスタルの装甲ごしに存在を主張するのは、レナの蒼く輝く眼!
「そらよっと! せい! アンジェみたいにはいかねぇな」
「貴様が青騎士の魔法を使うか!」
払い、打ち、突く。虹光の剣と水晶盾を超攻撃的に扱うレナ。彼女的には納得していないらしいコンビネーションは、盾を失っているサレオスを追い詰めていく。
「皆待ってるって言っただろ?」
「き、貴様……まさか!?」
水晶盾の裏に隠されていた黄色の魔法陣が瞬くと、光が溢れ、弾けた。
「借りるぜソフィア――【光輝の十字軍】」
「この距離で十字軍だと! ふ、ふざけるな! ぐわあああああ!」
たまらず回避したサレオスの半身には、無数の輝く十字架が突き立っていた。
回避された光も針みたいに小さな十字へと姿を変え整列。それぞれが意志を持つように悪魔へ進軍する。
「ぎゃああああ!」
「いだだだだ!」
「ちょ! こっちまで狙うんじゃないのです! レナ! レナ! ストップです!!」
輝く十字の軍勢は倒れ伏している雑魚悪魔達と、オマケに完全ガードを解こうと外部をチラ見していたチャコへ襲いかかった。彼女が身にまとう禍々しい黒のアーマーが悪魔と誤認されてしまったのかもしれない。
素早く完全ガードに戻ったチャコは、虫の息となっているサレオスに黄色い魔法陣をぐいぐい押しつけていたレナを止める。
「あっ、スマン茶々子。忘れて……。おっと、時間切れみたいだぜ」
先ほどまで暴れていた水晶の騎士と光の十字群は夢であったかのように消え去った。
「調子に乗って想像力を使いすぎです……」
「無茶苦茶しおって」
同時にサレオスもランスを取り落とし、大の字になって倒れる。
言い草の割に苦笑しているワニ顔の悪魔は青に染まった空を見上げ、満足げに目を閉じた。
「負けたか……。だが、これで良い。最悪のシナリオは消えた」
「……まーったく良くないのです! レナみたいに前衛役ができて、探索者学園にも付き合ってくれる子はぜんぜんいないのですよ!? どうしてくれるんですか!?」
クワッと目を見開いたチャコが叫ぶ。
どうやらレナは彼女的にはUR魔法少女だったらしい。
「おやおや、そろいもそろって皆さんお疲れ様ポン」
ギリギリギリと空の一部が割れると、混沌とした戦場跡にクリクリとした漆黒の目と鋭いキバを持った存在が具現化した。
チャコのパートナー、巨大ハムスターのポン太である。
「ポン太~! レナが調子に乗って自滅しちゃったのです! まだ一学期も終わってないのに!」
「あー、いないと思ったらやっぱりポン?」
泣きつくチャコをピンクの前足でポンポンと宥めたポン太は、漆黒の瞳をキラリと光らせて提案する。
「だったら僕に良い考えがあるポン」
「本当ですか!?」
今後の学園生活について困っていたチャコは、その提案に飛びついた。




